【イズミ】「イオン帝国」に徹底抗戦するスーパー「西の雄」の武器はM&A
百貨店に続き「氷河期」が訪れつつあるスーパーマーケット業界。西武セゾン系だった西友は売却され、セブングループの祖業であるイトーヨーカ堂もアクティビスト(物言う株主)などから売却を迫られている。イオン<8267>グループを中核とする業界再編は加速し、地方を拠点とするローカルスーパーの競争環境も激化するばかりだ。中四国・九州地方に展開するイズミ<8273>はM&Aによるドミナント(地域集中出店)戦略で生き残りを図っている。
高い収益率を誇るイズミがM&Aに取り組む理由
2021年9月、中四国の流通業界に衝撃が走った。イオン傘下のマックスバリュ西日本と中四国を地盤とするフジ<8278>が、2022年3月に経営統合すると発表したのだ。フジの前身はイズミと同じ広島市に本社を置いていた繊維卸売業の十和。十和は同業の山西商店がイズミを起業して成功したのを受けて広島地区でスーパーを創業しようとしたが、すでに同地区でドミナントを固められていたため、対岸の松山市に進出した。
しばらくは中国地方のイズミ、四国地方のフジと棲(す)み分けていたが、フジが1981年に広島市に「逆上陸」してからはライバルとして中国地方で火花を散らすことになる。現在、売上高では後発のフジに大きく引き離されているが、営業利益は2倍以上だ。
これは祖業である衣料品販売が強いのに加えて、高級和牛や地場特産品、顧客の嗜好(しこう)を見極めたレシピづくりから始める惣菜の自社生産など付加価値の高い食料品を取り揃えているため。総合的にはフジと互角の戦いを展開している。
社名 | 売上高 | 営業利益 | 売上高営業利益率 |
---|---|---|---|
イズミ |
4601.40 |
336.44 |
7.31% |
フジ |
8010.22 |
151.1 |
1.89% |
ところがフジとマックスバリュ西日本との経営統合により、イズミが対峙(たいじ)するのは国内スーパー首位のイオンとなった。そこでM&Aによる規模拡大で強大な「イオン帝国」に対抗しようとしているのだ。
九州展開のためのM&Aに力
もともとイズミはフジとの競合を受けて、M&Aによる九州でのドミナント展開に力を入れていた。2002年8月に民事再生法適用を申請していたニコニコ堂(熊本市、現 ゆめタウン熊本)から大型店4店舗を取得。
2012年9月には、熊本県内で食品スーパーの「ハローグリーンEVERY」5店舗を運営する西紅(熊本市)の全株式を取得した。地域密着型の店舗づくりを追求することで、熊本県内での事業基盤を強化した。
その後も熊本県の地盤強化のためのM&Aに取り組む。2014年7月に熊本市内で地域密着型のスーパーマーケット4店舗を運営する広栄の全株式を取得し、子会社化。当時、イズミは同県で28店舗を展開しており、広栄の買収で同県内での出店数が30店舗を超え、ドミナントを固める。
2014年12月にスーパー大栄(北九州市)に対して、総額約3億9000万円でTOB(株式公開買い付け)を実施し、持ち株比率を50.99%に高めて子会社化した。イズミは手薄だった北九州エリアでのドミナント強化を図るため、同1月にスーパー大栄と資本業務提携を結び、3月には第三者割当増資で同社に約20%を出資していた。イズミは2016年2月にスーパー大栄を完全子会社化し、2019年3月に「ゆめマート北九州」と改称している。
M&Aでライバルのフジに対抗
一方、広島県をはじめとする中国地方へ出店攻勢をかけるフジに対抗するため、イズミは2015年10月に広島県と岡山県で計64店舗のスーパーを運営していたユアーズ(広島県海田町)を子会社化した。ユアーズが実施する第三者割当増資を引き受け、株式50.3%を取得。ユアーズは小商圏型店舗の食品スーパーマーケット(SM)を中心とし、イズミは広域型大型店舗の総合スーパーマーケット(GMS)を主力とすることから、競合することなく原価低減や商品調達力の強化が見込めると判断した。
M&Aで事業拡大する一方で、経営効率を高めるためのグループ内再編にも乗り出している。ゆめマート北九州は2019年3月、グループ企業のユアーズから不採算店舗だった福岡県と山口県に展開していた14店舗を取得。同地区における食品スーパーの店舗運営を同社に集約した。
2015年11月にイズミは徳島県で食品スーパー7店舗を展開するデイリーマート(徳島県美馬市)の全株式を取得し、子会社化する。四国地方で大型ショッピングセンター「ゆめタウン」を展開しているイズミは、食品スーパーを運営するデイリーマートとの相互補完ができると判断した。ライバルのフジが地盤とする四国でのドミナント構築に乗り出す狙いもある。
