【すかいらーくHD】「資さんうどん」傘下ブランドに 残る投資枠でM&A積極推進も
ファミリーレストランが誕生して60年超。いまやバラエティに富んだ“ファミレス”が日本社会に溶け込んでいる。その老舗の一つが1962年4月に創業した、ことぶき食品有限会社。現在のすかいらーくホールディングス(HD)<3197>である。
「ガスト」や「バーミヤン」「ジョナサン」「夢庵」「ステーキガスト」など、現在28のブランドチェーン、2964店舗(海外を含む、2024年6月30日現在)を展開する。バブル崩壊後のデフレ不況下では収益が上がらず腐心の経営が続いたが、同社にとっては過去も、そして未来も、M&Aは成長の原動力の一つだった。
20超ものブランドを展開
「すかいらーく」の前身である、ことぶき食品は保谷市(現・西東京市)ひばりが丘団地で開業。その後、1970年に日本の“ファミレス”の先駆けとして、1号店の国立店(府中市)を出店。“創業の地”に由来して、澄みきった青空に向かって天高く羽ばたく“SKYLARK(ひばり)”を意味する「すかいらーく」と名付けた。
現在のすかいらーくHDのレストラン事業は、すかいらーくレストランツが運営する20のブランドと、ニラックスが運営する5つのブランド、トマトアンドアソシエイツの2ブランドとフロジャポンの「フロプレステージ」(区分上は「その他」事業)で構成されている。
その歴史を紐解くと、高度経済成長期、中核となる「すかいらーく」の “ファミレス”事業は拡大期に入った。1980年4月には、アメリカのコーヒーショップレストランがルーツで都市部を中心に店舗展開する「ジョナサン」(166店。以下、店舗数は2024年6月30日現在)が開店。1983年11月には本格的な和食レストランの「藍屋」(38店)、1986年4月に中華レストランの「バーミヤン」(358店)、1992年3月は洋食をリーズナブルな価格で提供する「ガスト」(1256店)を、1994年1月には季節や旬の食材でもてなす和食の「夢庵」(170店)を、次々にオープン。1982年1月、初の海外進出は台湾だった。
1987年10月には「FLO」で知られるフレンチのスイーツ・デリカの専門店「フロプレステージュ」ブランドのフロジャポンを設立。同年12月には新日鐵グループとの合弁で、ニラックス(東京都武蔵野市)を設立し、大型施設などで多目的なファミリーレストランの開発、運営に乗り出した(2003年4月に新日鐵グループから同社の全株式を取得。完全子会社化)。
店舗と同時に、1977年12月開設のセントラルキッチン東松山工場(埼玉県)を手始めに、関西工場(兵庫県西宮市)や群馬県には前橋工場とバーミヤン藤岡工場、北九州工場(福岡県)などと2003年までに全国展開に向けてMD(マーチャンダイジング)センターを整備。洋食・中華・和食の主力ブランドの開発と成長を下支えした。
消えた「すかいらーく」の看板
バブル崩壊後、景気が悪化するなか、すかいらーくは回転寿しの「魚屋路(ととやみち)」(1999年6月に1号店。21店)や、イタリアンレストランの「グラッチェガーデンズ」(2001年3月に1号店。11店)を新たに出店。また、03年11月にはガストが直営レストランとしては世界初の1000店舗を達成するなど、事業は順調に見えていた。
しかし、グループの売上高は伸びていたものの、収益状況は改善せず、経営は苦戦を強いられていた。こうしたタイミングで、すかいらーくは持ち帰り寿司の小僧寿しチェーンと業務提携(2005年)、その翌年に連結子会社化(2006~2012年)。2006年3月には、ファミリーレストラン「TOMATO&ONION」と、食べ放題の焼肉専門店の「じゅうじゅうカルビ」を運営するトマトアンドアソシエイツ(兵庫県西宮市)を、グループの傘下に置いた。
最大の転機は2006年6月8日。すかいらーくは事業再生のため、創業家を含む経営陣が野村プリンシパル・ファイナンスと英投資会社のCVCキャピタル・パートナーズがSPC(特別目的会社)と組んで、MBO(経営陣による買収)による上場廃止を発表する。
じっくり中長期的な視点で経営戦略を実行する狙いがあるとされ、同時に上場廃止後の中期経営計画(09年12月期までの3か年間)で掲げた売上高1兆円の目標達成のため、約400店におよぶ店舗閉鎖と約500店の業態転換とリニューアル、M&Aの積極化など、ドラスティックな改革の実現に向け、MBOが必要だったようだ。
〇すかいらーくHDの主な沿革(MBO実施まで)
1962年4月 | 前身の、ことぶき食品有限会社(現・東京都西東京市)を設立 | ||||||||||
1969年7月 | 有限会社から株式会社ことぶき食品に組織変更 | ||||||||||
1970年7月 | 東京都府中市にファミリーレストラン「すかいらーく」1号店(国立店)を出店 | ||||||||||
1974年11月 | ことぶき食品からすかいらーくに商号変更 | ||||||||||
