長期化するウクライナ侵攻の結末はどうなる?東アジアにも影響が

ロシアによるウクライナ侵攻の出口が見えない。長期化する紛争の「結末」はどうなるのか?東アジアへの影響は?日本記者クラブで記者会見を開いた英国王立防衛安全保障研究所(RUSI)インド太平洋安全保障上級研究員のフィリップ・シェトラー・ジョーンズ博士がM&A Onlineの質問に答えた。

ウクライナ侵攻に「ハッピーエンド」はない

ジョーンズ博士は「ロシア、ウクライナのどちらが勝っても、あるいは和平が結ばれても良い形では終わらない」と悲観的な結末を予想している。仮にロシアが勝った場合は「ロシアがウクライナを領土に組み入れたとしても戦争は終わらない。この成功体験から、ロシアはさらに支配圏を広げようと次なる軍事行動に移るだろう」と予測した。

フィリップ・シェトラー・ジョーンズ博士

質問に答えるフィリップ・ジョーンズ博士

では、ウクライナが勝利したら、どうなるのか?「ロシアは相当の軍事力を投入しているので、敗戦となると軍事力の消耗度は大きい。その結果、ロシアの不安定化につながり、ヨーロッパからアジアに及ぶ広大なエリアでのパワーバランスが崩れるだろう。新たな戦争の火種になりかねない」と懸念を示した。

和平が成立した場合も「結局は妥協となり、ウクライナの主権がどこまで守られるのかが問題になる。同国の領土が一部でも割譲されれば、ロシアにすれば侵攻で『ご褒美』がもらえたことになる。その結果、中国や北朝鮮に力による国境線の変更が可能になった『新しい世界秩序』が成立したと受け取られる。東アジアをはじめとする世界情勢の不安定化につながる可能性が高い」と見ている。

ロシアが侵攻を維持できるのは、長くても1年半

会見に同席したRUSIの秋元千明日本特別代表はロシア軍の兵力と装備の現状やウクライナ軍のクルスク州への反攻、今後の戦況の見通しなどを説明。ウクライナ軍の作戦目的やロシア軍の人的・物的資源の制約にも言及した。

秋元千明日本特別代表

「ロシア軍の消耗は激しい」と分析する秋元日本特別代表

ウクライナ軍のクルスク州への反攻については「ロシア軍の補給ラインを遮断し、東部戦線からロシア軍の兵力を分散させるため。また心理的な効果や、ロシアの国内世論に影響を与えるためとも考えられる」と説明している。

ロシア軍の継戦能力について前線に投入する戦車などの装甲車両の台数が激減しており、歩兵の消耗率が高まっていることから、「西側諸国の軍事支援が継続して北朝鮮とイラン以外にロシアに軍事支援をする国が現れないとすれば、2024年末以降は人員と装備の不足が深刻になり防御に転じざるを得なくなる可能性が高い。戦闘能力はあと12カ月から18カ月はないか」と指摘した。

ウクライナ侵攻は2025年から2026年前半までには終結する可能性が高いとの予測だが、戦後復興は日本を含む西側諸国にとっても大きな課題であり、半面ビジネスチャンスでもある。日本企業もウクライナ復興に向けた準備を進めるべきだろう。侵攻が終結すればエネルギーや穀物の価格も下落に転じ、地政学的リスクはともかく世界経済にとっては良い兆しとなる可能性が高い。

文:糸永正行編集委員

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