市民は6ホール1340円、18歳未満と70歳以上は840円! 愛された市営ゴルフ場閉鎖のなぜ?/シリーズ『ゴルフ場減少時代』

1997年に開場し市民に愛された「高崎市民ゴルフ場」が閉鎖され、総合運動施設へと転用されることが決まりました。日本のゴルフがこれからも持続可能な娯楽・産業であるためには誰にでもアクセスしやすい身近なパブリックコースは必須。まさにそんなコースの閉鎖を残念がる声は絶えません。

入場者減やゴルフ以外の用途への要請に台風がトドメ

 日本のゴルフ界にとって深刻な事態が群馬県高崎市で起こっていました。プレー代も安く6ホールから回れる手軽さで親しまれた「高崎市民ゴルフ場」が閉鎖され、総合運動施設へと転用されることが決まりました。日米のゴルフ事情に精通し、「ゴルフ人口の底辺を広げるためにはパブリックコースを増やすべき」が持論のプロゴルファー・タケ小山氏は「もったいない話。自分が指定管理者に立候補したいくらい」と、切実な思いを訴えました。

高崎市民ゴルフ場の跡地は静まり返っていた。今では必要なくなった「ゴルフカー注意」の表示がせつない 写真:清流舎

高崎市民ゴルフ場の跡地は静まり返っていた。今では必要なくなった「ゴルフカー注意」の表示がせつない 写真:清流舎

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 5月初頭に高崎市民ゴルフ場の跡地を訪ねてみると、クラブハウスの裏に1台だけコース整備用の車両がぽつんと残されていました。土手に上がってみると、水面を渡る風は爽やかで、聞こえてくるのは鳥のさえずりのみ。多くのゴルファーで賑わった時代の活気を感じることは不可能でした。

 1997(平成9)年にオープンしたゴルフ場は、東コース6ホール、西コース6ホールの計12ホール(パー48)のみ。18ホール回りたい場合はこの両コースをラウンドした後に昼食を取り、それからどちらかのコースをもう一度回るというスタイルでしたが、プレースタイルの選択肢の多さは他コースの比ではありません。6ホールのみで終わることもできれば、12ホールでも、18ホールでも、24ホールでもOKでした。

 自由度の高さとカジュアルな雰囲気で市民に愛され、多くのビギナーを送り出したゴルフ場であることは想像に難くありません。このゴルフ場は平日6ホールのプレー代は高崎市民であれば1340円。18歳未満のジュニアゴルファー、70歳以上のシニアなら、いずれも840円という安さでした。

 オープン時は市を中心に金融機関等が出資した第三セクターの経営でしたが、2002(平成14)年3月末に入場者減や赤字を理由に市が引き継ぎました。09年(平成21)年には、3万6000人が来場し、高崎市民はそのうちの約6割を占めていました。

 11(平成23)年から指定管理者として有限会社新高崎リバーパークが運営していましたが、その後も入場者は減少。18(平成30)年には3万2000人まで落ち込んでいました。

 高崎市はこの市民ゴルフ場を20(令和2)年3月31日で閉鎖し、スポーツパークとして再整備する予定を打ち出したのです。その流れの中で、19年10月12日、台風19号が上陸。列島各地に大きな被害をもたらしました。群馬県内も例外ではなく、高崎市民ゴルフ場もほとんどが川の中に沈みました。

 これが決定打となり、ゴルフ場の閉鎖は前倒しにされます。高崎市の関係者が裏事情を次のように明かしました。

「利用者が減り、違う活用方法を検討しているタイミングで、台風(19号)が来て(コースが水を)被っちゃった。幅広い年齢の方に広い土地を活用していただきたいという行政的な狙いもあったと思いますね」

フルサービスのクラブハウスをなくせば大幅な省力化ができる

 入場者の減少に歯止めをかけられず、さまざまな年齢層が利用できる施設への転用を進める流れに巻き込まれ、台風にトドメをさされたというのが真相のようです。前出の関係者はこう続けます。

「ゴルフ場だとゴルフを目的としているってことになってしまうじゃないですか。もちろん、ゴルフをやる方にも幅広い年齢の方がいるとは思うんですけど、さらに幅広く、ゴルフだけではなくていろんなスポーツができるところの方がいい、という考えがあったからだと思います」

 しかし、本当にそれだけの理由でしょうか。台風で冠水するのは、河川敷ゴルフ場の宿命です。何度ダメージを受けても営業再開にこぎつけるのが当たり前。23年間、高崎市民に愛されたゴルフ場の末路を見るとき、収益改善と入場者増への対策をろくにしないまま、安易に閉鎖を決定した高崎市の姿勢に問題があったようにも思えるのです。

 自著『日本のゴルフ、ここまで書いたら○される』(財界展望新社)第1章の書き出しで「日本のゴルフコースの何が変か、っていうとパブリックコースが少ないこと」と指摘している“屋根裏のプロゴルファー”ことタケ小山氏は、こう指摘します。

「高崎市民ゴルフ場のホームページを見ました。ちゃんとしたレストランもついて、お風呂もついているんですね。でもアメリカの公営ゴルフ場は人件費もかかってないし、お風呂場もシャワー。経費のかかり具合が違うんです」と、まずクラブハウス内の問題点を指摘して、こう続けました。

