増加するTOB、上期だけで15年ぶりに40件台乗せ|投資ファンドが牽引役に

TOB(株式公開買い付け)が積み上がっている。2024年上期(1~6月、届け出ベース)は41件と前年を13件上回った。上期で40件を超えるのは2009年(42件)以来15年ぶりだ。牽引役となっているのが海外勢を中心とする投資ファンド。投資ファンドが関与するTOBはここまで15件と全体の3分の1以上を占める。

不成立の2件は対抗TOB絡み

月別にTOB開始の届け出をみると、1月7件、2月6件、3月3件、4月6件、5月8件、6月11件で推移した。このうちMBO(経営陣による買収)を目的とする案件は10件で、上期を終えた時点で早くも5年連続の年間2ケタに乗せた。

全41件のうち、TOBの不成立は2件。外食のホリイフードサービスをめぐるTOBと、物流のC&Fロジホールディングスに対する同業のAZ‐COM丸和ホールディングスによるTOBが6月に相次いで不成立に終わった。この2件はいずれも対抗TOBの出現で「待った」がかかる形になった。

ホリイフードに対しては、経営破綻した親会社が所有する同社株を破産管財人から取得することを目的に麻布台1号有限責任事業組合(東京都港区)によるTOBが進行中のところに、別の企業がホリイにTOBを行う予定を発表。破産管財人は新たな買収提案を検討するため、麻布台1号のTOBへの応募を取りやめた経緯がある。

敵対的案件が1件

C&Fロジに対してはAZ‐COM丸和が相手の同意を得ないまま5月初めにTOBを始めたが、その後、佐川急便のSGホールディングスが好条件を提示して参戦した。C&FロジはAZ‐COM丸和のTOBに反対を表明。これにより、今年初の敵対的TOBが確定した。

C&Fロジホールディングスに対抗TOBを実施した佐川急便のSGホールディング

争奪戦といえば、2023年暮れから今年初めにかけて、福利厚生サービス大手のベネフィット・ワンをめぐる一件が思い出される。医療情報サービス大手のエムスリーによるTOBが昨年11月半ばから始まっていたが、第一生命ホールディングスが待ったをかけ、最終的に買収合戦を制した。

産業用プリンター大手のローランドディー.ジーをめぐっても、米投資ファンドのタイヨウ・パシフィック・パートナーズとブラザー工業による争奪戦の構図となったが、ブラザー側がTOB実施を見送った。

2020年を境に息を吹き返したTOB

TOBはリーマンショック(2008年)を経て2010年代は年間40~50件台で推移し、2014年には36件まで落ち込んだ。

息を吹き返した20年は60件、21年は70件に伸ばした。東証市場再編があった22年は54件に減ったが、23年は74件と09年(79件)以来の高水準を記録。この流れを引き継ぎ、TOBは24年上期も活況を呈する展開となった。

※2024年は上期(1~6月)、M&A Online作成

金額トップはJSRの非公開化案件

金額トップは官民ファンドの産業革新投資機構(JIC)が半導体材料大手のJSRを買収し、非公開化した案件で、買付代金は最大9000億円に達した。ただ、JSRへのTOBは昨年6月に計画が発表された後、各国競争当局などの承認を経て今年3月から4月にかけて買い付けが行われた。

今年に入って発表された案件として最も大きいのはKDDIが実施したローソンに対する5000億円規模のTOB(4月末に成立)。ローソン株の50%を取得して三菱商事との折半出資による共同経営に乗り出す。

これに次ぐのはキリンホールディングス。最大約2200億円を投じて、サプリメントなど健康食品大手のファンケルを子会社化するもので、TOBが6月半ばから進行中。

キリンは2019年に33%を出資し、ファンケルを持ち分法適用関連会社としていた。主力のビール市場が伸び悩む中、酒類・飲料、医薬品に続く第3の柱としてヘルスサイエンス領域を育成中で、その要に健康食品を位置付ける。昨年8月には、オーストラリアの健康食品大手ブラックモアズを約1690億円で買収した。

投資ファンドの関与が激増

足元のTOB戦線の活況を牽引しているのが海外勢を中心とする投資ファンド(投資銀行も一部含む)の存在だ。上期のTOB全41件のうち、3分の1超にあたる15件で投資ファンドが関与している(一覧表)。

前年の2023年は年間を通じて11件だったので、明らかな“激増”といえる。なかでも海外投資ファンドは記録的な円安を追い風に、日本市場での買収を加速している形だ。

投資ファンドの顔ぶれをみると、海外勢が11件のTOBに関与し、国内勢による4件を圧倒した。

◎2024年上期:投資ファンドが関与するTOB15件の一覧

届け出 対象企業 買付者
1月 T&K TOKA 米ベインキャピタル
ペイロール MBO、米TAアソシエイツ
ベネッセホールディングス MBO、スウェーデンEQT
2月 ウェルビー MBO、ポラリス・キャピタル・グループ(国内独立系)
ローランドディー.ジー. MBO、米タイヨウ・パシフィック・パートナーズ
アウトソーシング MBO、米ベインキャピタル
スノーピーク MBO、米ベインキャピタル
3月 JSR 産業革新投資機構(JIC)
5月 ジャパンフーズ アイ・シグマ・キャピタル(丸紅系)
日本KFCホールディングス 米カーライル・グループ
日本ハウズイング MBO、米ゴールドマン・サックス
6月 永谷園ホールディングス MBO、丸の内キャピタル(三菱商事系)
NCホールディングス 米MIRIキャピタルマネジメント
サン電子 米トウルー・ウインド・キャピタル
インフォコム 米ブラックストーン

MBOではファンドと連携が主流に

米ブラックストーンは、帝人の上場子会社で電子漫画配信サイト「めちゃコミック」を運営するインフォコムをTOBなどで買収する。買収総額は2758億円で、このうちTOB分が1414億円。帝人はTOB成立後、インフォコムが実施する自社株買いに応じて全株式(保有割合約58%)を売却する。

海外勢では米国以外で唯一、スウェーデンに本拠を置く欧州投資ファンドのEQTがベネッセホールディングスのMBOを主導した。

また、投資ファンドがかかわった15件のTOBのうち、株式非公開化を目指すMBOは8件と半数以上を占めた。

MBOではこれまで買収資金を銀行融資に頼るケースが一般的だったが、近年は豊富な資金力に加え、優れた経営ノウハウの獲得などを目的に、海外投資ファンドと連携する動きが流れになりつつある。

文:M&A Online

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