【ニップン】10年ぶりに企業買収 「冷凍食品」「海外」など4事業に重点投資へ
製粉大手のニップンが10年ぶりに企業買収に踏み切る。傘下に収めるのは冷凍食品製造の畑中食品(鹿児島県出水市)で、約60億円を投じる。4000億円を超える売上高のうち、食品事業が半分以上を占め、今や祖業の製粉事業の倍近い。複雑化する国際情勢を受けた原材料高などに食材メーカー各社が頭を悩ませる中で、どういう成長戦略を描いているのか。
冷凍食品の畑中食品を買収へ
ニップンは9月26日、冷凍食品を製造する畑中食品の子会社化を発表した。第三者割当増資を引き受けて、株式の約62%を取得する。取得完了は2025年4月1日を予定する。
食品成長領域と位置付ける冷凍食品の需要拡大を見据え、供給体制を増強するのが狙いだ。これまで進めてきた自社工場への設備投資や製造委託先との連携に加え、地場有力企業の買収により、供給の安定化につなげる。ニップンは冷凍パスタなどの製造を畑中食品に委託している。
畑中食品は1981年に設立し、冷凍野菜加工の系列会社を含めてグループで約300人の従業員を抱える。
実は、ニップンがM&Aに取り組むのは2014年以来。この年、東証2部上場(当時)で持ち分法適用関連会社の東福製粉(福岡市)にTOB(株式公開買い付け)を行い、株式を追加取得して子会社化したのが最後だった。
その後、ニップンは東福製粉を株式交換で完全子会社化し、2021年に本体に吸収合併した。
TOBはもう1件手がけている。2010年に、ジャスダック上場で同じく持ち分法適用関連会社だったオーケー食品工業(福岡県朝倉市)にTOBを実施し、子会社化した。オーケー食品工業は業務用油揚げの大手として知られる。ニップンは2022年に同社を株式交換で完全子会社化した。
このほかに2013年には、トマトケチャップ、トマトソースなどの加工調理製品を製造するナガノトマト(長野県松本市)を子会社化した。
米国では製粉会社に25%出資
M&Aから遠ざかって10年になろうというタイミングで繰り出したのが60億円を投じる今回の畑中食品の買収だ。ニップンが取り組むM&Aとして最大となる。
これに先駆ける形で昨年5月には米国製粉会社のユタフラワーミーリング(ユタ州)に25%出資し、持ち分法適用関連会社とした。出資額は約33億円。ユタフラワーがユタ州内に製粉工場を新設(2025年稼働予定)するのに合わせて出資したもので、ニップンは工場の運営に参画する。
ニップンは米国でパスタ類の製造や、プレミックス(ミックス粉)・冷凍生地の販売を手がけているが、現地で製粉事業に参入するのは初めてとなる。
米国には2000年、パスタ製造のパスタモンタナ(モンタナ州)を子会社化して本格的に進出した。ユタフラワーについても部分出資を足掛かりに、将来、買収に発展する可能性もありそうだ。
ニップンの2024年3月期業績は売上高9.6%増の4005億円、営業利益65.5%増の203億4000万円、当期利益2.57倍の263億円6700万円。
原料材料費やエネルギー価格の上昇などのコスト増があったものの、冷凍食品事業や中食事業が堅調に推移し、売上高、各段階利益とも過去最高を更新した。
中期計画を上方修正
ニップンはこの決算を受け、2027年3月期を最終年度とする中期経営5カ年計画を修正した。売上高4000億円、営業利益150億円とする目標を3年前倒しで達成したためで、売上高4500億円、営業利益210億円を新たな目標に設定した。
直近の売上高構成をみると、製粉事業(業務用小麦粉)31%、食品事業(加工食品、冷凍食品、中食など)75%、その他事業(健康食品、ペットフードなど)12%。
中期計画では①基盤領域の収益力強化②成長領域・新規領域への戦略投資③M&Aや事業提携の機会追求-など5つの基本方針を掲げる。
基盤領域は製粉、食品素材、加工食品の3事業を指す。収益力を一層高め、安定的かつ継続的なキャッシュの創出を目指す。
成長領域に冷凍食品、海外など4事業
一方、成長領域には冷凍食品、中食、ヘルスケア、海外の4事業を位置付け、経営資源を重点配分する。先に発表した畑中食品の買収や、米国での製粉事業進出はこの流れにある。
海外事業は米国のほか、中国、タイ、インドネシアでプレミックスの製造・販売を手がける。海外売上高比率は1ケタ台にとどまり、製粉最大手の日清製粉グループ本社が30%を超えるのに比べ、大きく見劣りする。もっとも、その分、伸びしろが大きいともいえる。
今後3年で総額1200億円を投資
2027年3月期までの今後3年間で総額1200億円程度の投資を計画。このうちM&Aや新規事業関連への配分枠は明らかではないが、成長領域の冷凍食品、中食、ヘルスケア、海外に重点投入されることは間違いない。
2021年に、1896(明治29)年の会社設立以来の社名である日本製粉をブランド名の「ニップン」に変更して3年。新生・ニップンとして、ギアをもう一段上げることになりそうだ。
◎ニップンの主な歩み
年 | 出来事 |
1896 | 日本製粉を設立 |
1920 | 東洋製粉、大里製粉、札幌製粉、東北製粉を合併 |
1949 | 東京、大阪証券取引所に株式上場 |
1955 | 「オーマイ」ブランドの誕生 |
1959 | プレミックス事業に進出 |
1973 | 冷凍食品事業に進出 |
1989 | ペットフード事業に進出 |
1991 | 中食事業に進出 |
1995 | 中食関連製品のファーストフーズ(東京都八王子市)を子会社化 |
1996 | タイに進出 |
2000 | 米国でパスタ類製造のPasta Montanaを子会社化 |
2003 | ジャスダック上場のオーケー食品工業(福岡県朝倉市)を子会社化 |
2004 | 中国・上海でプレミックス工場を操業 |
2013 | 加工調理品のナガノトマト(長野県松本市)を子会社化 |
2014 | 東証2部上場の東福製粉(福岡市)を子会社化 |
〃 | インドネシアに進出 |
〃 | 東福製粉を吸収合併 |
2021 | ニップンに社名変更 |
2023 | 米国の製粉会社Utah Flour Mollingに出資し、持ち分法適用関連会社化 |
2024 | 9月、冷凍食品製造の畑中食品(鹿児島県出水市)を2025年4月に子会社化すると発表 |
文:M&A Online
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10/03 18:00
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