第2次トランプ政権と米中関係の行方│M&A地政学
海外M&Aで地政学は欠かせない。今、世界で何が起き、そこにはどんなリスクがあるのか。「M&A地政学」では、国際政治学者で地政学の観点から企業のリスクコンサルティングを行うStrategic Intelligence代表の和田大樹氏が世界の潮流を解説する。今回は「第2次トランプ政権と米中関係の行方」を取り上げる。
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米大統領選挙の結果、共和党候補のトランプ氏が勝利した。世論調査ではトランプ氏とハリス氏の支持率が拮抗し、まれに見る大接戦となり、結果が出るまでに数日掛かるとの報道もあったが、いざ蓋を開ければすぐにトランプ氏の圧勝だった。トランプ氏は選挙戦の行方を左右するペンシルベニアやジョージアなど激戦7州を全勝し、過半数の270人を大きく上回る312人の選挙人を獲得し、226人のハリス氏を大差で破った。
また、トランプ氏は自身が出馬した2016年と2020年の大統領選挙を上回る獲得票数を記録するだけでなく、議会上院では共和党が多数派を奪還し、下院でも共和党が過半数を維持することになり、トリプルレッドの状況となった。第2次政権を発足させるにあたり、トランプ氏はこの上ない政治的環境を手に入れたと言えよう。さらに、トランプ氏は2期目ということで1期目のように再選リスクを気にする必要がなく、今回は自らに忠誠的なイエスマンで人事を固めるとされ、1期目以上に大胆な外交が展開される可能性が高い。
注目される第2次トランプ政権の人事
では、第2次トランプ政権の最大の課題である対中国はどうなっていくのだろうか。現時点で報道されている人事構想は確定的なものではないが、トランプ氏は国務長官にマルコ・ルビオ上院議員を起用するとされるが、ルビオ氏は対中強硬派で、中国の人権問題を強く非難し、中国による軍事的脅威に直面する台湾を支援する姿勢を示している。
また、安全保障担当の大統領補佐官にはマイク・ウォルツ下院議員が起用されるというが、ウォルツ氏も対中強硬派であり、中国海軍に対抗するため米海軍の艦船や装備の増強を主張している。
こういった人事構想から判断しても、第2次トランプ政権が中国に対して厳しい姿勢で臨んでいくことは間違いない。
バイデン政権に受け継がれた対中強硬姿勢
そして、第2次トランプ政権では軍事や安全保障の領域以上に、経済や貿易の領域で紛争が激しくなる可能性が高い。
トランプ氏は自らをタリフマン(関税発動のプロ)と自認しており、政権1期目の時に米国の対中貿易赤字を是正する目的で、2018年から4回にわたって3700億ドル相当の中国製品に最大25%の関税を課す制裁を発動したが、中国も報復関税を仕掛けるなどし、米中間では米中貿易戦争がエスカレートしていった。
しかし、今日、トランプ再選でこの米中貿易戦争が再び始まるというような論調が一部で見られるが、それは現在進行形の現象であり、決して再び始まるものではない。トランプ政権の1期目によって歯車のズレた米国を立て直すことを目的に当選したバイデン氏も、対中国という点ではトランプ路線を継承している。
バイデン政権は中国・新疆ウイグルにおける人権問題を強く非難し、2022年6月にはウイグル強制労働防止法を施行し、2022年10月には中国による先端半導体の軍事転用を防止する観点から、先端半導体そのものの獲得、製造に必要な材料や技術、専門家の流出などを防止する大幅な輸出規制を開始した。
また、それのみでは依然として抜け道が存在すると懸念を抱くバイデン政権は2023年1月、先端半導体の製造装置に強みを持つ日本とオランダに同規制で足並みを揃えるよう要請し、日本は昨年7月、14ナノメートル幅以下の先端半導体に必要な製造装置など23品目を輸出管理の規制対象に加えるなど、バイデン政権は対中国という観点で同盟国にも同調を呼び掛けている。
米国の対中強硬姿勢はトランプ氏からバイデン氏に受け継がれ、そのバトンが再びトランプ氏に渡されるのが今日であり、第2次トランプ政権はそれをさらにパワーアップさせる可能性がある。政権1期目の時は最大25%の関税であったが、トランプ氏は中国製品に対する関税を一律60%にすると主張しており、これは政権発足後に実行に移されていく可能性が高い。
バイデン大統領とトランプ氏の貿易規制の違い
一方、バイデン大統領とトランプ氏では中国に対する貿易規制ではやり方に違いも見られる。バイデン大統領は新疆ウイグルの人権侵害や先端半導体の軍事転用など、明確な合理的理由に基づき、的を絞った貿易規制を発動しているが、トランプ氏は米国の経済と雇用を守る、中国製品の侵略を抑えるなど大きな野心や大義に基づいて、規制対象をランダムに選んだ貿易規制を仕掛けているように映る。
また、バイデン大統領は先端半導体の輸出規制で同盟国に協力を呼び掛けたように、多国間で中国に対抗する姿勢を重視する一方、トランプ氏は政権1期目のように米国単独で先制的な貿易規制を仕掛け、同盟国や友好国とともに多国間で中国に対抗する姿勢をバイデン大統領ほど重視しない可能性が考えられる。無論、トランプ氏が半導体など先端技術での米国の優位性を維持するため、同調圧力を同盟国に示してくる可能性もあるが、まずは米国単独路線が鮮明となり、米中間での貿易摩擦が激しくなっていく可能性が高い。
トランプ氏は予測不可能とも言われるように、上述のようなシナリオになっていくかは現時点では分からない。しかし、第2次トランプ政権が強硬路線を維持し、経済や貿易の領域が主戦場になっていくことは間違いないだろう。
文:株式会社Strategic Intelligence 代表取締役社長CEO 和田大樹
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11/17 07:30
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