苦しいバックナインと起死回生の一打を赤裸々に振り返った松山英樹 心理状態を元プロ野球審判のメンタルアドバイザーが読み解く

オリンピックの銅メダリストとなった松山英樹が、次戦「フェデックス・セントジュード選手権」ではプレーオフ初勝利にしてPGAツアー10勝目を達成しました。ホールアウト後のインタビューでは、いつもよりラウンド中の自身の心理状態について赤裸々に語っています。松山の発言をプロゴルファーはじめ、さまざまなスポーツ選手のメンタルアドバイザーを務める丹波幸一氏が読み解きます。

トップ選手でも守りの気持ちがネガティブに引っ張られる原因になる

 オリンピックの銅メダリストとなった松山英樹が、次戦「フェデックス・セントジュード選手権」ではプレーオフ初勝利にしてPGAツアー10勝目を達成しました。ホールアウト後のインタビューでは、いつもよりラウンド中の自身の状態について赤裸々に語っています。

 松山は5打差のリードがあったことで「なかなかアグレッシブに行きづらかった」「自分も攻めないといけないなと思いながらも、なかなか攻めることができなくて悪い方向に行ってしまった」と語っていました。なぜ、このような心理状態になり、一時はリードを許す展開になってしまったのでしょうか? プロゴルファーはじめ、さまざまなスポーツ選手のメンタルアドバイザーを務める丹波幸一氏が読み解きます。

苦しいバックナインを乗り越えてPGAツアー10勝目を挙げた松山英樹 写真:Getty Images

苦しいバックナインを乗り越えてPGAツアー10勝目を挙げた松山英樹 写真:Getty Images

※ ※ ※

 この状態は、リードを保ちたい、保たなければならないという守りの気持ちによってネガティブに引っ張られている状態です。松山選手のレベルでも、優勝争いをする中で5打のリードを一瞬にして吐き出し、最終日独走体制を保つのは本当に難しいんだと私自身も気付かされました。どうしてもゴルフでは、心の構造を置き去りにすると、80%はネガティブに引っ張られてしまうのです。

 潜在意識に少しでも不安があったり、ミスのイメージが残ってしまうと、無意識でも実際のストロークはマイナスを反映してしまうという厄介なシステムなのです。潜在意識をコントロールするのは心の技術ですが、その場面だけやろうとしても通用しません。普段からの思い、発する言葉、考え方、感謝、受け入れ、イメージの描き方、経験、整理整頓など、日常から整えていくことで本番でも発揮されやすいのです。

 普段のラウンドでどれくらいネガティブな発言や考え方をしているかをカウントすると、無意識にネガティブへ引っ張られているのがよく分かります。同じような心の問題は、日常生活でも学校や会社での人間関係でも起こり得ます。潜在意識をどうコントロールできるかが心の技術であり、今まで見落とされてきた部分でもあります。

 ネガティブな態度はミスを誘発し、ネガティブな言葉はよりパワーがありミスを確定させます。そういった観点から、アマチュアの方もネガティブな言葉を発したり、態度に出すことから減らしていくことが必要になります。

 同じ発するにしても「今日はダメ」ではなく、「そろそろ良くなりそう!」に置き換えてみる。「下手だな」ではなく、「次はこうしよう!」と苦難に感謝することで、過去の失敗を成功に書き換えやすくなっていきます。

「無心で打ったら入った」=高い集中力やパフォーマンスを発揮できる心の状態

 優勝を引き寄せた17番のロングパットについて発した「無心で打ったら入った」というコメントは、非常に高い集中力やパフォーマンスを発揮できた心の状態を指しています。

 無心という表現は結果論として捉えることが多いと思いますが、「入れたい!」「決めたい!」「外したくない!」という自分がどうしたいかの欲、「入れなければ!」「外れたらどうしよう!」という不安、そしてライン読みや技術的な雑念を排除し、心が穏やかな状況に置かれたことで、イメージした通りの体の反応が得られたことを意味します。

「ゾーンに入る」と例えられることもありますが、経験や記憶に従ってできるイメージで自然な動作ができてしまうという心の技術が、ここぞという場面で発揮されたのです。

【解説】丹波幸一

元プロ野球審判で現在メンタルアドバイザーの丹波幸一氏

元プロ野球審判で現在メンタルアドバイザーの丹波幸一氏

現在、プロゴルファーをはじめさまざまなスポーツ選手のメンタルアドバイザーを務めている。2022年シーズンまでの30年間、プロ野球審判員として通算2153試合を裁き、第3回ワールドベースボール・クラシック(WBC)、東京2020オリンピックの出場経験、プロゴルファーや他アスリートへのメンタルアドバイス経歴を踏まえ、ランチェスター経営をベースに、経営者のコーチングや企業セミナー、講演活動など、ヒトに関する問題に携わっている。

ジャンルで探す