【大塚HD】海外バイオベンチャー買収で新薬候補を獲得 特許切れをM&Aでカバー

大手製薬会社の大塚ホールディングス<4578>が、M&Aを活発化させている。この1年間に3件のM&Aを適時開示したのだ。

主要医薬品の特許切れによるマイナス影響をカバーするために新薬候補の開発、取得に力を入れてきており、今回のM&Aもこの取り組みの一環と言える。

2024年6月に公表した「第4次中期経営計画」では、新規技術を拡充する方法として、大学や公的研究機関、企業との提携と並んで、企業買収を方針に掲げている。

M&Aについては当面、積極的な状況が続くと見てよさそうだ。

新領域への挑戦で、持続的な成長を

大塚ホールディングスは2026年に業績が落ち込むとの予想を立てており、2026年12月期の売上高は2024年12月期予想比4.9%減の2兆2000億円、事業利益(売上高から売上原価、販管費、研究開発費を引き、持分法投資利益を加えた額)は同30.7%減の2700億円を見込む。金額にすると売上高は1150億円、事業利益は1200億円の減少となる。

この要因は、2023年12月期の決算で増収増益の要因となった主要製品である持続性抗精神病薬「エビリファイメンテナ」と、V2-受容体拮抗剤「ジンアーク」の特許切れにある。

同社では特許切れによるLOE(独占販売期間終了)のマイナス影響を売上高で3100億円と試算しており、これが2026年12月期の業績を押し下げるのだ。

ただ2026年12月期の落ち込み額が、予想するマイナス影響の額よりも少ないのは、これまでに、新薬の開発などで、LOEの影響を和らげ安定的な成長を継続することに注力してきたためで、今後もこの方針に変更はない。

第4次中期経営計画では、すでに第5次の中期経営計画を見据え、第4次中期経営計画期間中に新領域への挑戦を進め、持続的な成長の実現を目標に掲げている。

M&Aが活発化したのには、こうした背景があったのだ。では、そのM&Aとはどのようなものなのか。

バイオベンチャーを傘下に

直近のM&Aは、2024年8月1日に発表した米国の創薬企業のジュナナ・セラピューティクス(ボストン)の買収。

ジュナナは、腎臓でアミノ酸の再吸収を制御するたんぱく質に対する低分子阻害剤JNT-517を開発することに成功した企業。

JNT-517は治療の難しいPKU(フェニルケトン尿症)の治療手段として期待されており、フェーズ 1b/2 試験で有効性、忍容性(薬剤の副作用にどの程度耐えることができるかを表す指標)、安全性が確認されている新薬候補物質だ。

ジュナナは2017年設立で、2023年12月期の売上高は1983万4000ドル(約28億7500万円)、営業損益は5350万6000ドル(約77億5800万円)の赤字だった。

同社の買収に、大塚ホールディングスが支払うのは8億ドル(約1160億円)で、開発品の進捗に応じて最大3億2500万ドル(約471億2500万円)を追加で支払うという。

新薬開発への期待の大きさがうかがい知れる。

2023年9月に発表した次世代向精神薬の開発を手がけるカナダのマインドセットファーマ(トロント)の買収も、新薬候補を拡充するのが狙いだ。

同社は、治療抵抗性うつやPTSD(心的外傷後ストレス障害)などの治療に効果が見込まれる化合物を保有しており、開発に成功すれば精神・神経疾患領域で大きな革新をもたらすものと期待されている。

2019年設立のバイオベンチャーで、2022年6月期の売上高は391万カナダドル(約4億1800万円)、営業損益は1658万カナダドル(約17億7400万円)の赤字だった。

大塚ホールディングスは同社の買収に8500万カナダドル(約90億9500万円)を投じた。

女性の健康にも注力

もう1社は2023年11月に子会社化した女性向け健康食品を製造する米国のボナファイドヘルス(ニューヨーク州)。

同社は医薬品の開発会社ではないが、第4次中期経営計画の長期ビジョンの中で注力する社会課題の一つとして上げている「女性の健康」とかかわりがある。

ボナファイドヘルスは、加齢とともに複合化する女性の健康ニーズを長期的、持続的にサポートすることを重視しており、同社製品は科学的根拠があるとして、医療専門家にも支持されているという。

2022年6月期の売上高は5380万ドル(約78億円)で、営業損益は800万ドル(11億6000万円)の赤字だった。同社の取得価格は4億2500万ドル(約616億2500万円)だった。

大塚ホールディングスの沿革と2010年以降の主なM&A

事業利益は過去最高水準に

業績はLOEの影響で減収減益となる2026年12月期を除けば順調といえる。直近の2023年12月期は、売上高2兆185億6800万円(前年度比16.1%増)、事業利益(売上高から売上原価、販管費、研究開発費を引き、持分法投資利益を加えた額)は3125億5300万円(同78.7%増)の増収増益となった。

特許切れによる影響が懸念されている「エビリファイメンテナ」と「ジンアーク」のほか、抗精神病薬「レキサルティ」や抗悪性腫瘍剤「ロンサーフ」の主要4製品が好調に推移したほか、スポーツドリンクの「ポカリスエット」やサプリメントの「ネイチャーメイド」なども伸びた。

2024年12月期も医療関連事業の主要4製品やポカリスエット、ネイチャーメイドなどが引き続き好調に推移しており、2024年8月1日に通期の業績予想を上方修正した。

この結果、当初の売上高2兆1400万円(前年度比6.0%増)、事業利益3300億円(同5.6%増)の予想に対し、売上高は2兆3150億円(同14.7%増)、事業利益3900億円(同24.8%増)に高まった。

2028年12月期には売上高2兆5000億円、事業利益3900億円を予想する。現在開発中の新薬候補や傘下に収めた企業の新薬候補などの寄与や、ポカリスエット、ネイチャーメイドなどの伸長なども見込み、2028年12月期は2023年12月期比で約4800億円の増収を、事業利益は過去最高水準を達成する計画だ。

大塚ホールディングスにとってM&Aは成長戦略には欠かせない駒といえそうだ。

大塚ホールディングスの業績推移

2024/12は予想、2026/12、2028/12は計画

文:M&A Online記者 松本亮一

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