1977年12月 | 埼玉県東松山市にセントラルキッチン東松山工場(現・東松山MDセンター)を開設 | ||||||||||
1978年7月 | 東京証券取引所 店頭市場に株式公開 | ||||||||||
1979年8月 | トマトアンドアソシエイツ(兵庫県西宮市)が「TOMATO&ONION」1号店(創業店)をオープン | ||||||||||
1980年4月 | 「ジョナサン」1号店(東京都・練馬高松店)をオープン | ||||||||||
1982年1月 | 台湾FC1号店を出店(現・雲雀國際股份有限公司の前身) | ||||||||||
1982年8月 | 東京証券取引所 市場第二部に株式を上場 | ||||||||||
1983年11月 | 「藍屋」1号店(埼玉県・与野バイパス店)をオープン | ||||||||||
1984年6月 | 東京証券取引所 市場第一部に指定 | ||||||||||
1986年4月 | 「バーミヤン」1号店(東京都町田市・鶴川店)をオープン | ||||||||||
1987年3月 | 兵庫県西宮市に関西工場(現・西宮MDセンター)を開設 | ||||||||||
1987年10月 | フランス料理店運営会社としてフロジャポン(東京都武蔵野市)を設立 | ||||||||||
1987年12月 | 新日鐵グループとの合弁でニラックス(東京都武蔵野市)を設立 | ||||||||||
1988年7月 | 群馬県前橋市に前橋工場を開設 | ||||||||||
1991年5月 | 群馬県藤岡市にバーミヤン藤岡工場(現・藤岡MDセンター)を開設 | ||||||||||
1992年3月 | 「ガスト」1号店(東京都・小平店)をオープン | ||||||||||
1994年1月 | 「夢庵」1号店(神奈川県川崎市・新百合ヶ丘店)をオープン | ||||||||||
1998年12月 | トマトアンドアソシエイツが兵庫県伊丹市に「じゅうじゅうカルビ」1号店(伊丹堀池店)をオープン | ||||||||||
1999年6月 | 「魚屋路(ととやみち)」1号店(東京都・練馬春日町店)オープン | ||||||||||
2001年1月 | 「Sガスト」1号店(東京都・赤坂店)をオープン | ||||||||||
2001年3月 | 「グラッチェガーデンズ」1号店(埼玉県・大宮大和田店)をオープン | ||||||||||
2003年4月 | 大型商業施設内のブッフェレストランやフードコート、給食事業のニラックス(東京都武蔵野市)を100%子会社化 | ||||||||||
2006年3月 | レストランチェーン「TOMATO&ONION」、焼肉レストラン「じゅうじゅうカルビ」経営のトマトアンドアソシエイツを子会社化 | ||||||||||
2006年6月 | MBOの実施を発表 | ||||||||||
2006年9月 | 東京証券取引所 市場第一部の上場を廃止 |
持ち株会社体制の移行で業態転換に加速!
MBO以降のすかいらーくは、ブランドの業態転換とともにあった。ファミリーレストランだけでない、多彩な飲食の業態への展開や、地域密着型のレストランや素材を重視したレストラン、顧客ニーズを的確にとらえたトレンドに乗ったレストランなどを展開することで業績のV字回復を図る方針に転換。創業期から39年にわたり中核ブランドであった「すかいらーく」を、2009年10月、川口新郷店(埼玉県川口市)を最後にすべて閉店。デフレ経済の浸透により消費者の意識が低価格メニューにシフトしたことを受けて、低価格帯のガストを軸足とする、思い切った業態戦略に舵を切る。
さらに、バーミヤンやジョナサン、夢庵、グラッチェガーデンズなどをテコ入れ。既存店のリニューアルに加え、徹底した効率化を促進。メニューの絞り込みや、ガストには外食業界で初めてドリンクバーを設置するなど、エンタテインメント性の要素も取り込み集客力アップに努めた。
2007年5月には食べ放題のしゃぶしゃぶ専門店の「しゃぶ葉」(290店)、10年3月にはステーキとハンバーグの専門店「ステーキガスト」(83店)を出店。多様な業態と店舗数の急拡大でブランドの地盤を固めていった。
こうした戦略の成果が現れたのは、MBOから8年後のこと。すかいらーくはV字回復を果たし、2014年10月10日、東京証券取引所市場第1部(現プライム市場)に再上場し、新たなスタートを切った。
さらに2016年1月、グループ全体の意思決定の集中や、グループ企業がそれぞれの事業に注力しやすく、またM&Aをスムーズに進めやすい「持ち株会社」体制に移行。変化し続ける顧客ニーズに対応しながら、さまざまな有力ブランドの開発と成長を目指した。
業態転換に加速がつき、同年6月、とんかつとから揚げの専門店「とんから亭」(33店)を出店。翌年6月には本場ハワイのロコフードやパンケーキなどの「La Ohana(ラ・オハナ)」(22店)と、こだわりのから揚げを提供する「から好し」(56店、10月)がオープン。その後も続々と新たな業態と店舗数を増やしているほか、コロナ禍の外出自粛で客足が遠のくと、2020年11月からは楽天市場とAmazonで通信販売事業をスタート。現在は、両社にすかいらーくアプリや自社サイトに加え、Yahoo!ショッピング、auPAYマーケット、dショッピングで販売している。
