第2次トランプ政権とウクライナ情勢の行方│M&A地政学

海外M&Aで地政学は欠かせない。今、世界で何がおき、そこにはどんなリスクがあるのか。「M&A地政学」では、国際政治学者で地政学の観点から企業のリスクコンサルティングを行うStrategic Intelligence代表の和田大樹氏が世界の潮流を解説する。今回は「第2次トランプ政権とウクライナ情勢の行方」を取り上げる。

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24時間以内の戦争終結を主張していたトランプ氏

米国大統領選の結果、共和党のトランプ氏がハリス氏に圧勝した。勝利宣言後、諸外国の首脳たちは相次いでトランプ氏に祝福のメッセージを送ったが、トランプ政権は来年1月に正式に発足するものの、既にトランプ氏を相手にした外交は各国で始まっている。現時点で確証的なことは断言できないが、トランプ氏は国務長官や安全保障担当の主席補佐官に対中強硬派を起用するとされ、米国にとって最大の課題である対中国では強硬路線が継承され、経済や貿易の領域を主戦場とした米中対立がエスカレートしていくことが考えられる。

一方、ロシアによる侵攻を受け続けるウクライナはこれをどう認識しているだろうか。トランプ氏は選挙戦の最中から、ウクライナ戦争を24時間以内に終わらせる、大統領に返り咲いたらウクライナへの軍事支援を最優先で停止すると主張しており、ウクライナのゼレンスキー大統領の本音としては、ウクライナ支援を重要性を訴えるバイデン路線を継承するハリス氏の勝利を望んでいたことだろう。

しかし、ゼレンスキー大統領はトランプ勝利の可能性も視野に入れ、9月にはニューヨークでトランプ氏と対面で会談し、両者はロシアが続ける戦争を終わらせる時だとの認識を共有したという。また、トランプ氏とゼレンスキー大統領は大統領選の翌日に電話会談し、ゼレンスキー大統領が勝利の祝意を伝え、トランプ氏は踏み込んだ話はしなかったものの、ウクライナを支援すると言及したとされる。

トランプ氏はどう戦争を終わらせるか

第2次トランプ政権がウクライナ情勢にどう対応していくか現時点で不明な点が多いが、最大のポイントになるのは、戦争を終わらせるという意思におけるトランプ氏とゼレンスキー大統領の違いである。

2022年2月にロシアがウクライナに侵攻して以降、ロシア軍は依然としてウクライナ東部やクリミア半島を実効支配しているが、バイデン政権やウクライナ、欧州諸国や日本はロシア軍がウクライナ領土から完全に撤退することを要求している。これまでのトランプ陣営の動きだと、第2次トランプ政権はロシア軍がウクライナ領土を実効支配する現状での戦争終結を目指していると考えられ、ロシアによる攻撃停止、ウクライナのNATO非加盟などの条件を双方に投げ掛け、それによって紛争の沈静化を図ろうと計画しているとみられる。

バイデン大統領やハリス氏は、ウクライナや台湾を民主主義と権威主義の戦いと位置付け、価値や理念に基づいた外交を展開するので、こういった終戦案はそもそも対象外となるが、商取引的、実利的なディール外交を基本とするトランプ氏であればこの選択肢は十分にあり得る。

トランプ氏が求めるのは実績

トランプ氏が第2次政権で最も重視しているのは、米国の利益を守って偉大な米国を復活させる(make America great again)ことだが、レガシー作りもその1つだ。トランプ氏は紛争を自分が解決したという結果を求めており、1期目の際に北朝鮮に接近して朝鮮半島の緊張緩和を狙ったのもその一環である。

トランプ氏にとって重要なのは内容ではなく結果であり、紛争終結で主要な役割を果たしたという結果を積み重ね、偉大な米国大統領として自らの実績を残すことに重点を置いている。こういったスタンスを考慮すれば、第2次トランプ政権の発足によってウクライナはこれまで以上に厳しい状況に陥る可能性が考えられよう。

一方、トランプ氏は決してロシアの味方になっているわけではない。例えば、ウクライナ戦争の終結に向けて事態が動き出している最中、ロシアが約束破りの軍事行動などに出れば、トランプ氏はロシアへの制裁強化など懲罰的な行動を取っていく可能性があり、繰り返しになるがトランプ氏にとって最も重要なのは戦争終結なのである。それに向けてウクライナとロシアが足を止める姿勢に徹すれば、トランプ氏は双方に圧力を掛けていくことが考えられよう。

文:株式会社Strategic Intelligence 代表取締役社長CEO 和田大樹

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