【6月M&Aサマリー】86件で過去10年で最多、「めちゃコミ」のインフォコムが米ブラックストーン傘下へ
2024年6月のM&A件数(適時開示ベース)は86件と前年同月を34件上回り、6月単月では過去10年で最多となった。前年同月を上回るのは9カ月連続。取引金額は1000億円超の大型案件が2つ出たことで7019億円(公表分を集計)まで伸びた。また、2024年上半期を終えた段階で、累計件数は前年同期よりも103件多い604件とM&Aが活発に利用されていることが分かる。
上場企業に義務づけられた適時開示情報のうち経営権の移転を伴うM&A(グループ内再編は除く)について、M&A Onlineが集計した。
コンテンツIPに絡む案件は今後も注目
6月はコンテンツIPに絡むM&Aが金額上位にランクインしたほか、先月に続き大型物流案件も発表された。
金額トップは、米投資会社のブラックストーンがインフォコム<4348>をTOBで子会社化する案件で、金額は2757億円。
発端はインフォコム親会社、帝人の業績停滞。インフォコムは帝人の子会社としてシステム開発を受託する関係にあったが、帝人<3401>がシナジーを見直し、事業の選択と集中によりインフォコム株の売却に動いた。
インフォコムはシステム開発を含むITサービス事業と電子コミック事業の2つが柱。このうち業績をけん引してきたのは電子コミック配信サイト「めちゃコミック」を手がける電子コミック事業で、ITサービス事業は伸び悩んでいる。M&Aで注目されたのも電子コミックで、買収候補には13社が手を上げたという。
TOBで買付け主体となるブラックストーンの投資先には、多くのデジタルコンテンツ企業を傘下に持つCandle Mediaがある。同社を基点に「めちゃコミ」の米国などの海外展開が推進されることになりそうだ。
また、コンテンツIP関連では、サイバーエージェント<4751>が「刀剣乱舞」などのゲーム・アニメ事業を展開するニトロプラスの買収も耳目を集めた。金額は167億円で5位にランクインしている。
YouTubeやネットフリックスを始めとした新勢力の台頭により、メディアのビジネス構造は大きな転換点を迎えており、国内外でコンテンツIPを求める動きは活発化している。
コロナ禍で注目される健康食品
金額2位はキリンホールディングス<2503>がファンケル<4921>をTOBで子会社化する案件。金額は2207億円。キリンはビール、医薬に続く第3の事業としてヘルスサイエンス事業に注力している。医と食をつなぐ中間的な事業で、プラズマ乳酸菌やヒトミルクオリゴ糖などの素材を活用した商品展開を目指す。
この事業の拡大のためにキリンは化粧品、健康食品を手がけるファンケルの買収に動いた。スキンケア商品へアプローチするとともに、ファンケルの健康食品の海外展開を図る予定だ。
それを進めるうえで重要なキーになるのが、キリンが2023年に買収したオーストラリアの健康食品メーカーブラックモアズ。同社が持つ豪州、中国、東南アジア、インドの販路を活用する。プラズマ乳酸菌などの素材を活用した新商品を巨大な販路に乗せて業績拡大を狙う。
健康食品はコロナ禍によって世界的に伸びている市場で、医薬品、食品メーカーが買収を盛んに行っており、引き続き注目しておきたい。
大型物流案件が今月も
金額3位はセイノーホールディングス<9076>が三菱電機ロジスティクス株式の66.6%を取得し子会社化する案件。取引金額は572億円。
「エレクトロニクス・ソリューション事業」と銘打ち、電子部品、半導体部品の物流に力を入れるセイノーと、2021年から物流事業の見直し進めていた三菱電機ロジを傘下に持つ三菱電機のニーズがマッチした。
資本効率の改善の観点から、物流事業の放出を決めたM&Aは多く、5月にも旧日立物流のロジスティードがアルプス物流<9055>を買収する案件が発表。アルプス物流を持ち分法適用関連会社化していたアルプス・アルパインが株式の放出を決めている。
物流業界には、ドライバーの残業規制が適用される「2024年問題」も未だ根強く残っており、まだまだM&A案件が発生しそうだ。
◎6月M&A:金額上位
1 | インフォコム | 米ブラックストーンが「めちゃコミ」運営のインフォコムをTOBで非公開化 | 2757.6億円 |
2 | キリンホールディングス | 健康食品・化粧品のファンケルをTOBで子会社化 | 2207億円 |
3 | セイノーホールディングス | 三菱電機傘下の三菱電機ロジスティクスを取得 | 572.7億円 |
4 | 永谷園ホールディングス | 丸の内キャピタル出資先の投資ファンドと組み、MBOで株式非公開化へ | 485.9億円 |
5 | サイバーエージェント | 「刀剣乱舞」などのゲーム・アニメ事業を手がけるニトロプラスを子会社化 | 167億円 |
6 | 三井松島ホールディングス | 事業者向け不動産担保融資のエム・アール・エフを子会社化 | 113.2億円 |
7 | ローツェ | 半導体製造装置メーカーの米国Nanoverse Technologiesを子会社化 | 111.8億円 |
8 | NCホールディングス | 米投資ファンドのMIRI、NCホールディングスをTOBで非公開化 | 71億円 |
9 | GENDA | カラオケ機器レンタル・販売などの音通をTOBで子会社化 | 67億円 |
10 | 前田工繊 | 三井化学傘下で土木・建築資材メーカーの三井化学産資を子会社化 | 56.1億円 |
11 | ロート製薬 | オーストリア医薬品・医療機器メーカーのモノケムファームを子会社化 | 51億円 |
12 | GENDA | ゲームコーナー運営の米Claw Holdingsを子会社化 | 48.6億円 |
13 | LITALICO | 障害者支援事業を手がける米国DDCNを子会社化 | 46.3億円 |
14 | 柿安本店 | 創業家の資産管理会社を完全子会社化して自社株を取得 | 26.2億円 |
15 | アルフレッサホールディングス | インテージホールディングス傘下企業からCRO事業を取得 | 25億円 |
文:M&A Online副編集長 大澤昌弘
関連記事はこちら
・【業界研究】テレビ局のM&A、最新動向から今後の見通しを解説
・【業界研究】「2024年問題」に揺れるトラック運送業界のM&A 買い手の注目ポイントなど解説
07/02 06:30
M&A Online