【コメ兵ホールディングス】国内外のリユース市場拡大にらみ、積極的なM&A展開へ
宝石や貴金属、時計・カメラ、バッグ、衣料・着物などの中古ブランド品の売買を手がけるコメ兵ホールディングス<2780>が、国内外のリユース市場の拡大をにらみ、積極的にM&Aを展開している。2024年は立て続けにM&A案件を発表しており、国内外で高い成長が見込まれている中古ブランド品のリユース市場へ事業を拡大させている。
創業80周年の2028年3月期、売上高2500億円目指す
コメ兵HDは、将来的なグループVISION「ブランドリユース売上高 世界No.1」を掲げている。リユース業界は現在、SDGs(持続可能な開発目標)やESG投資などのサステナブルな社会に向けた価値観の高まりで、消費者ニーズが高まっている。これらは同社にとって、“追い風”だ。
その半面、資源価格の高騰や為替相場の急激な変動、ウクライナや中東をめぐる世界情勢の悪化などに伴う影響や、新規参入企業の増加や業界再編によるM&Aなどによって資本力のある企業を中心にビジネスの規模が拡大。またサービス分野や、EC(電子商取引)や出張買取、宅配、越境、質店などのチャネルの多様化で、消費者の獲得競争が激化して厳しい経営環境に置かれてもいる。
こうしたなか、コメ兵HDは2024年5月、創業80周年を迎える2028年3月期までを一つの節目として、90周年、100周年に向けた継続的な成長につなげていくことを目的とした中期経営計画「Beyond the 80th year milestone」を策定。基本方針に、「事業成長の実現」「サステナビリティ経営の深化」「資本コストを意識した経営の推進」を掲げた。同社は持続的な事業成長による国内外でのシェア拡大を実現することで、競争力の強化と企業価値の向上に努めるとしている。
計画の最終年度にあたる2028年3月期の売上高で2500億円、営業利益150億円が目標。24年3月期と比べて売上高、営業利益とも約2倍に引き上げる。その達成に向けて、コメ兵HDグループは主力事業であるブランド・ファッション事業でのトップシェアを確保し、総流通量の拡大を図ることで中長期的な収益力の強化を目指している。新規出店や個人の買取・販売、法人向けオークション事業、海外事業、商品管理機能やECをそれぞれ強化する戦略で、これらにM&Aを積極的に活用していく考えだ。
コロナ禍前の2年間で5社のM&Aを実施
現在、コメ兵HDは傘下に、国内のブランド・ファッション事業として「コメ兵」「KOMEHYOオークション」「イヴコーポレーション」「シェルマン」「K-ブランドオフ」「セルビー」の6社と、自動車関連のタイヤ・ホイール事業として「クラフト」「オートパーツジャパン」「フォーバイフォーエンジニアリングサービス」の3社を置く。他に特例子会社の「コメヒョウルークス」がある(24年6月末時点)。
コメ兵HDのM&Aを紐解いていく。
1947年、コメ兵は創業者の石原大二氏が愛知県半田市で衣類の行商から興した。約5坪の小さな古着屋「米兵商店」として名古屋市中区大須に出店。戦後のモノ不足の時代に古着のニーズは高く、面白いように売れたことが出店につながったという。
1951年4月、「合資会社 米兵」を設立。高度経済成長に入り、人々の生活水準の向上とともに宝飾品やカメラ、時計と取扱品目を拡大すると、1960年以降は家電を含むさまざまなモノに取扱品目を拡大。1973年にはラジオCMやテレビCMをスタートし、広告宣伝活動にも注力した。中古リユース店の存在が徐々に認知されるようになってきたことに加えて、積極的な出店攻勢で2000年代には首都圏に店舗網を広げてきた。
○2010年以前の主な動き
1947年 | 古着屋「米兵商店」を名古屋市中区大須に出店 | ||||||||||||
1951年4月 | 「合資会社 米兵」を設立 | ||||||||||||
1973年 | 「いらんものは米兵へ売ろう」がキャッチフレーズのラジオCM 、TVスポットCMをスタート(約15年間、このキャッチフレーズを使用) | ||||||||||||
1979年5月 | 「株式会社 米兵」を設立。新たなスタートを切る | ||||||||||||
1987年9月 | 米兵から「コメ兵」へ商号変更 | ||||||||||||
1988年9月 | 全国からの商品仕入れを目的に宅配買取開始(衣料のみでスタートし、後に全商材へ品目を拡大) | ||||||||||||