「アメリカの、特にムニシパル(公営)やパブリックって、掘っ建て小屋にプロショップがポコンとあって、カート番のおじさんは2人くらい。お客さんはカートで勝手に出てって、帰ってきます。そのカートを洗車して充電するのがおじさんの仕事です。プロショップは1人もしくは2人で回していて、そこでチェックインして、スタートさせちゃう。だから(従業員は)4人とか5人くらい。高崎市民を見ると、レストランもフルレストランだし、余計なものも多い」

 小山氏は異業種のこんな事例を挙げました。

「星野(佳路)さん(星野リゾート代表)にインタビューしたことあるんだけど、古い旅館とかホテルって仲居頭とか板長とかが『そんなコストカットできねえよ』って必ず言うらしいんですよ。要は自分のスタッフを削るのもいやだし、新しいことができないんですよね」

 そうしたハードルを乗り越えて、今の星野リゾートの隆盛があるのでしょう。「だから高崎市民も同じで『そのままスタートいっちゃってください。クラブハウス入らないでください』という動線ができれば、クラブハウスがいらなくなっちゃう」。クラブハウスからゴルファーを切り離せば、大幅なコストカットが実現するわけです。

アメリカンスタイルのパブリックに生まれ変わった好例

 さらに小山氏は、こう続けます。「いい例があるじゃないですか。茅ケ崎とか、越谷とか」。

ゴルフ場存続のためにカジュアルかつ地域密着の運営方針を取っているGDO茅ヶ崎ゴルフリンクス

ゴルフ場存続のためにカジュアルかつ地域密着の運営方針を取っているGDO茅ヶ崎ゴルフリンクス

 1957年開場のGDO茅ヶ崎ゴルフリンクスは、かつて商業施設への転用話が浮上し存続の危機に直面したことがありました。しかし、クラスター火災の懸念を持つ地域の住民が同コースを広域避難場所として存続させることを訴え、署名運動などを展開したことで流れが変わりました。現在、クラブハウス2階のおしゃれなカフェは一般市民に開放され、ペット連れでの食事も可能。コースでは地元の小学生の卒業イベントを開催するなど、地域に密着したゴルフ場として生まれ変わっています。

 越谷もかつては第1回(1968年)から3回連続で日本女子オープンを開催したTBS越谷ゴルフクラブとしてオールドファンにはおなじみのコースでした。しかし今はアメリカンテイストのKOSHIGAYA GOLF CLUBとしてイメージチェンジ。スループレーが人気を博し、サイクリングロードを走ってきた一般利用者などがレストランやシャワーを利用するまでに地域の人気を集めています。

 小山氏は前出の自著でパブリックコースの必要性を次のように力説しています。

<底辺を広げようという意味だったらパブリックコースがないと日本は苦しい。アメリカは約2万コースのうちメンバーが10%で、それ以外はパブリックだからゴルフは始めやすいスポーツ。それに比べて日本は、高度成長期にサラリーマンだった恵まれた時代の人たちが始めたから、今のままだと確実にゴルフをやる人は減っていく。だから、圧倒的に少ない日本のパブリックコースを増やしていくことが大事なんですよ。>

 団塊の世代が後期高齢者となる「2025年問題」は目前に迫っています。年金生活となりゴルフ仲間も1人2人と減り、運転免許証も返納することで、通い慣れたゴルフ場から足が遠のく高齢者は確実に増えます。そうした中、安くて気軽に行けるパブリックコースが必要でしょう。

 小山氏はこう提唱します。

「ゴルフ場がダメになったからソーラー発電所に変えるというのではなく、そうしたコースを自治体で買い取ってパブリックコースにすることも必要でしょうね。欧米では市営や州営のコースが当たり前にあるから、その形を手本にすればいいんです」

 以前、日本ゴルフジャーナリスト協会が大学生のビギナーたちにインタビューしたとき、ゴルフへのハードルと捉えている要素が「遠くて、お金と時間がかかって、ドレスコードがうるさいこと」だという答えが返ってきたことがあります。ぶらりと来て6ホール回って帰る高崎市民でのゴルフは時短にもなって、お財布にも優しい。こうして見ると、このゴルフ場がまさにこれからのゴルファー像にマッチしていることが分かります。

 少し視点を変えれば、存続の可能性は最初から広がっていたはず。

「(名門の)旧軽井沢ゴルフクラブ(長野県)だって6ホール(単位)ですよ。アウト6ホール、イン6ホールです。12ホールしかないんです。今から流行るスタイルなのに、やめちゃうなんてもったいない。指定管理者制度に自分で立候補したいくらいです」

 日本のゴルフ界が抱える多くの課題をクリアできるのが、高崎市民のような安くて短時間で楽しめる公営ゴルフ場。たった一度の冠水でせっかく育ったゴルファーを切り捨ててしまって、本当にいいのでしょうか。3ホールでも、6ホールでも、残す努力はすべきであるように思います。

取材・文/小川朗
日本ゴルフジャーナリスト協会会長。東京スポーツ新聞社「世界一速いゴルフ速報」の海外特派員として男女メジャーなど通算300試合以上を取材。同社で運動部長、文化部長、広告局長を歴任後独立。東京運動記者クラブ会友。新聞、雑誌、ネットメディアに幅広く寄稿。(一社)終活カウンセラー協会の終活認定講師、終活ジャーナリストとしての顔も持つ。日本自殺予防学会会員。(株)清流舎代表取締役。

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