第2次トランプ政権と中東情勢の行方│M&A地政学
海外M&Aで地政学は欠かせない。今、世界で何がおき、そこにはどんなリスクがあるのか。「M&A地政学」では、国際政治学者で地政学の観点から企業のリスクコンサルティングを行うStrategic Intelligence代表の和田大樹氏が世界の潮流を解説する。今回は「第2次トランプ政権と中東情勢の行方」を取り上げる。
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トランプ氏再選で中東情勢に懸念
米国大統領選挙ではトランプ氏がハリス氏に圧勝し、トランプ氏は来年1月の政権発足に向けて動き出している。トランプ氏の勝利宣言後、諸外国の首脳たちは早速トランプ氏にお祝いのメッセージを送った。政権発足は来年1月だが、既にトランプ氏を相手にした外交が各国で始まっている。それまでの間に、多くの首脳がトランプタワーやマール・ア・ラーゴ(トランプ氏のフロリダにある自宅)を訪れる”トランプ詣で”に拍車が掛かるかもしれない。
トランプ氏の勝利宣言後、真っ先に祝福のメッセージを送ったのが、イスラエルのネタニヤフ首相だ。ネタニヤフ首相はトランプ氏再選を歴史上最大のカムバックと投稿し、トランプ氏のホワイトハウスへの返り咲きは米国にとっての新たな始まりであり、イスラエルとの偉大な同盟関係を力強く再確認する意味を持つと強調した。
では、トランプ氏再選となったことで中東情勢はどうなっていくのだろうか。ハリス氏とトランプ氏の大きな違いは、予測可能かどうかだ。大統領選挙でハリス氏が勝利していれば、基本的にはバイデン政権路線を継承することから、その後の政策もかなり読めてくるが、トランプ氏は直感で動くところがあるので中々難しい。しかし、トランプ氏再選によって最も懸念されるのが中東情勢だろう。
拡大する反イスラエル闘争の戦闘領域
昨年10月7日、パレスチナ自治区ガザ地区を実効支配するイスラム主義組織ハマスがイスラエルへ奇襲攻撃を行ったことがきっかけで、両者の間で戦闘が激しくなっていった。しかし、両者の軍事力の差は歴然としており、イスラエルはハマス殲滅を目的とした強力な軍事力を行使し、それによってガザ地区では罪のない市民が次々に巻き込まれ、この1年でパレスチナ側の死者数は4万人を超えている。アラブ諸国を中心に国際社会ではイスラエルを非難する声が広がっているが、イスラエルのネタニヤフ政権は依然として攻撃の手を緩める姿勢を見せない。
そして、イスラエルとハマスとの戦闘は、ハマスへの共闘を宣言するレバノンやイエメン、シリアやイラクに点在するシーア派の親イラン武装勢力が反イスラエル闘争をエスカレートさせていくことで戦闘の領域が拡大していった。
イスラエル北部ではイスラエル軍とヒズボラとの攻防が激化し、地元住民は避難を余儀なくされ、イエメンのフーシ派は国際貿易路としての紅海を航行する外国船舶への攻撃を始めるだけでなく、イスラエル領内にドローンやミサイルを発射したりするなどし、今日ではイスラエルとハマスより、イスラエルと親イラン武装勢力との戦闘がエスカレートしている。
また、イスラエルと親イラン武装勢力との攻防により、イスラエルとイランとの国家対国家の対立構図も先鋭化している。4月初め、シリアの首都ダマスカスにあるイラン大使館領事部の建物にイスラエルが発射したミサイルが着弾し、イラン革命防衛隊の司令官や軍事顧問ら13人が死亡したことへの報復として、イランは初のイスラエルへの直接攻撃に踏み切り、ドローンや巡航ミサイルなど300発あまりをイスラエルに向けて発射した。
その後、イスラエルは7月末にイランの首都テヘランを訪問していたハマスの最高幹部イスマイル・ハニヤ氏を殺害したことに関与したとされ、9月末にはレバノンにあるヒズボラの関連施設などに80発あまりの爆弾を投下し、ヒズボラの最高指導者ハッサン・ナスララ師を殺害したと発表した。親イラン武装勢力のハマスとヒズボラの最高幹部が相次いで殺害されたことで、イランは10月に再びイスラエルへの直接攻撃に踏み切り、180発を超える弾道ミサイルをイスラエルに向けて発射した。この1年でイスラエルvsハマス、イスラエルvs親イラン武装勢力、イスラエルvsイランという形で紛争は拡大傾向にある。
混迷する中東情勢、トランプ氏再選の影響は?
イスラエルvsハマスをフェーズ1、イスラエルvs親イラン武装勢力をフェーズ2、イスラエルvsイランをフェーズ3とすれば、今日の状況はフェーズ2.5と言えるような状況であるが、ここにトランプ氏再選がどのような化学反応を生じさせるかが懸念される。
仮に、ハリス氏が大統領選に勝利していれば、ネタニヤフ首相はここまで祝福的なメッセージは送らなかっただろう。ハリス氏になってもイスラエル支持の立場は変わらないだろうが、戦闘の停止や民間人の犠牲回避などをイスラエルに対して強く要求してくる可能性があり、ネタニヤフ首相にとっては決して歓迎したい相手ではない。
一方、トランプ氏は政権1期目にネタニヤフ首相と極めて良好な関係を維持し、国際的に認められていないエルサレムを首都と認定してアメリカ大使館を移転させるなど親イスラエル政策を取ってきた。トランプ氏は極度の親イスラエル、イラン敵視の姿勢に徹しており、ネタニヤフ首相にとってはこの上ない最大の後ろ盾を得た状況なのである。
現時点で第2次トランプ政権の具体的な中東政策は明らかになっていないが、親イスラエルの姿勢を鮮明にすることは間違いなく、それによってネタニヤフ首相がイランへの敵対姿勢をいっそう強め、中東での紛争が拡大、エスカレートしていくことが懸念される。
文:株式会社Strategic Intelligence 代表取締役社長CEO 和田大樹
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11/18 08:40
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