【セイノーホールディングス】協業、オープンイノベーション施策で成長スピードを加速

セイノーホールディングス<9076>は、物流業界の中で最も戦略的に「協業」「オープンイノベーション」に取り組む企業グループだろう。

今春実施された日本郵便との幹線輸送の共同運行トライアルは、それを象徴する施策と言える。幹線輸送とは、集荷側の拠点から配達側の拠点への長距離輸送を指す。両社は今年2、3月に「東京~大阪・滋賀」「東京~名古屋」「埼玉~福島・宮城」などの幹線で共同輸送を実施。具体的には「隣接する拠点を活用した荷物の積み合わせ」「自社内で積載調整を行っていた荷物の融通」などの協業だが、結果としてそれまでのお届け日数を変更することなく、トラック台数を削減するなどの効果が期待できることがわかった。

日本経済新聞の5月6日付の報道によると、この結果を踏まえて両社は、両社のトラック1万台に荷物を混載して運ぶことを決めた。この共同運行には、物流他社の荷物の受け入れも検討すると見られ、そうなると1台あたりの積載率はさらに高まり、効率的な運送が可能になる。

この大手2社によるコラボレーションは、トラック運転手の時間外労働の是正に伴い輸送力が不足する2024年問題や、深刻化する人手不足など、業界が抱える課題の解決策として注目に値する。

積極的なM&Aで成長スピードを加速

また、外部の力を取り入れる積極的な取り組みはM&Aにも表れている。セイノーホールディングスは、数多くのM&Aを展開しており、その動きはさらに加速する見込みである。

2023年6月に発表した中長期の経営の方向性を定めた「ありたい姿とロードマップ 2028」では、M&Aを取入れた戦略を積極的に展開し、さらにオープンイノベーションを広く展開することで、市場をリードする新たな価値を創造する、としている。 

このようにM&Aを重要な戦略として位置づける理由は、成長スピードを加速し、5年後のありたい姿をより早く実現することにある。

先駆的な動きは2009年に西武鉄道グループの西武運輸を買収、グループ化したことだっただろう。西武運輸はその後、2014年にセイノースーパーエクスプレス(東京都江東区)と社名変更し、戦略子会社として機能している。以後も20社を超える企業を傘下に収め、業容を拡大している。

代表例を挙げてみよう。

2015年には関東運輸(前橋市)の全株式を取得した。関東運輸は、生鮮食料品や惣菜、デザート食品などを5度~-5度程度の低温で輸送するチルド輸送に関して高い技術およびノウハウを持つ。北関東地域を中心に全国レベルでチルド輸送に対応するネットワークを持つため、セイノーにとっては輸送ネットワークをさらに密にするメリットがある。

2020年には社内にM&Aに特化した専門チームを設置し、さらにスピードを加速する。

2021年には丸久運輸(和歌山県かつらぎ町)の全株式を取得した。これによってコールドチェーンネットワークを拡充するとともに、阪和地域におけるグループ会社との事業シナジーをさらに促進する。

2022年にはラクスルが展開する物流プラットフォーム「ハコベル」を共同でマネジメントするために共同出資による新会社「ハコベル株式会社」(東京都中央区)を設立した。また、この年には東京を中心に埼玉県、千葉県、北海道にも支店を持つメール便・ポスティング会社の地区宅便の全株式を取得した。いずれもラストワンマイルのネットワークを強化するという狙いで共通している。

さらに2024年4月、メール便会社の日祐(横浜市)の株式を100%取得し、神奈川県も上記の首都圏におけるラストワンマイルのネットワークに組み込まれた。

◎2009年以降の主なM&A

出来事
2009 西武グループの物流会社の西武運輸(現セイノースーパーエクスプレス)を子会社化
2015 チルド輸送に強いを持つ関東運輸を子会社化
2021 常温・低温物流を手がける丸久運輸を子会社化
2022 ラクスルの物流プラットフォーム「ハコベル」事業と組んで新会社設立
2022 メール便・ポスティング会社の地区宅便を子会社化
2024 メール便を扱う日祐を子会社化

2つのファンドで30社近くに投資

セイノーホールディングスはファンドを通じたスタートアップ投資にも積極的だ。

現在、2019年に「Logistics Innovation Fund」、2023年に「Value Chain Innovation Fund」に立ち上がった2つのファンドにアンカーLPとして関わっている。前者は物流事業領域特化型のファンド、後者は投資を通じて顧客のサプライチェーンの改革に貢献するために物流領域のみならず、バリューチェーン全体への価値提供を行うスタートアップが投資対象になる。

すでに2つのファンドで合わせて30社近くのスタートアップに投資を実行している。

具体的な投資先を挙げると、Logistics Innovation Fundを通じて出資した、モビリティSaaS「Park Direct」を提供するニーリー。Park Directは、駐車場の募集から契約業務、契約後の月額使用料の収納代行や顧客管理まですべてをオンラインで実現するモビリティSaaSだ。各種手続きをすべてネット上で完結させ、不動産会社や借主の駐車場契約・管理にまつわるムダなコストを大幅に削減する。

また、オプティマインドの「Loogia」は、ラストワンマイルの配車最適化サービス。配車業務が属人化している企業に対して、最適な配車計画や配送ルートを提供することで、配車の自動化、配送の効率化を実現する。これなどは、物流が抱える重要課題に対して、真正面から解決を図るサービスを育てるという投資案件と言える。

一方、Value Chain Innovation Fundの出資先には、ITデバイス & SaaSの統合管理クラウドを開発するジョーシスがある。社名にもなっているクラウド「ジョーシス」は、従業員に紐づけたITデバイス・SaaSの台帳管理や、入退社に伴うSaaSアカウント発行・削除、退職者の削除漏れアカウントの検知などを自動化する機能を提供し、コーポレートITの業務負荷を軽減し、セキュリティ体制を強化する。物流業をサポートするというより、荷主のサプライチェーンの一端について効率化を図るサービスである。

同業とのコラボレーション、経営スピードの向上を目的とするM&A、ファンドによる未来型のスタートアップ支援と、セイノーホールディングスの協業・オープンイノベーションは多彩であり、経営変革への強い意志を感じさせる。

文・間杉俊彦(ライター)

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