1996年3月 | 東京に買取センターを出店(東京に初めて進出) | ||||||||||||
2003年9月 | 日本証券業協会 JASDAQ市場に株式を店頭登録 | ||||||||||||
2004年12月 | 東京証券取引所市場第2部と名古屋証券取引所第2部に株式上場(JASDAQは登録廃止) |
そうしたなか、コメ兵が創業70周年に当たる、2017年12月から2019年末までの2年間には、5社のM&Aを実施してきた。コロナ禍前、フリマアプリの台頭やシェアリングビジネスの成長などでリユース市場は拡大したものの、買取・販売競争の激化で収益状況は芳しくはなかった。その中で、コメ兵HDはブランドリユース市場でのトップシェア確保のため、買取専門店の展開拡大やEC戦略、他社との業務・資本提携の強化で、新規出店を積極化する計画を進めた。
2017年11月19日、銀座や青山、新宿・伊勢丹本館店、銀座・三越店などでアンティーク時計やアンティークジュエリーを販売する老舗「シェルマン」を子会社化。時計やジュエリー商材の専門性を強化することで、経営の安定性と企業価値の向上を図った。
同年12月15日にはアパレルやスニーカーの輸入・販売を手がける「イヴコーポレーション」と、EC販売でシューケア用品事業を展開する「アークマーケティングジャパン」の全株を取得し、子会社化すると発表。翌2018年11月には、イヴコーポレーションがアークマーケティングジャパンを吸収合併している。
タイヤ・ホイール事業では、2019年5月に「フォーバイフォーエンジニアリングサービス」の全株を取得してグループ化。また、新たに海外ブランドのバッグ・時計や宝石・貴金属、衣料の小売りや買取・卸売、通信販売、オークション事業などを営む「K-ブランドオフ」を、同年設立した。ブランドオフを吸収合併して事業を承継。あわせて、K-ブランドオフの連結子会社の「BRAND OFF LIMTED」と「名流國際名品股份有限公司」(台湾・台北市)もグループ化した。
海外企業とのM&Aも増えそう……
一方、コメ兵HDの海外進出は2009年8月に遡る。コメ兵HDの子会社「K-ブランドオフ」のグループ会社として、台湾・台北市に「名流國際名品股份有限公司」を設立。ただし、海外進出を積極化したのはリユースへの意識が世界的に高まってきたコロナ禍前だった。
2017年12月、中国・上海市に「米濱上海商貿有限公司」を設立。2018年12月にはタイ・バンコクに「SAHA KOMEHYO COMPANY LIMITED」を設立した。シンガポールには2022年12月、「KOMEHYO SINGAPORE PTE. LTD.」を開業している。
2024年4月には、香港を中心としたブランド・ファッション事業とアジア地域の海外事業会社の統括、海外事業における商品センター機能を有する「KOMEHYO BRAND OFF ASIA LIMITED」(中華人民共和国香港特別行政区)を設立。合わせて、マレーシア・クアラルンプールに「KOMEHYO MALAYSIA SDN.BHD.」を開業した。さらに米国ではニューヨークに「KOMEHYO USA Inc.」を、2024年7月に設立している。
なお、今年10月にブランド品の買取・販売や質店事業、オークション事業を手がけるアールケイエンタープライズ(RK)を買収したことに伴い、その子会社「RODEO DRIVE JAPAN Co.LIMITED」(中華人民共和国香港特別行政区)がグループ入り。現在、8社を展開している。
コメ兵HDでは海外での売上高比率を高めており、今後は国内のみならず海外企業とのM&Aにも前向きに進めていく。
コメ兵HD、グループ再編に動く
コロナ禍後の2022年8月17日、コメ兵HDは中古宝飾品の買取・販売やデジタル事業の「セルビー」を子会社化すると発表。業績が振るわなかったセルビーを立て直すとともに、重要商材の一つであるジュエリーの買取・販売の強化を狙った。
2024年4月には、コメ兵HD子会社のK-ブランドオフがRECLOを買収して吸収合併した。
RECLO は中古ブランド品の買取・販売のECサイト「RECLO」を運営。また中国最大のECサイト「Tmall(天猫)」などに強固な顧客基盤を有する、越境ECが強み。両社、それぞれが持つノウハウやネットワーク、人材などを一体化して最大限活用することで、今後拡大が見込まれるアジアのラグジュアリー市場での影響力を高めていく。
