イスラエルのレバノン侵攻とイランのミサイル報復で混迷の中東情勢、なぜ止められない?日本経済への影響は?

イスラエル軍が18年ぶりにレバノンへ侵攻したのを受けて、イランがイスラエル国内に弾道ミサイルを発射する事態になった。すでに軍事侵攻をしているガザ地区に加えて、レバノンにも戦火が拡がった。国際世論が自制を呼びかける中、なぜ紛争は拡大するのか?そして日本経済への影響は?

ハマスよりもはるかに強力なヒズボラの軍事力

レバノン侵攻の目的は国土防衛のため、同国に展開するイスラム教シーア派組織ヒズボラを殲滅(せんめつ)するため。ガザ地区を支配していたスンニ派組織のハマスへの攻撃と同じ理由だ。

2023年に入ってイスラエル軍が占領下のパレスチナ領内でパレスチナ人を約250人殺害したことなどを受けて、ハマスが同年10月にイスラエル南部に侵攻。イスラエル人約1400人を殺害し、約240人を人質として拉致した。イスラエルは、その報復と国民の安全を守るためとしてガザ地区で大規模な空爆と地上作戦を決行した。ガザ地区での死者は民間人を含めて4万人を超えている。

ヒズボラはガザ侵攻が始まると、ハマスを援護するためとしてレバノン南部からイスラエル北部への攻撃を続けてきた。そして、ついに欧米諸国が懸念していたイスラエルによるレバノン侵攻が始まったわけだ。

ヒズボラはイスラエルとの国境地帯の岩盤地帯にトンネル陣地を構築しており、ハマスが砂地に掘った地下通路とは段違いに強靭なものになっている。イランからは大量の兵器が供給され、ミサイルやロケット弾などの「飛び道具」だけでも12万〜20万発を備蓄しているという。イスラエルに封鎖されているガザ地区と違い、シリア経由で物資も潤沢に補給できるため継戦能力も高い。

イスラエルは現時点でハマスさえ完全に制圧できてない。軍事力がはるかに強大なヒズボラとの全面戦争となれば、紛争がさらに長期化するのは必至。中東の不安定化が一気に加速することになりそうだ。

イスラエルが紛争を拡大する「二つの理由」

なぜ、ここまでイスラエルと周囲のイスラム勢力との軍事衝突が深刻になっているのか?先ずは親米国家の軍事侵攻に批判的なロシアが、イスラエルに敵対するイスラム勢力への軍事支援をする可能性がほとんどないこと。つまりロシアがシリア内戦のような軍事介入をせず、中立を保つ確信があることだ。

ロシアのプーチン大統領はイスラエルによるパレスチナ侵攻を形の上では批判しているが、イスラム勢力にテコ入れする兆しはない。イスラエルとしては最悪のケースでもイランとの戦闘を想定すればよく、その場合はイランと政治的に対立している米国からの軍事支援を間違いなく受けられる。

高橋和夫放送大学名誉教授は「イスラエルは基本的には旧ロシア帝国圏からの移民が作った国で、東欧的な社会制度で建国した。プーチン大統領とも対話を続けており、イスラエル軍機がシリア上空を通過してイランを空爆できるのも、シリアの制空権を持つロシアが認めなければ不可能だ。イスラエルもウクライナへの軍事協力をしないなど、ロシアに配慮している」と指摘する。

次にイスラエルのネタニヤフ首相が抱える個人的な事情だ。ネタニヤフ首相は規制で当局に有利な働きかけをした見返りとして大手通信会社Bezeqに同社所有のニュースサイトで自らに好意的な報道をさせた件や、米ハリウッドのプロデューサー、アーノン・ミルチャン氏などの富豪たちから便宜の返礼として70万シェケル(19万5000ドル=約2800万円)相当の贈答品を受け取った件などで現職首相としてイスラエルで初めて裁判の被告となった。

ネタニヤフ首相は裁判がうやむやになるか、自身に有利な方向に世論が動かない限り、紛争を止めないとの見方もある。国民の望む人質解放交渉よりもハマス殲滅を優先し、ガザ地区での紛争が長期化しているのも事実。さらに極右政党が連立政権からの離脱をちらつかせて、軍事侵攻の継続を主張していることも影響している。政権が崩壊すれば、裁判に圧力をかけることができなくなるからだ。

「イスラエル国内では、一連の軍事作戦が裁判逃れだと言われている」(高橋名誉教授)が、ガザ侵攻の終結が見えた時点でレバノンに侵攻したことも、こうした見方を後押ししている。

懸念される日本経済への影響

ともあれ中東情勢の不安定化は日本経済にとっても無関係ではない。レバノン侵攻を受けた2日の東証株価は一時1000円以上値下がりした。最も大きな懸念材料は原油高とそれに伴う物価高だろう。

現時点で原油先物価格に目立った値動きは見られないが、イランの本格参戦となると一気に高騰する可能性がある。物価高が個人消費の落ち込みや企業の投資見送りにつながる恐れもあり、そうなれば国内景気の低迷は避けられないだろう。

M&Aでも2015年以降の10年間にイスラエル企業と日本企業間のクロスボーダーM&Aは10件あるが、中東情勢の不安定化や紛争に対する国際的な非難の流れを受けて、今後は減少も懸念される。

イスラエル企業と日本企業間のM&A

文:糸永正行編集委員

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