イラン改革派大統領誕生で、日本との通商関係は復活するか?

イラン大統領選挙で改革派のマスード・ペゼシュキアン氏が当選し、欧米との融和路線に傾くのではないかとの期待が高まっている。豊富な石油資源を持ち、「親日国」でもあるイランとの通商再開は日本企業にとっても朗報だ。新政権誕生はイランビジネスの再開につながるのか?

改革派大統領の就任で経済制裁解除は実現するか?

保守派でイスラム教シーア派高位聖職者だったライースィ前大統領のヘリコプター墜落事故死を受けての大統領選挙で、改革派のペゼシュキアン元保健相が当選した。西側諸国との「建設的な交渉」を主張するペゼシュキアン氏の大統領就任で、核兵器開発に伴う経済制裁解除に向けた期待が高まっている。

しかし、中東情勢が専門の田中浩一郎慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科教授は「イランに対する経済制裁解除の正攻法はJCPOA(包括的共同作業計画)の再開か再構築だが、(イラン大統領が交代して欧米に接近したとしても)いずれも難しい。すなわち制裁解除はできないように見える」と指摘する。日本記者クラブ(東京都港区)の会見で、M&A Onlineの質問に答えた。

「改革派の大統領が誕生しても、対イラン経済制裁解除は難しい」と話す 慶応大の田中浩一郎教授

「改革派の大統領が誕生しても、対イラン経済制裁解除は難しい」と話す 慶応大の田中浩一郎教授

トランプ前米大統領が一方的にJCPOAから離脱したのに端を発し、その反動でイランがウラン濃縮を再開。すでにウラン濃縮技術は確立している。仮にイランが核関連施設を全面廃棄したとしても再開発は容易であり、今となってはJCPOAに核拡散防止の実効性はない。

米国が動かなければ、日本のイランビジネスは不可能

バイデン政権になっても、核武装に猛反発するイスラエルやイスラエル・ロビーからの強い要請もあってイランとの関係改善は進まなかった。改革派のペゼシュキアーン氏が大統領に選ばれたにもかかわらず、「自由で公正な選挙ではなかった」と言うのがバイデン政権の公式見解だ。

「今年の米大統領選挙でトランプ前大統領とハリス副大統領のいずれが当選しても、制裁緩和に向けたプロセスが進む可能性は低い」(田中教授)のが現実。その上で、今後のイランの対応については「制裁の解除ではなく、回避の方策を探ることになるだろう」と見る。

具体的には日本を含めた西側諸国との通商関係を正常化するよりも「BRICS (ブリックス=ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)や第三世界、グローバルサウス(南半球に位置するアジアやアフリカ、中南米地域の新興国)との交易に軸足を移すことになっていくのではないか」(田中教授)という。

「BRICSが(イラン制裁で取引不可能になっている)米ドルではない新たな決済システムを仮に作れるのであれば、その下で通商する方向での努力に落ち着くのではないか」と予測する。

日本については2019年3月以降イラン産原油を輸入しておらず、交易が寸断されている。田中教授は「日本の金融機関や企業が米国のドル決済システムに依存している以上、イランとの取引を再開できる環境にはならない。経済制裁が復活して5年経ち、先行きも見通せないことから、イランから完全撤退する日本企業が増えるだろう」との厳しい見方をしている。

ちなみに2008年以降、上場企業に義務付けられている適時開示情報で公表されたイラン企業とのクロスボーダーM&Aは1件もない。

文:糸永正行編集委員

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