「東京メトロ」上場を機に、共創、出資、M&Aが加速か
都心部で総路線距離195キロメートルの地下鉄を運営する東京地下鉄(東京メトロ)が、2024年10月23日に、東京証券取引所のプライム市場に上場した。
山村明義社長は上場を機に、コロナ禍で運輸収入が激減した経験を踏まえ、非鉄道事業である不動産や流通を強化する考えを示した。
また、上場によって、「さまざまなパートナー企業から声がかかるようになってきた。いろいろな連携が始まる」と、共創に向けた期待も露にした。
同社の非鉄道事業の現状や共創に向けた取り組みなどを見てみると。
鉄道事業の損失が赤字転落要因
東京メトロはコロナ禍の中にあった2021年3月期に、前年度比31.7%もの大幅な減収となり、営業損益は400億円を超える赤字に転落した。翌2022年3月期は増収(前年度比3.7%増)に転じたものの、営業損益は2期連続の赤字を余儀なくされた。
山村社長によると、この不振の要因は鉄道事業一本に頼る経営体制にあったという。
コロナ禍の影響が少なかった2020年3月期の鉄道事業の売上高構成比は87%で、利益(営業利益)は84%を稼ぎ出していた。
それが、コロナ禍の影響が色濃く表れた翌2021年3月期は鉄道事業が落ち込んだために、売上高構成比は84%と低下するとともに、鉄道事業が500億円を超える損失(営業損失)を計上し、全社が赤字に陥る原因となった。
この年の不動産や流通などの事業も減収減益を避けることはできなかったが、落ち込み幅は小さく、しっかりと黒字を確保していた。
この経験が鉄道事業依存度を引き下げ、不動産や流通などの非鉄道事業に力を入れていくことを決断させたのだ。
オープンイノベーションプログラムも
同社ではすでに不動産の分野では、2024年4月に東京メトロが所有する不動産を売却し、売却で得た資金を活用して新たな不動産開発・取得などを行う子会社・東京メトロアセットマネジメント(東京都台東区)を設立したほか、2024年12月にはスーパーホテル(大阪市)との協業によって、「スーパーホテルJR池袋西口」既存棟に隣接する東京メトロの所有地に増築棟を建設し、既存棟館内のリニューアルと合わせて「スーパーホテル池袋西口天然温泉」として開業する。
資本関係を結び、新しい事業に乗り出す取り組みもある。2023年10月に、家庭料理のテイクアウトステーションを展開するマチルダ(東京都港区)に出資し、東京メトロ沿線地域にテイクアウトステーションの共同設置を進めているほか、2024年3月には交通・観光プラットフォーム事業を展開するリンクティビティ(東京都千代田区)の20%の株式を取得し、同事業の共同運営に乗り出した。
また東京メトロが保有する経営資源と、スタートアップなどが持つアイデアや技術を合わせ、新たな価値を共創することを目的としたオープンイノベーションプログラム「Tokyo Metro ACCELERATOR(東京メトロアクセラレーター)」を2016年から運営しており、2024年はスポーツやエンタメの観戦や視聴体験の向上を目的としたモバイルアプリを開発する、なんでもドラフト(東京都渋谷区)と共創に取り組むことを決めている。
一段と鉄道依存体質に
東京メトロの2024年3月期の業績は売上高3892億6700万円(前年度比12.7%増)、営業利益億万円(同2.74倍)の増収営業増益だった。
2025年3月期も4.7%の増収、15.2%の営業増益を予想しており、業績は好調に推移する見込みだ。
世の中がコロナ禍前の状況に戻るに伴い、鉄道事業の売り利上げも戻り、2024年3月期は売上高構成比が90%にまで高まっており、コロナ禍前よりも一段と鉄道事業に依存する体質になっている。
業績が好転する中での上場を機に、鉄道依存体質の改善に向け非鉄道事業での共創や出資が加速することが見込まれるとともに、今後はM&Aに発展する可能性もありそうだ。
文:M&A Online記者 松本亮一
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