東電の賠償金打ち切りでゴルフ場存続を断念→“テーマパーク”転業で来場者10万人超えの成功例とは?/シリーズ『ゴルフ場減少時代』

本連載ではこれまでゴルフ場のメガソーラー転用に絡む不透明な動きについて取り上げてきましたが、今回は成功例を紹介します。栃木県で現在「58(ファイブエイト)ロハスクラブ」として運営されている体験型農園を中心としたテーマパークは、かつて58ゴルフクラブというゴルフ場でした。メガソーラーだけに頼らないゴルフ場跡地の利活用として注目すべき事例です。

東日本大震災での善意の活動が仇に

 閉鎖に追い込まれたゴルフ場を転用する方法はソーラー発電所だけではありません。かつてゴルフ場であったことの強みを生かしたことで、見事に立ち直ったゴルフ場があります。

年に6~7回開催される58ロハスクラブのマルシェ 写真:58ロハスクラブ提供

年に6~7回開催される58ロハスクラブのマルシェ 写真:58ロハスクラブ提供

 栃木県の「58(ファイブエイト)ロハスクラブ」(旧・58ゴルフクラブ)には今、犬と遊ぶ子供たちの歓声がこだましています。元ゴルフ場という広大な敷地内の森林を整備し、グランピング、森林アスレチック、会員登録数が1万頭に達した日本最大級のドッグラン、体験型農園を配置したテーマパークに変貌させました。年に6~7回開催されるマルシェには地元のこだわり生産者や手作り作家が出店。マルシェに合わせてドッグランを無料開放したところ、8割がワンちゃん連れの大盛況となっているのです。

「食とエネルギーの自給自足」。これが同施設の掲げたメインテーマです。農園でレストランやカフェで使用するオーガニック野菜を栽培。敷地内の森林整備で出た間伐材でログハウスを建て、余った木材を薪にして熱エネルギーとして使用しています。

 グランピングと自家栽培の野菜と栃木県産の肉を使ったBBQは、ペットと一緒に手ぶらで来て思いきり楽しめる内容。1回1万人は動員するマルシェは年6、7回。高級品種「ロイヤルクイーン」と「とちあいか」のいちご狩りにも年間1万人が詰めかけるといいます。これにレストラン、カフェ、グランピングの来場者を合わせて年間10万人超えを達成しています。

 閉鎖されたゴルフ場に新たな命を吹き込んだ「58ロハスクラブ」の小森寿久社長は、ゴルフ場時代と今を比較して、こう語ります。

「これを言っちゃったらゴルフ場の方に怒られちゃうかもしれませんが、お客様の笑顔が違うんです。ゴルフ場の場合はメンバーシップということもあり、お客様にはクオリティーの高いサービスを受けて当たり前という感覚がありますし、スコアが良ければニコニコして帰りますけど、たいていの人は悪いから、誰かに文句を言って帰りたくなる(笑)。いつもどこかピリピリした雰囲気もあったんですね。今は単純にワンちゃんと一緒に楽しみに来て、お客様の方が最後まで笑顔で『ありがとうございました』って言って帰ってもらえるんですよ」

 冗談交じりにそう語ってくれた小森社長ですが、確かにゴルフ場としての58GCは、晩年厳し過ぎる立場に追い込まれました。かつて北関東の中では高めの料金設定で3万人の来場者があったゴルフ場は、2011年3月に起きた東日本大震災の影響でコースに亀裂が走り、しばらく営業を再開できない状況が続きました。一方で、周辺地域が断水したため、井戸水を地域住民に提供。浴場も開放しました。

 少し状態が落ち着くと、沈んだ心を紛らわすため、ゴルフをしたいという要望も増え始めました。ならばコースは無料で開放しましょう。その代わりに、チャリティー募金をして災害支援に役立てよう、という発想が生まれました。 ゴルファーも賛同し、コースは連日満員。しかしプレーは無料でもゴルフ場利用税だけは払わねばなりません。

 そのデータに東電は目を付け「入場者が増えている」と指摘し、これを理由に賠償金を打ち切りました。福島第一原発事故の風評被害で打撃を受けているうえに、近隣コースの低価格競争は激化の一途。ゴルフ場の経営は賠償金打ち切りを境に大きく揺らぎ、2015年末に18ホールのゴルフ場を閉鎖。ソーラー発電所へと転用されることが決まりました。

被災時のペット同伴避難の問題にも取り組む

 他のメガソーラー発電所と違うのはここからです。 同コースはゴルフ場としては存続できなかったものの、メガソーラーを導入する元ゴルフ場の部分は開発許可に則って造成し直し、周辺の山林を残しました。ゴルフ場以外の敷地が広かったこともあってこれを生かしたのです。

58ロハスクラブに併設されているメガソーラー 写真:清流舎

58ロハスクラブに併設されているメガソーラー 写真:清流舎

「排水などの問題は敷地内で済むように対策」したうえでクラブハウスを自然菜園レストラン「ロハスキッチン」として再スタート。クラブハウス前の広いロータリーを利用して休日に開催されるマルシェ(青空市場)も3回目で4000人の来場者が詰めかけるほどに成長。冒頭のような盛況ぶりにつなげています。

「今後はいわゆるアグリツーリズム(旅行者が農場に足を運び、味覚狩りなどで休暇・余暇を過ごす観光形態)の施設である観光農園を充実させていきたい」と小森氏。

 また、これまでの災害時に話題に上ったペットとの同伴避難の問題にも、解決の糸口を見つけるべく動き出しています。

「避難先で人とペットがバラバラにされてしまうため、それだったら避難しない、という話まであり、その末に被災されるケースもあります。で、ファイブエイトはJCTA(日本カーツーリズム推進協会)の栃木県支部に加盟しまして、ここと宿泊イベントを開催しました。今、ウチは矢板市とさくら市にあり、両市と防災協定を結んでいます。ファイブエイトもペットと同伴避難ができる避難所として指定されていますので、これから協力してやっていきたいと思います」

 そうした動きに注目した閉鎖ゴルフ場の関係者からは協力要請や問い合わせが舞い込んでいるそうです。売電価格も落ちた今、ソーラーだけがゴルフ場再生の選択肢ではない。ファイブエイトの取り組みが、そのことをはっきりと示してくれています。

取材・文/小川朗
日本ゴルフジャーナリスト協会会長。東京スポーツ新聞社「世界一速いゴルフ速報」の海外特派員として男女メジャーなど通算300試合以上を取材。同社で運動部長、文化部長、広告局長を歴任後独立。東京運動記者クラブ会友。新聞、雑誌、ネットメディアに幅広く寄稿。(一社)終活カウンセラー協会の終活認定講師、終活ジャーナリストとしての顔も持つ。日本自殺予防学会会員。(株)清流舎代表取締役。

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