オートバックスがディーラー事業をM&Aするワケ

全国に500店舗以上を展開するカー用品販売大手のオートバックスセブンは、2020年以降、エリア再編で3社を売却した一方、12件のM&Aを実施した。現在の主力事業はFC店に対するカー用品の卸売である。だが乗用車の保有台数が頭打ちとなっているうえ、タイヤ・カーナビなどのカー用品販売の売上高は芳しくない。新たな収益源として自動車販売事業も強化する計画を立てており、近年のM&Aは事業転換を見据えたものと見られる。

カー用品の卸売が収益源

2024年3月期におけるオートバックスセブンの売上高は2299億円、営業利益は80.1億円である。海外事業やディーラー関連など4つの事業セグメントで構成されており、売上高1721億円の「国内オートバックス事業」が主力事業である。同期末時点で国内のオートバックス系店舗のうち98%がFC加盟店だ。国内事業はFC店への卸売とロイヤリティが収益源である。ちなみに海外事業の売上高は154億円と、全社に対して規模は小さい。

国内オートバックスFC店舗売上高は2815億円。内訳はそれぞれ次の通り。1991年から車検の取り扱いを開始し、2000年には中古車買取・販売の専門店を開業しているが、依然としてカー用品販売が主力である。

(1)中古品・燃料…47億円

(2)車検・整備…231億円

(3)車買取・販売…405億円

(4)カー用品…2131億円

市場環境は芳しくない

オートバックスを取り巻くカー用品市場は成長期が終わり、芳しくない状況だ。そもそも国内の自動車保有台数は乗用車が6200万台弱で頭打ちとなっており、商用車・二輪車との合計も8200万台で停滞しつつある。

カー用品販売の主軸であるタイヤも、近年の物価高やガソリン価格高騰による乗り控え、暖冬などの影響により販売額は減少し続けている。カーナビもスマホ利用や純正ディスプレイオーディオの搭載により、需要は減少している。特に「カーエレクトロニクス」の既存店売上高は4年連続で前年を下回り、2022年3月期、2023年3月期は前年比でそれぞれ16.0%減、11.6%減となっている。

そしてEV化によるカー用品市場への影響も不透明だ。EVの部品点数はガソリン車の半分以下であり、例えばエンジンオイルやマフラーが不要となる。商品構成の変更を迫られることだろう。

中古車販売事業では100拠点増を目指す

厳しい市場環境を乗り越えるべく、オートバックスは従来型のカー用品販売から多角化を進めている。2032年度の売上高5000億円という強気な目標を立てており、カー用品のほか、「車買取・販売」「車検・サービス」の売上高を大幅に伸ばす計画だ。

近年では中古車事業関連の動きが目立つ。中古車事業ではこれまでグループ内に限っていた車買取・販売の「オートバックスカーズ」のグループ外加盟を2024年4月から開始した。2030年までに100店舗増(2024年6月末で393店舗)を目指す。オートバックスが手がけることで、既存のカー用品販売との相乗効果を期待できるほか、整備目的で車を持ち込んだ客からの買い替えニーズに答えるなど、新たなシーズを提供できるメリットがあるという。 

近年のM&Aでは、自動車整備・ディーラーなどを買収

カー用品販売事業以外の強化、特に車買取・販売事業強化の姿勢はM&Aにも現れている。2010年代はエリア再編を目的とした店舗の事業譲渡やFC加盟店の買収が主だったが、2020年以降では自動車整備工場やディーラーのM&Aが目立つ。2020年以降の買収は12件。オートバックスつくばの子会社化などエリア再編による買収を除いた10件を分類すると次のようになる。

自動車整備・車検関連(3件)、ディーラー(3件)、カー用品の開発・販売(2件)、インフラ(IT、電気) (2件)。

自動車整備関連及びディーラーの買収が目立つ。2020年4月に買収した高森自動車整備工業、2021年4月に買収したTAインポート(Audi正規ディーラーを3拠点運営)に関して、いずれも顧客接点の拡大を目的としている。2024年8月に買収した中古車販売業のオトロンカーズに関しては、「重要な事業ドメインとしている中古車販売事業の競争力強化」を挙げている。

中古車のみならず新車販売拠点を増やそうとする動きもみられ、今年10月1日からはスタンダード市場に上場するホンダ系ディーラー、東葛ホールディングスのTOBを進めている。買収予定額は41.2億円。東葛HDは新車販売拠点9か所と中古車販売拠点2か所を運営している。買収に関してオートバックスは「販売拠点の拡充による自動車販売台数」、「人材面での強化」を挙げており、やはり自動車販売業を強化したい意図がある。カー用品販売から自動車販売事業へと幅を広げるオートバックス、ディーラーや整備業関連のM&Aを今後も継続しそうだ。

文:ライター 山口伸

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