【7月M&Aサマリー】74件で好調の前年と同数│調剤大手のアインがFrancfranc買収、早くも次のM&A視野か

7月のM&A(適時開示ベース)は74件で好調だった前年同月と同数。ただし、1~7月累計は681件で前年の575件を大きく上回っておりハイペースが続いている。金額は2622億円で前年同月の1570億円を上回ったものの、全体に取引サイズは小さく、10億円以上の案件は6件にとどまった。上場企業に義務付けられている適時開示情報のうち、経営権の移転を伴うM&A(グループ内再編は除く)について、M&A Onlineが集計した。

横浜ゴムが生産財車両向けでビジネス拡大へ

金額トップは世界トップ10に名をつられるタイヤメーカー同士の案件。横浜ゴムが米国タイヤメーカー大手のザ・グッドイヤー・タイヤ・アンド・ラバー・カンパニー(オハイオ州アクロン)から鉱山・建設機械用タイヤ事業を取得すると発表した。買収額は約1424億円。

横浜ゴムは、2020年度までの旧中期経営計画で、農業・林業用、産業・港湾車両などの「生産財」向けのオフハイウェイタイヤ(OHT)事業を成長ドライバーと設定。2016年に買収した農業機械用タイヤを手がけるオランダのアライアンス・タイヤ・グループの成長の高さから、同事業へ注力し、2022年にもスウェーデンの農業機械用タイヤメーカーのトレルボルグ・ホイール・システムズを買収している。

OHTは約4兆円市場。このうち40%を占める農業・林業用車両向けの世界シェアは1位、25%を占める産業・港湾車両向けは世界2位をマーク。今回の事業買収で残る35%の建設用・鉱山用車両向けのビジネスを拡大させたい考え。大型タイヤを製造するオーストラリアのグッドイヤー・アースムーバーと、日本子会社の日本ジャイアントタイヤが横浜ゴム傘下に入る。

2026年度までの現中計でM&Aの予算枠は超過しているが、大小合わせたM&Aを継続的に行う「プログラマティックM&A」を経営戦略のひとつに掲げており、OHT事業での買収が続くか注視される。

調剤薬局大手がインテリア・雑貨販売のFrancfranc買収

金額2位は調剤薬局大手のアインホールディングスがインテリア・雑貨販売のFrancfrancを買収する案件。金額は約499億円。

アインはコスメ商品を主体に医薬品も扱うビューティーショップ「アインズ&トルぺ」を80店舗超展開。160店舗を展開する「Francfrac」店舗と出店エリア、顧客層が似通っており、相互補完により、アインズ&トルぺを軸にしたリテール事業の強化が可能と見て買収に動いた。PB商品の開発や新業態の展開も検討していくという。

また、一般的なドラッグストアの営業利益率は約4%と高くはないが、アインズ&トルぺは、商品構成の約9割をコスメ主体とし約10%の営業利益率を持っており、新たな事業への期待も高い。

アインは、7月31日に公表した有価証券報告書で「他のドラッグストアとの差別化を図り、親和性の高い業態のM&Aも検討する」としており、早くもFrancfrancに続く業容拡大のM&Aも視野に入れているようだ。

資本効率の改善目的の案件が7月も

金額3位はアドバンテッジパートナーズ傘下のファンドが古河電池をTOB(株式公開買い付け)で子会社化する案件。買付代金は約195億円で、TOB成立後の古河電池による自己株取得を含めた取得総額は約382億円。

古河電池の株式57.3%を所有する親会社、古河電気工業の資本構成の見直しが発端。長らく業績が伸び悩むなかで、2020年から検討を開始。古河電池の買収に関心を示したアドバンテッジパートナーズ、東京センチュリー傘下のファンドとの対話が進む中で案件が動いた。

古河電工は「古河電池に経営資源を重点配分しても、期待するほどの企業価値向上につながらない」として、全株放出を決定。一連の取引完了後も、古河電工は公開買い付けの親会社の株式を20%所有するため縁が切れるわけではないが、影響力は弱まる。

こうした親会社などが資本効率の改善を目的とした数百億円規模のM&Aがこのところ続いている。

5月はロジスティードがアルプス物流をTOBで子会社化を発表。筆頭株主アルプスで48.74%所有留守アルプスアルパインが全株を放出(8月中旬開始予定のTOB成立後に20%再出資予定)する。

6月は三菱電機が物流子会社の三菱電機ロジスティクス株式66.6%をセイノーホールディングスに売却(三菱電機が残りを所有)し経営権を譲る。同じく6月に米プライベートエクイティファンドのブラックストーンが帝人の子会社、インフォコムをTOBで買収、TOB後の自社株買いで帝人は保有株をすべて売却すると発表している。

資本効率や資本コストを意識した経営の重要性が年々高まっていく中で生じた案件であり、同様のケースが今後も積み重なると予測される。

◎7月M&A:金額上位(10億円以上)

横浜ゴム 米国グッドイヤーから鉱山・建設機械用タイヤ事業を取得 1424億円
アインホールディングス インテリア・雑貨店のFrancfrancを子会社化 499.7億円
古河電池 アドバンテッジパートナーズのTOBを受け入れ 382.6億円
燦ホールディングス 「家族葬のファミーユ」を展開する、きずなホールディングスをTOBで子会社化 149.8億円
J.フロントリテイリング 「大丸心斎橋店南館」建物を保有する心斎橋共同センタービルディングを子会社化 83.9億円
プラスアルファ・コンサルティング シフト・勤怠管理クラウドサービス提供のオーエムネットワークを子会社化 17.2億円

文・M&A Online副編集長 大澤昌弘

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