【歯愛メディカル】ニッセンの子会社化で事業が急拡大

歯科製品の通販事業などを展開する歯愛メディカル<3540>が、婦人服を中心とした通販会社であるニッセンホールディングス(京都市)を傘下に収めたことで、ステージが大きく変わろうとしている。

2023年10月に完成した従来の約3倍の出荷能力を備えた新本社ロジスティクスセンターで、ニッセンの商品を取り扱うことで物流コストを低減するとともに、両社の商品を相互に取り扱うことでシナジーを創出しようという作戦だ。

歯愛メディカルの2024年12月期の売上高は500億円の見込みで、ニッセンの2024年2月期の売上高は400億円弱だった。両社の売上高を単純に合計すれば一気に1000億円の大台が見えてくる。

さらにニッセンのほかに、2008年に子会社化した歯科医院向け通販会社のデンタルフィット(石川県白山市)や、2023年12月に小田急電鉄<9007>から33.21%の株式を取得した女性下着通販会社の白鳩<3192>(2024年2月期の売上高は63億7200万円)の物流も請け負うことで通販関連の事業を大きく伸ばすことができる。

合わせて同社では通販事業だけでなく、人手不足状態にある歯科技工の分野でも技工所のM&Aに前向きで、拠点を増やしつつある。

1000億円の大台乗せはそう先のことではなさそうだ。

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債務超過を解消し再スタート

歯愛メディカルは2024年7月に、セブン&アイ・ホールディングス<3382>傘下のニッセンホールディングスを子会社化(取得価額は41億9900万円)した。

ニッセンの2024年2月期の売上高は395億7100万円(前年度比3.6%減)、営業利益は2億1100万円(同40.0%減)の減収営業減益決算だった。また、このところ業績は振るわず、歯愛メディカルが公表した資料では、ここ3年は200億円を超える債務超過に陥っている。

ただ債務超過は買収時に解消されることになっており、セブン&アイグループ内の貸し付けについても全額返済されることが買収の前提となっている。これら取り決めが実行されれば、外部金融機関からの借り入れがないため、借入金はゼロの状態となる。

ニッセンは、債務超過が解消し借入金がゼロになった状態で、歯愛メディカルの元で再スタートを切ることになる。

一方、歯愛メディカルが石川県能美市に建設した新本社ロジスティクスセンターは、バケット自動倉庫などの最新鋭の設備を導入しており、作業効率や生産性が高く、商品の保管能力や出荷能力が一気に上昇する。

同社では商品購買や管理、受注などを請け負う3PL 事業(物流受託事業)を拡大する計画で、新たな顧客企業の開拓にも取り組むとしている。

新しい物流センターは投資総額が約230億円に達する社運をかけたプロジェクトであり、同社では「日本海側にあるため、太平洋側の有事の際でも関東圏、中部圏、関西圏などへのアクセスが可能であり、サプライチェーンの分断リスクの低減に寄与する」として期待を高めている。

この物流拠点とニッセンをうまく結びつけることで、大きく羽ばたこうとしているのだ。

ニッセンによるM&Aの再開も

ニッセンは、幅広い年齢層の女性顧客を有しており、婦人服のほかインテリアや雑貨などを取り扱っている。

一方、歯愛メディカルが取り引きをしている歯科医院などでは女性医療従事者が多く、両社の強みを組み合わせることで女性の潜在ニーズに対応した事業を共同で展開できる。

歯愛メディカルではニッセンの商品を歯愛メディカルの通販で取り扱うほか、新たに介護関連分野でファッション商品を拡充するなどの対策に取り組む計画だ。

またニッセンは、ニッセングループの成長戦略の立案をはじめ、M&Aなどによる新規事業開発にも力を入れており、これまでも多くの企業の買収を手がけてきた。

すでにこれら企業は手放しているが、歯愛メディカル傘下で業績が好転すれば、再びM&Aに乗り出すことも考えられる。

韓国のImagoworksとの資本業務提携

歯愛メディカルは、こうした通販事業の強化策と並んで、人手不足に陥っている歯科技工の分野でも、AI(人工知能)の活用や、DX(デジタル技術で生活やビジネスを変革する取り組み)化を推進することで、成長を加速する方針を打ち出している。

その一つが2024年6月に行った韓国のImagoworksとの資本業務提携だ。ImagoworksはAIを使って歯科分野で事業拡大を目指すソフトウエア開発会社で、同社のサービスであるDentbirdは、クラウン(かぶせ物)をAIで自動的にデザインすることができる。

Dentbirdによりデザイン業務時間を短縮することで、歯科技工業界の人員不足問題の解決に寄与できるという。

歯愛メディカルは2022年にDentbirdの独占販売代理店契約を結び、2023年からDentbirdのサービスを提供してきたが、今回の資本業務提携によりサービスを販売するだけではなく課題点などをフィードバックし、顧客のニーズに沿ったサービスを展開するほか、新たなサービスの開発にも両社で取り組むという。

歯科技工の分野ではM&Aも進めている。2022年12月期にTDS、サクラ歯研、ナイキ歯研の3社の歯科技工所を子会社化しており、この効果もあり2023年12月期は、歯科技工関連の事業が堅調に推移した。

今後もこの方針に変更はなく、M&Aによって傘下に入る歯科技工所は増えることになりそうだ。

歯愛メディカルの沿革と主なM&A

2024年12月期は売り上げが大きく上振れ

歯愛メディカルは、歯科材料の通販を目的に2000年に石川県で設立された。2015年に太陽光発電による電力事業に乗り出し、2020年に電力小売りを手がけるワンレクトホールディングスや、四つ葉電力、新潟県民電力を子会社化したが、いずれも2021年に売却した。

直近では2024年8月に、歯科医院向け事務業務代行サービス子会社のデンタルサポートセンター(大阪市)を同社社長の松久慎太郎氏に譲渡した。

同センターは2021年に松久氏との共同で設立した企業だが、同様のサービスを行う企業との競争が激しく、事務業務を行うスタッフの採用も難航したことから受託件数が伸び悩んでいたため、同事業から撤退することにした。

現在、歯愛メディカルは歯科医院をはじめ、介護・福祉施設や病院、調剤薬局、理美容・エステサロンなど向けに、通販用カタログをそれぞれ年に1回から数回発行し、歯科関連商品をはじめさまざま商品を販売している。

業績は順調に推移しており、2024年12月期の売上高は500億円(前年度比9.6%増)、営業利益は35億2800万円(同18.0%増)を見込む。新物流センターの建設に関わるコスト上昇などの要因で減少していた営業利益は増加に転じる。

ニッセンの子会社化による同期の業績に与える影響は「精査中」として公表していないが、売り上げが大きく上振れすることは間違いない。

新しい物流センターの影響も小さくはない。歯愛メディカルの2024年12月期は、どのあたりに着地することになるのだろうか。

歯愛メディカルの業績推移

2024/12は予想

文:M&A Online記者 松本亮一

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