ちなみに、すかいらーくから、持ち株会社のすかいらーくホールディングスに社名変更したのは、2018年7月だった。
〇MBO実施以降のすかいらーくHDの主な沿革
2007年5月 | 「しゃぶ葉」1号店(神奈川県・横浜店)をオープン | ||||||||||
2009年10月 | ファミリーレストラン・ブランド「すかいらーく」を、すべて閉店(最終店舗は埼玉県・川口新郷店) | ||||||||||
2010年3月 | 「ステーキガスト」1号店(神奈川県・大和店)オープン | ||||||||||
2014年10月 | 株式会社すかいらーく、東京証券取引所市場第一部に上場 | ||||||||||
2015年3月 | 「むさしの森珈琲」1号店(神奈川県横浜市・六ッ川店)オープン | ||||||||||
2015年4月 | いろどり和菜「三○三(みわみ)」1号店(埼玉県・ららぽーと富士見店)オープン | ||||||||||
2015年4月 | 和ごはんとカフェ「chawan」1号店(東京都・ららぽーとTOKYO-BAY店)をオープン | ||||||||||
2015年5月 | 台湾に「しゃぶ葉」1号店(板橋遠百中山店)をオープン | ||||||||||
2015年9月 | 東京都調布市に「ゆめあん食堂」1号店(東京都・調布駅北口店)をオープン | ||||||||||
2016年1月 | 持ち株会社体制に移行 | ||||||||||
2016年6月 | 「とんから亭」1号店(埼玉県・草加柳島店)をオープン | ||||||||||
2016年8月 | 「かつ久」1号店(神奈川県・大和鶴間店)をオープン | ||||||||||
2017年6月 | 「La Ohana」1号店(神奈川県・横浜本牧店)オープン | ||||||||||
2017年10月 | 「から好し」1号店(埼玉県・さいたま道祖土店)オープン | ||||||||||
2018年7月 | 株式会社すかいらーくから株式会社すかいらーくホールディングスに社名変更 | ||||||||||
2022年4月 | 東京証券取引所の市場区分の見直しにより、市場第一部からプライム市場へ移行 | ||||||||||
2023年1月 | 「八郎そば」1号店(埼玉県・白岡店)をオープン | ||||||||||
2023年2月 | 飲茶TERRACE「桃菜」1号店(東京都町田市・鶴川店)をオープン | ||||||||||
2024年9月 | 福岡県北九州市のうどんチェーン「資(すけ)さん」の全株式をユニゾン・キャピタルから取得し、子会社化 |
「資さん」うどんを買収 M&Aに500億円を投入
そうした中で、すかいらーくHDが再びM&Aを積極化している。その第1弾として、福岡県北九州市のうどん店チェーンの「資(すけ)さんうどん」を運営する資さんを買収。同社の全株式を、国内投資ファンドのユニゾン・キャピタル(東京都千代田区)などから取得。2024年10月、子会社化する。9月6日の取締役会で決議したと発表した。買収額は240億円程度を見込んでいる。
「資さんうどん」は1980年創業。北九州のソウルフードとしてのブランドを確立。九州各県と山口県、岡山県、兵庫県、大阪府に70店超を展開。2018年にユニゾン・キャピタル傘下に入り、出店を加速してきた。2024年冬には関東への出店も計画しており、今後の事業拡大のための資金や人材などが必要。すかいらーくは資金や人材面などで、「資さんブランド」の全国展開を支援する。
すかいらーくHDは、自社のホームページで「M&A推進」について、KPI(重要業績評価指標)を公表している。2023年12月期実績のゼロ件から、今後3年間(27年12月期予想)に3~5件を目標としている。
M&Aの対象は、①出店拡大のための経営資源を必要としている既存の飲食店チェーン②優良なコンセプトを有して事業拡大を検討しているスタートアップ外食企業③すかいらーくのインフラを活用することで事業規模や事業効率を高められる配食事業や中食事業者など。すかいらーくが有する全国3000店のインフラを活用した多店舗展開のサポートと、豊富な人材と人材育成プログラム、事業資金、セントラルキッチンや配送網、安価で良質な食材の活用、ビッグデータを活用したマーケティングノウハウなどの提供で、「双方がwin-winとなる関係を構築する方針」のもと、積極的に検討を進めていくという。
資さん買収後も、投資枠には約260億円残る。2027年12月期までにまだまだ積極的なM&Aが行われそうだ。
文・髙橋べん(ライター)
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10/10 06:30
M&A Online