金額で昨年の7倍 「人材獲得型」買収が引っ張るIT業界のM&A

2024年のIT・ソフトウエア業界のM&Aが11月11日時点で早くも取引価額が過去5年間で最高を更新した。DX(デジタルトランスフォーメーション)やAI(人工知能)などの旺盛な投資需要に対応するためだが、最も大きな要因は「人材不足」という。

前年比で件数減も、金額は約6倍に

東証適時開示で発表された同業界の企業を対象とする2024年11月11日までのM&A件数は159件。前年の184件に迫りつつ、取引総額は2兆4283億円と、すでに過去5年間で最高だった2021年の2兆2451億円を上回っている。取引総額では前年比で約6倍に達した。年末までには、さらに上積みがありそうだ。

取引金額の最高額はルネサスエレクトロニクス<6723>が、米半導体ソフト大手「アルティウム」を買収した8897億円。これを含めて1000億円を超える大型案件が4件あった(経営権が移動しないグループ内TOBの1件を除く)。これは前年の1件(1049億円)の4倍だ。


ITエンジニア不足を受けて「人を買う」M&Aが活発化

M&Aには大きく分けて、業容を拡大するための「規模拡大型」、新規参入や研究開発の期間を短縮するための「時間短縮型」、他社の人材を取り込むための「人材獲得型」の三つがある。IT・ソフトウエア業界でニーズが高いのが「人材獲得型」M&Aだ。

今年の「人材獲得型」M&Aの最たるものは取引総額3位のSCSK<9719>が3574億円でTOB(株式公開買い付け)を実施してネットワンシステムズ<7518>を完全子会社化する案件だ。システム開発全体を統括する「川上」工程の人材確保を狙ったという。2026年4月の経営統合も視野に入れる。

NEC<6701>は株式の51.49%を保有する上場子会社のNECネッツエスアイ<1973>を2354億円*のTOBで完全子会社化し、グループ内でエンジニアの有効活用を図る。TOBが成立すれば、売上規模は5000億円を超え、従業員1万人以上、取引顧客数が延べ2万社以上と、SIer業界大手の地位が固まる。

同7位のNTTデータグループ<9613>がソフト開発のジャステック<9717>を342億円のTOBで子会社化するのも、同じ理由だ。エンジニア人材の獲得競争が激しさを増す中、長年のビジネスパートナーであるジャステックを傘下に取り込み、堅調な需要環境にある国内ITサービス市場での競争力強化につなげるのが狙い。

少子高齢化で労働力不足に悩まされているのはどの業界も同じだが、IT・ソフトウェア業界では深刻なエンジニア不足で人材確保が急務となっており、大型M&Aが続いているようだ。求人・転職情報サイトのdoda(デューダ)によると、2024年9月の転職求人倍率は「IT・通信」が7.63倍と、全業績平均の2.86倍と大きく上回っている。今後も同業界で「人材獲得型」M&Aが活発化するのは間違いない。

*経営権が移動しないグループ内TOBなので取引総額ランキング対象外

文:糸永正行編集委員

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