フジとマックスバリュ西日本との経営統合を受けて、イズミは九州でのドミナント強化に向けたM&Aに再び乗り出す。2024年5月に大分県内で地域密着型の食品スーパーを展開するサンライフ(大分市)の全株式を取得し、子会社化した。これまで手つかずだった大分地区での事業展開を図る。
2024年8月には、西友から九州地区の食品スーパー全69店舗を取得した。イズミは2030年に向けた長期ビジョンで中四国・九州を軸に300店舗体制を掲げており、その達成への足掛かりとする。西友は北海道の全店舗をイオングループに譲渡して撤退したのに続き、九州からも撤退した。イズミは九州地区で80店舗以上を展開しているが、西友からの店舗取得で150店舗体制となり、強固なドミナントを形成する。
食品スーパーでドミナント戦略を展開
イズミのM&A戦略は①地域密着型の店舗展開②ドミナント戦略の推進③競合他社との連携強化④相互補完によるシナジー効果の追求-に重点を置いている。
①地域密着型の店舗展開
イズミは地域密着型の食品スーパーを積極的に子会社化し、地域ごとの事業基盤を強化している。これにより地域ごとのニーズに応じたサービス提供が可能となり、顧客満足度の向上を狙う。食品スーパーの利益率の高さも魅力だ。日本スーパーマーケット協会、オール日本スーパーマーケット協会、全国スーパーマーケット協会が発表している「2021年スーパーマーケット年次統計調査報告書」によると、スーパーの売上高利益率は平均で約26%だが、おかず、揚げ物、弁当、おにぎり、インストアベーカリーなどの惣菜が37.0%、食肉類、ハムやベーコンなどの肉加工品などの畜産が28.6%、干物や調味済なども含む魚介類の水産が28.3%と平均よりも利幅が大きい。これらを主力商品とする食品スーパーを取得することで、自社の利益率向上を狙っている。
②ドミナント戦略の推進
中四国・九州地方で集中出店することにより、スケールメリットを追求する。イズミは本拠地の広島県で29店舗、岡山県で8店舗、島根県で7店舗、山口県で14店舗、福岡県で19店舗、佐賀県で3店舗、長崎県で2店舗、熊本県で10店舗、大分県で3店舗、香川県で3店舗、徳島県で1店舗、兵庫県を2店舗と、中国地方から九州地方にかけて店舗網を展開。さらにその隙間(すきま)を買収したユアーズやデイリーマートが埋め、グループで強力なドミナントを構築している。こうした地域では物流や仕入れの効率化が図られ、コスト削減を実現している。
③競合他社との連携強化
競合他社とのM&Aによる連携強化で、消費マインドの低迷や競争激化に対応している。イズミの経営資源を持ってすれば競合他社の地盤に新規出店することも十分に可能だ。だが、それでは顧客の奪い合いとなり、過度の値引き競争による利益率の低下を招きかねない。イズミはM&Aによる業務提携や経営統合で友好的にドミナントを強化できた。
④相互補完によるシナジー効果の追求
イズミが主力とする大型ショッピングセンター(SC)の「ゆめタウン」と、M&Aで取得した小商圏型食品スーパーの相互補完を図ることで顧客層の拡大とサービスの多様化を実現している。スーパーに限らず、どの業種でも規模拡大のためのM&Aを進めると、両社の店舗間での商圏「共食い」が起こる。しかし、大型SCと食品スーパーでは同一商圏内に立地していても、来店目的が違うため顧客の奪い合いは起こりにくい。だから親会社・子会社ともにシナジー効果のみを享受できるのだ。
イズミのM&Aは続く
イズミは今後も地域密着型のスーパーを子会社化することで地域での事業基盤を強化し、顧客満足度の向上とドミナント強化による収益性の向上を図るだろう。イオン・フジ連合との対抗上、中四国・九州地方だけでなく、他の地域にもドミナント戦略を拡大する可能性がある。さらには「ゆめデリバリー」のようなネットスーパー事業の強化や2月に発生したランサムウェア感染被害を受けての情報セキュリティー対策のために、IT企業の買収も検討するかもしれない。いすれにせよ、イズミのM&A攻勢がこれからも続くことだけは間違いなさそうだ。
文・写真:糸永正行編集委員
上場企業のM&A戦略を分析
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08/29 06:25
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