米大統領選で台湾情勢はどうなっていくか│M&A地政学

海外M&Aで地政学は欠かせない。今、世界で何がおき、そこにはどんなリスクがあるのか。「M&A地政学」では、国際政治学者で地政学の観点から企業のリスクコンサルティングを行うStrategic Intelligence代表の和田大樹氏が世界の潮流を解説する。今回は「米大統領選による台湾情勢への影響」を取り上げる。

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米大統領選は世論調査で拮抗

米国大統領選挙まで2カ月を切っているが、今後さらに選挙戦は白熱化していくと予想される。ハリス氏が後継候補となって以降、発表される世論調査の多くはハリス氏の若干優勢を示していたが、9月にニューヨーク・タイムズとシエナ大学が実施した世論調査では、トランプ氏48%、ハリス氏が47%となっており、台頭したハリス氏の勢いに陰りが見え始めたとする論調も最近見られる。

いずれにせよどちらかが来年初頭にホワイトハウスで職務を開始することになるのだが、日本企業関係者が懸念を抱く事項に台湾問題がある。では、ハリス勝利 or トランプ勝利で台湾情勢にどのような影響が及ぶことが考えられるのか。

頼清徳新総統の対中姿勢

台湾では5月、今年1月の総統選挙で勝利した頼清徳氏が新総統に就任した。頼総統は、就任演説で中台関係について台湾と中国は隷属しないと主張し、中国側はそれに強く反発した。

頼総統も前総統の蔡英文氏も中国が独立勢力と位置付ける民進党所属だが、中国軍は頼総統の就任演説の直後から2日間にわたって海上軍事演習を行なった。

軍事演習は台湾本島の南部、東部、北部の海域、また台湾離島などで同時多発的に行われたが、これは新政権になっても中国の台湾統一への目標は変わらず、そのためには武力行使も排除しないという牽制球と捉えることができよう。

今日でも中台関係は緊張関係にある。今後4年あまりにわたって頼政権下で中台関係が続いていくことになるが、中国による軍事的挑発、経済的威圧などが断続的に仕掛けられることは間違いなかろう。

ハリス氏勝利で台湾情勢は?

このような状況下で、今後の台湾情勢の行方を左右する可能性があるのが米大統領選である。まず、ハリス氏が勝利すれば大きな変化は考えにくい。すなわち、バイデン大統領は中国との戦略的競争を外交・安全保障政策上の最重要課題に位置付け、ロシアによるウクライナ侵攻もあり、ウクライナと台湾を民主主義と権威主義の戦いの最前線と捉える。

ウクライナ侵攻以降、バイデン大統領はウクライナへの軍事支援を積極的に継続しているが、中国による海洋進出、西太平洋へのアクセス確保などを抑えるべく、台湾への軍事支援も惜しまない。中国が西太平洋への進出を顕著に示すようになれば、今後は太平洋秩序をめぐる米中の軍事的覇権争いがヒートアップする可能性があり、米国としては台湾をそれを抑える防波堤として機能させておく必要がある。

ハリス氏はバイデン政権で副大統領の立場にあり、バイデン大統領のこの路線を継承していくことになろう。頼総統とも緊密な米台関係を維持するべく、最大限の外交努力を図ることだろう。おそらく頼総統もハリス勝利のシナリオを望んでいると想像できる。

トランプ氏勝利で台湾情勢どう変わる?

一方、トランプ氏が勝利すると、ハリス氏以上の振動に台湾は直面する可能性がある。トランプ氏は台湾について、「台湾は米国の半導体産業を奪って莫大な資金を得ているが、我々は何ももらっていない」、「台湾は防衛費をもっと米国に支払うべきだ」などと主張しており、頼総統の間で距離感が鮮明になり、バイデン政権下で構築された米台関係に摩擦が生じ始める可能性がある。

実際のところ、頼総統とハリス氏の相性は良いと思われるが、トランプ氏とどこまで波長が合うかは分からない。しかし、米台関係で摩擦が見え始め、米国の台湾防衛への熱意が冷め始めると、中国はそれをチャンスと捉え、中国軍機による中台中間線超えや台湾の防空識別圏への侵入、台湾本島を包囲する形での軍事演習などをエスカレートさせるだけでなく、通信用海底ケーブルの切断や偽情報の流布なども増えてくることが考えられる。

習政権としても台湾上陸作戦は多大なコストと被害を伴うことから、極力回避したいのが本音だろうが、トランプ勝利のシナリオだとハリス勝利のシナリオより、日本企業にとっては不安材料が大きいと言えよう。

文:株式会社Strategic Intelligence 代表取締役社長CEO 和田大樹

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