韓国の製鉄会社ポスコの保有株を売却する「日本製鉄」USスチール買収に向け資産の圧縮が進むか

米国の製鉄会社USスチールの買収で注目を集める日本製鉄<5401>の動きが活発化してきた。同社は2024年9月24日に、韓国の製鉄会社ポスコホールディングスの保有全株式(保有割合は3.42%)を売却することを決めた。

資産圧縮による資本効率の向上が目的で、売却価格は1200億円ほどになる見込み。売却時期は、市場の動向などを見極めたうえで判断するという。

一方USスチールの買収価格は141億2600万ドル(約2兆円) で、資金調達については、主に主要取引銀行からの借入金で対応する。

日本製鉄の2025年3月期は売上高8兆8000億円(前年度比0.8%減)、事業利益(売上高から売上原価、販管費、その他費用を控除し、持分法による投資利益、その他収益を加えたもの)7000億円(同19.5%減)の減収減益見込み。

USスチールの買収については米国の労働組合が反対しているほか、米国の次期大統領候補も難色を示しているが、日本製鉄では「USスチールの買収により、将来ビジョンの事業利益1兆円の早期達成を目指す」としており、2024年12月までに買収を完了したい考え。

巨額の投資を控え、資産圧縮による資本効率の向上に向けた動きは、今後も続く可能性は高そうだ。

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株式売却後も提携関係は維持

日本製鉄は1998年に、ポスコ株の0.65%(ポスコは日本製鉄株0.24%を取得)を取得したのに続き、2000年にポスコとの間で戦略的提携と相互出資の契約を結び、日本製鉄がポスコ株の3%程度を、ポスコが日本製鉄の2%強を取得した。

2006年には提携関係を強化し、半製品の相互供給を始めるととともに、日本製鉄がポスコ株式を2%程度追加取得し、ポスコも日本製鉄株を同等金額程度取得した。

2012年には日本製鉄が、同社が持つ方向性電磁鋼板にかかわる営業秘密をポスコが不正取得、不正使用したとの理由で、損害賠償と方向性電磁鋼板の製造、販売などの差止めを求める民事訴訟を起こし、2015年に和解した経緯がある。

翌2016年には資産圧縮による財務体質改善を目的に、日本製鉄が保有するポスコ株式439万4712株のうち150万株を売却し、出資比率を引き下げていた。

2024年8月には戦略的提携契約を更新し、カーボンニュートラル(温室効果ガスの排出量と吸収量を均衡させる取り組み)、半製品の相互供給、技術交流などに取り組む体制を確認したばかり。

今回、保有してきたポスコ株式(289万4712株)を売却することを決めたが、株式売却後も、両社の提携関係は維持し「さらなる成果の発揮に取り組む」としている。

ポスコは1968年に韓国の公営企業として設立された浦項製鉄がスタートで、1973年に韓国初の一貫製鉄所を竣工するなど韓国の製鉄業をリードしてきた。韓国政府は1988年にポスコを民営化し、株式を公開した。

買収後のガバナンス方針を公表

日本製鉄は2024年9月4日に、USスチールの生産能力の増強や最先端の技術導入などのほか、USスチールの取締役の過半数を米国籍とすることや、買収に伴うレイオフ(一時的解雇)や工場休止、閉鎖は行わないことなどからなる買収後のガバナンス(統治)方針を公表した。

この方針は、USスチールが米国産業界で米国の象徴的な企業であり続けるために策定したもので「米国の国家安全保障を強化するものであり、国家の支援を受けている中国鉄鋼メーカーに対抗するための競争力を高めることになる」としている。

買収完了時期については、米国司法省から企業結合審査において追加情報や資料の請求があったため、2024年5月に従来の2024年4~9月から、同年7~12月に変更したが、買収の意向に変化はない。

公表したガバナンス方針の中でも「公正かつ客観的な規制当局の審査において本買収がもたらす効果が支持され、本買収が早期に完了することを期待している」と明記している。

2025年3月期は減収減益に

2024年8月に発表した日本製鉄の2025年3月期第1四半期決算では、2025年3月期通期の業績見通しを見直し、売上高は8兆8000億円を据え置いたものの、事業利益を500億円上方修正し7000億円に引き上げた。

それでも、中国の景気低迷や欧米の景況感悪化などの影響で、売上高は4期ぶり、事業利益は3期連続の減少となる。

日本製鉄によると、USスチールの2023年12月期の事業利益は10億4700万ドル(約1500億円)だった。

事業利益1兆円の達成にとって、USスチールは大きなピースといえそうだ。

日本製鉄の業績推移

2025/3は予想、事業利益は売上高から売上原価、販管費、その他費用を控除し、持分法による投資利益、その他収益を加えたもの

文:M&A Online記者 松本亮一

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