米大統領選、トランプ氏 or ハリス氏勝利で対日姿勢はどうなるか│M&A地政学

海外M&Aで地政学は欠かせない。今、世界で何がおき、そこにはどんなリスクがあるのか。「M&A地政学」では、国際政治学者で地政学の観点から企業のリスクコンサルティングを行うStrategic Intelligence代表の和田大樹氏が世界の潮流を解説する。今回は「米大統領選による対日姿勢」を取り上げる。

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米大統領選では、トランプ氏とハリス氏の支持率が拮抗している。ブルームバーグなどが7月30日に発表した世論調査では、大統領選の勝敗を左右するアリゾナやペンシルベニア、ウィスコンシンなど激戦7州での支持率でトランプ氏が47%、ハリス氏が48%と上回る結果となった。トランプ氏は対バイデン大統領だと支持率で2%リードする展開だったことから、ハリス氏支持が広がっている。

一方、政治サイトのリアル・クリア・ポリティックスの世論調査によれば、全米での支持率平均でトランプ氏が47.7%、ハリス氏が46.5%とトランプ氏が上回り、激戦7州のうち東部ペンシルベニアなど5州でトランプ氏が2〜5.5ポイントリード、ハリス氏は中西部ミシガン州で2ポイントリード、中西部ウィスコンシン州ではほぼ互角になっているという。現時点でどちらが勝利するかは分からないが、それぞれが勝利すれば日本への姿勢はどうなるのだろうか。

日米同盟の強化を図るハリス氏

まず、ハリス氏が勝利すれば、バイデン政権同様に日本を最重要な同盟国と位置付け、日米同盟の強化を狙ってくるだろう。ハリス政権も米国の外交・安全保障政策の最重要課題を対中国と定め、そのために日本を必要とするだろう。

緊張が高まる台湾情勢において、米国は中国が台湾統一を目論むだけでなく、台湾制圧後にはそこを軍事的最前線の拠点とし、西太平洋へ軍事的圧力を強化してくることを警戒しており、台湾を中国の海洋進出を抑える上での防波堤として維持するべく、日本とのあらゆる安全保障協力を必要としている。

また、中国による経済的威圧に対抗するため、経済安全保障の観点からも日本との関係強化を求めてくるだろう。戦略物資の安定供給、サプライチェーンの強靭化などで日米の利害は一致しており、この部分でハリス政権は日本との間でフレンドショアリングを重視することが考えられる。

しかし、対中国を念頭に置いた経済安全保障で日米の思惑が完全に一致するわけではない。バイデン政権は一昨年10月、先端半導体分野で中国への輸出規制を大幅に強化し、昨年1月には日本にも足並みを揃えるよう要請したが、日本は昨年7月に先端半導体の製造装置など23品目で事実上の対中輸出規制を開始したものの、それは米国が期待するほど厳しいものではなく、日本の経済合理性との観点からバランスをとった措置である。

ハリス政権が安全保障を理由に日本にも同調を呼び掛けても、日本は経済合理性の観点も含み判断する可能性が高いことから、ハリス政権の日米関係では、経済安全保障分野での思惑の違いがこれまで以上に鮮明になる可能性が考えられよう。

トランプ氏勝利で日本企業に影響

一方、トランプ氏は以前、日本製鉄のUSスチール買収問題でそれを絶対に阻止するなどと言及し、日本企業の間では対日本でも保護主義的な目が向けられるとの懸念が聞かれる。しかし、これについて筆者は過剰な懸念を抱く必要はないと考える。

無論、第2次トランプ政権が発足してみないと不明な問題ではあるが、トランプ氏は政権1期目で安倍・トランプ時代の良好な日米関係を経験しており、基本的にはそれに基づいた対日姿勢を示してくると考えられる。日本の首相がトランプ氏と良い関係を構築できるかも重要な視点だが、トランプ氏も対中国を最重要課題と位置付け、そのために日本との安定的な関係を求めるだろう。

しかし、トランプ氏が日本を標的に意図的な経済、貿易圧力を強めてくることは考えにくいが、中国に対しては単独で貿易規制を強化していくことが考えられ(バイデン政権は日本など同盟国や友好国とともに中国へ対抗しようとする傾向がみられる)、それによって世界経済が不安定化し、日本企業はその影響を受ける現実的リスクがあろう。

文:株式会社Strategic Intelligence 代表取締役社長CEO 和田大樹

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