次いで、コメ兵HDは上述したRKを10月に買収。1954年に横浜で「カドヤ質店」として創業したRKは、いわゆる「ブティック質店」の先駆け。買取・販売、質店の「ロデオドライブ」を国内8店舗、海外(香港)1店舗を展開する。また、国内有数の法人向けオークション「RKオークション」を運営。自社で時計の修理工房を所有し、時計商材に精通している。
RKのグループ化で、出店エリアでの買取・販売の強化、オークション事業の拡大に伴う法人チャネルの強化などが期待できる。
さらに9月にコメ兵が、法人向け中古ブランド品の仕入れ・販売や法人向けオークションを運営する「Rs-JAPAN」を買収すると発表。そのうえで、2025年2月1日にコメ兵がKOMEHYOオークションとRs-JAPANを吸収合併する予定だ。コメ兵に経営資源を一体化することで、規模を生かし、仕入れの柔軟性の向上、在庫の効率化、法人オークションの拡大と、“仕入れから販売まで”のバリューチェーンを強化。再編効果の最大化を図る。
コメ兵HDは中期経営計画でM&Aによる事業拡大を打ち出しており、今回の再編も「それにそった投資の一環」という。新たにリテール、オークション、ホールセールの機能を備えた「コメ兵」「K-ブランドオフ」「RK」の3社を中心に収益力の強化とブランド力の向上を図るなか、引き続きM&Aを活発化していく可能性が高まっている。
○2010年以降の主な動き
2012年1月 | タイヤ、ホイール専門店を展開するクラフトの全株式を取得し、タイヤ・ホイール事業をスタート | ||||||||||||
2012年6月 | KOMEHYOオークションを設立 | ||||||||||||
2013年5月 | オートパーツKOMEHYOを設立(現:株式会社オートパーツ ジャパン) | ||||||||||||
2013年6月 | 香港にKOMEHYO HONG KONG LIMITEDを設立 | ||||||||||||
2017年5月 | 創業70周年を迎える | ||||||||||||
2017年12月 | 中国・上海市に「米濱上海商貿有限公司」(KOMEHYO HONG KONG LIMITEDの100%子会社)を設立 | ||||||||||||
2017年12月 | イヴコーポレーションとアークマーケティングジャパンの全株式を取得し、子会社化(2018年11月に吸収合併) | ||||||||||||
2018年11月 | シェルマンの全株式を取得し、グループ化 | ||||||||||||
2018年12月 | タイ・バンコクに合弁会社のSAHA KOMEHYO COMPANY LIMITEDを設立 | ||||||||||||
2019年5月 | フォーバイフォーエンジニアリングサービスの全株式を取得し、グループ化 | ||||||||||||
2019年12月 | K-ブランドオフを新たに設立。ブランドオフを吸収分割により事業承継 | ||||||||||||
2020年10月 | 社名を「株式会社コメ兵ホールディングス」に変更。ホールディングス体制をスタート | ||||||||||||
2022年8月 | セルビーの全株式を取得し、子会社化 | ||||||||||||
2022年12月 | シンガポールにKOMEHYO SINGAPORE PTE. LTD.を設立 | ||||||||||||
2024年4月 | 連結子会社のK-ブランドオフがRECLOの全株式を取得し、子会社化 | ||||||||||||
2024年4月 | アジア地域の海外事業統括会社、KOMEHYO BRAND OFF ASIA LIMITED(中華人民共和国香港特別行政区)を設立 | ||||||||||||
2024年4月 | マレーシア・クアラルンプールにKOMEHYO MALAYSIA SDN.BHD.設立 | ||||||||||||
2024年7月 | 米国・ニューヨーク州にKOMEHYO USA Inc.を設立 | ||||||||||||
2024年10月 | アールケイエンタープライズの全株式を取得し、子会社化 | ||||||||||||
2024年11月 | 連結子会社のコメ兵がRs-JAPANの全株式を取得し、子会社化(2025年2月に吸収合併を予定) |
文・髙橋べん(ライター)
11/07 06:35
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