スカイダンスのパラマウント買収に待ったをかけた男の「意外な経歴」

2024年7月に暫定合意した米独立系映画製作会社スカイダンス・メディアによる米メディア・映画大手パラマウント・グローバルのオーナー企業ナショナル・アミューズメンツを買収に「待った」がかかった。名乗りを上げたのはカナダ酒造大手シーグラムの創業家出身のエドガー・マイルズ・ブロンフマン・ジュニア氏だ。日本での知名度は高くないが、米メディア業界再編のキーマンとされる。一体、彼は何者なのか?

エンタメ参入でシーグラムを失った御曹司

ブロンフマン氏は1955年生まれの69歳で、シーグラム・カンパニーを創業したブロンフマン家5人兄弟の次男。母親はリーマン・ブラザースのオーナー家出身で、父方・母方ともに経済界の名門家に生まれたサラブレッド的な存在だ。

最初のキャリアは映画やブロードウェイのプロデューサーだったが、1982年に家業のシーグラムに戻り、英シーグラム・ヨーロッパ(ロンドン)のマネージング・ディレクターに就任した。1984年にはシーグラムの米マーケティング部門であるハウス・オブ・シーグラムの社長となる。

その後、シーグラムの最高経営責任者(CEO)となったブロンフマン氏は、同社の総利益の約70%をもたらしていた米化学大手デュポン株を同社に買い戻してもらった売却益90億ドル(約1兆3300億円)で、音楽業界大手のポリグラムと映画大手のMCAとユニバーサル・ピクチャーズを買収。エンタテインメント業界へ進出する。

しかし、これが裏目に出てシーグラムは経営不振に陥る。2000年に同社を仏メディアコングロマリットのヴィヴェンディへ売却することに。ブロンフマン氏はヴィヴェンディが新たに設立したメディア会社のヴィヴェンディ・ユニバーサルの社長となるが、翌2001年に取締役会副会長となり、業務執行から手を引かざるを得なくなる。

投資会社に転身してメディア再編の重鎮に

2002年にブロンフマン氏は民間投資会社アクレティブLLCのゼネラルパートナーに転じ、2004年に米ワーナーミュージックグループの買収を完了。7年間にわたって同社の会長兼CEOを務めた。ワーナーでは楽曲提供のデジタル化やアーティストとの関係見直し、音楽ビジネスでの収益源の多様化などを実現。2005年には株式公開にこぎつけた。2011年にブロンフマン氏は、同社を33億ドル(約4870億円)で米アクセス・インダストリーズに売却する。

2017年には米メディアコングロマリットのメレディスコーポレーションと組んで、米タイム社の買収を発表し、翌年に完了するなど、メディア業界のM&Aで名を馳せる。

2017年にルミナリ・キャピタルの創設者ダニエル・レフ氏と共同で、ベンチャーキャピタルのウェイヴァリー・キャピタルを設立。同社はメディア、エンターテインメント、スポーツ業界で1兆ドルを超える投資を実施しているという。現在、ブロンフマン氏はウェイヴァリー・キャピタルの会長兼ゼネラルパートナーを務めている。

スカイダンスはナショナル・アミューズメンツ側に17億5000万ドル(約2580億円)での買収を提案した。ブロンフマン氏は米投資大手のフォートレス・インベストメント・グループや、動画配信機器の米ロク米独立系映画プロデューサーのスティーブン・ポール氏らの協力を得て買収に当たる。

映画・音楽業界でのM&Aを含む豊富な投資実績を持つブロンフマン氏が、パラマウント買収に競り勝つのか?投資家だけでなく、エンターテインメント業界でも注目されている。

文:糸永正行編集委員

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