【5月M&Aサマリー】108件で前年29件上回る 「2024年問題」背景の物流案件が上位続出

2024年5月のM&A件数(適時開示ベース)は108件と前年同月を29件上回り、5月単月では過去10年で最多となった。取引金額は1000億円超の案件が複数出たことで7156億円(公表分を集計)まで伸長。金額トップ10のうち、物流会社のM&Aが3件ランクインしたのが特徴で、ドライバーの残業規制が適用され、物流がタイトになる「2024年問題」を背景にしたM&Aが続出した。

上場企業に義務づけられた適時開示情報のうち経営権の移転を伴うM&A(グループ内再編は除く)について、M&A Onlineが集計した。

ニッチな腎疾患領域で勝負をかける旭化成

金額トップは、旭化成がスウェーデンの製薬企業、カリディタス・セラピューティクスを買収する案件で、金額は約1739億円。

旭化成はマテリアル、住宅に次ぐ、第3の柱としてヘルスケアを掲げており、腎臓疾患の治療薬「タルペーヨ」を扱うカリディタスの買収で事業強化を図る。

旭化成は腎移植手術患者向けの免疫抑制剤を扱う米ベロキシスを2019年に買収しており、カリディタスを傘下に迎えて、腎臓領域でのビジネスの幅を広げたい考え。腎臓領域はニッチで競合が少ないことから、有効なM&Aになると判断した。

C&Fロジホールディングスの争奪戦に

金額2位は、佐川急便を傘下に持つSGホールディングスが、低温物流を得意とするC&FロジホールディングスをTOBで子会社化する案件。金額は1237億円。

C&Fをめぐっては、同業のAZ-COM丸和ホールディングスが3月に同意なきTOBを発表。AZ-COMの買収提案を検討する過程で、C&Fは4月にAZ-COMとは別に複数の買い手候補がいることを公表していた。

買い手候補で有望な提案を行ったのがSGで、同社は5月31日に正式に対抗TOBを発表。買付価格もAZ-COM丸和が提示する1株3000円を大きく上回る5740円で、C&FもSGのTOBに賛同しており、株主へ応募推奨をしている。

C&Fの買収に動いたSGは、物流の2024年問題を背景にかねてから連携すべきパートナーを模索。さらにC&Fを傘下に迎えることで、課題となっていた低温物流が強化できることから、SGにとって悲願の案件となりそうだ。

アルプスアルパインの業績低迷がTOBに発展

金額3位も物流関連。旧日立物流のロジスティードが、アルプス物流をTOBで子会社化する。金額は約1051億円。

アルプス物流を持ち分法適用会社とするアルプスアルパインが経営指標や業績の改善に向け、一部持ち株の放出を模索。入札形式で買い手候補が選別される中で、ロジスティードが選ばれ、TOBを実施することとなった。

ロジスティードはアルプス物流が強みを持つ、電子部品物流のノウハウ獲得が目的。アルプス物流も東日本中心の配送網から、ロジスティードの西日本・九州エリアの拠点活用が可能となる。さらに、共同配送による積載率の改善といった2024年問題の緩和につなげる効果も両社が見込む。

買い手は多数、物流再編続くか

このほか、トップ10内にエスライングループ本社がMBO(経営陣による買収)で株式を非公開化する案件が9位にランクイン(約140億円)。2024年問題を背景としたトラックドライバーの不足を理由のひとつに挙げ、短期的な収益や株価にとらわれることなく抜本的な改革が必要であると判断。同社の山口嘉彦社長の資産管理会社がTOBを行い、株式非公開化を目指す。

エスライングループ本社が選んだのは株式非公開化の道。だが、売り案件となればすぐに買い手がつきそうなのが物流業界の今の現状だ。

C&FのTOBをめぐって、C&Fは初期提案段階で買い手候補が事業会社、ファンドを合わせて9社いたことを公表している。アルプス物流も、複数候補がいたことを明かしており、2024年問題を背景にして、買いニーズは非常に強い。M&A案件がいつ出てもおかしくはなさそうだ。

◎5月M&A:金額上位

1 旭化成 スウェーデンの製薬企業カリディタス・セラピューティクスをTOBで子会社化 1739.9億円
2 SGホールディングス C&Fロジホールディングスを対抗TOBで子会社化へ 1237.3億円
3 アルプス物流 米KKR傘下のロジスティードによるTOBを受け入れ、株式非公開化 1051.5億円
4 日本KFCホールディングス 米投資ファンドのカーライル・グループによるTOBを受け入れ、株式非公開化 945.5億円
5 日本ハウズイング 米ゴールドマン・サックスと組みMBOで株式非公開化 769.4億円
6 アイロムグループ 米ブラックストーンと組んでMBOで株式非公開化 292.6億円
7 三菱マテリアル ドイツのタングステン製品メーカー「H.C.スタルク」を子会社化 210億円
8 RS Technologies ランプ事業などのヘリオステクノホールディングをTOBで子会社化 149.7億円
9 エスライングループ本社 MBOで株式を非公開化 140.9億円
10 日機装 CRRT事業のドイツ・中国子会社をシンガポール社に譲渡 74億円
11 SRSホールディングス すしチェーン「うまい鮨勘」運営のアミノを子会社化 65.2億円
12 ジャパンフーズ 丸紅系投資会社アイ・シグマ・キャピタルによるTOBで株式非公開化 61.1億円
13 G-7ホールディングス エルアイイーエイチ傘下で「業務スーパー」フランチャイズ展開のボン・サンテを子会社化 56億円
14 TBSホールディングス シニア向け通販のライトアップショッピングクラブを朝日新聞社に譲渡 47億円
15 歯愛メディカル セブン&アイ・ホールディングス傘下で通販大手のニッセンホールディングスを子会社化 41.9億円

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