カナダのコンビニ大手が「セブン&アイ」に買収提案、対日M&Aのこれまでを振り返る

カナダのコンビニ大手で「サークルK」などを展開するアリマンタシォン・クシュタールがセブン&アイ・ホールディングスに買収を提案した。セブン&アイは「法的拘束力のない初期的な買収提案を受けていることは事実」とし、特別委員会で検討を始めた。セブン&アイの時価総額は5兆円超。買収提案を受け入れることになれば、対日M&Aとして過去最大となる。

セブン 「本家」買収し米国トップに

セブン&アイの2024年2月期の連結売上高11兆4717億円と日本の小売業として唯一、10兆円を超える。イトーヨーカ堂を中心とする祖業のスーパー事業は売上高の13%程度にとどまり、「セブン-イレブン」を展開するコンビニ事業が8割以上を占める。

コンビニ事業では国内最大手にとどまらず、世界首位に立つ。店舗は日本を含む20カ国・地域に8万を超える。うち国内で約2万1400店舗、北米で約1万5400店舗を展開する。2005年には本家の米国7‐イレブン(セブン-イレブン)を買収し、全米トップの店舗網を獲得した。

コロナ禍の最中の2020年8月、セブン&アイは米国3位のコンビニ大手で約3850店舗を運営するスピードウェイの買収を発表した(買収完了は2021年7月)。全米1位が3位を取り込む大型買収で、セブン&アイは約2.3兆円の巨費を投じた。

全米1位が遠のいたアリマンタシォン

この時、全米トップの座が遠のくことになったのが「サークルK」などを展開する2位のアリマンタシォン・クシュタールだったのだ。当時、全米の店舗数はセブン-イレブンが約9500に対し、アリマンタシォンは約7100で、買収戦略次第で追撃が可能な位置にあった。

アリマンタシォンはカナダのケベック州ラヴェル(モントリオール郊外)に本社を置き、トロント証券取引所に上場する。2003年に、「サークルK」を運営する米国企業を買収したのがエポックとし、北米有数のコンビニ企業に成長を遂げた。

「サークルK」のほか、「クシュタール」などのブランドでカナダ、米国や欧州を中心に約30カ国・地域に展開し、約1万7000店舗を持つ。「サークルK」はかつて日本でもスーパーのユニーが運営していたが、ファミリーマートに吸収され、姿を消した。

買収提案を受け、セブン&アイは「特別委員会で企業価値を向上させるほかの選択肢とともに、慎重かつ網羅的に、速やかに検討し、返答する予定」としている。現時点で、アリマンタシォンと議論を開始するかどうかについても決定していないという。

実現なら、対日M&Aで断トツ

では、セブン&アイを買収する場合、どのくらいの金額が必要になるのだろか。

同社の時価総額はおよそ5兆2000億円。上場企業の株式を大量かつ急速に買い集める場合、TOB(株式公開買い付け)が行われるが、その際、株価に30~40%程度のプレミアムを上乗せすることが多い。大雑把な前提だが、全株取得した場合は6兆円後半から7兆円を要する。

買収金額は少なくとも5兆円以上とみられるが、外国企業が日本企業を買収対象とする対日M&A(一覧表を参照)では断トツとなる。

東芝の経営危機に際し、米投資ファンドのベインキャピタルを中心とする日米韓連合は半導体子会社の東芝メモリ(現キオクシア)を2兆円で買収したが、これをはるかにしのぐ。

日立製作所の上場子会社の再編・整理の一環として、日立金属(現プロテリアル)は約8100億円、日立物流(現ロジスティード)は約6700億円で売却されたが、買い手はいずれも米国の有力投資ファンド。両社は将来、再上場を目指すとみられる。

事業会社同士となると、シンガポール塗料大手のウットラムグループが日本ペイントホールディングスを約1兆2000億円で買収したのが最も大きい。ただ、日本ペイントが経営統合後も実質的な主導権を握っている。

古くは2000年代初め、スイス製薬大手のロシュが中外製薬を子会社化したが、これは外国事業会社による対日買収の成功モデルとされる。

近年では2021年、米決済大手のペイパルが後払い決済の国内ベンチャー企業、Paidy(ペイディ、東京都港区)を2000億円で買収したことが話題を呼んだ。

今回、買収対象となったセブン&アイの取締役会は15人の取締役のうち独立社外取締役が9人と過半数を占める。買収提案を検討する特別委員会は独立社外取締役のみで構成し、その委員長は取締役会議長・筆頭独立社外取締役のスティーブン・ヘイズ・デイカズ氏が務める。

買収提案を受けた場合の対応について、経産省は昨年8月、「企業買収における行動指針」を公表。この中で、買収提案が具体的で正当性がある内容であれば、企業側は「真摯な検討」を行うよう求めている。

祖業のスーパー事業は赤字が続く(写真は都内のイトーヨーカ堂)

構造改革の最中にあるセブン

セブン&アイはかねて物言う株主の米投資ファンドのバリューアクト・キャピタル・マネジメントから、赤字が続くイトーヨーカ堂の売却を求められるなど、スーパー事業の再構築が急務になっている。コンビニ事業への経営資源の集中を徹底するため、今年4月には祖業のスーパー事業を分離し、イトーヨーカ堂の上場を検討することを表明した。

そこに飛び込んだ想定外ともいえる買収提案だ。果たして、セブン&アイはどういうボールを投げ返すのか。

◎主な対日M&A ※はMBO(経営陣による買収)案件

公表年 日本企業(対象企業) 外国企業(買い手)
2001 中外製薬 ロシュ(スイス) 1221億円
2005西友米ウォルマート
2010 エスエス製薬 独ベーリンガーインゲルハイム 822億円
NECのパソコン事業 中国レノボ
本間ゴルフ 中国投資家グループ
2011 三洋電機の白物家電事業 中国ハイアール
2013 パナソニックヘルスケア
(現PHCホールディングス)
米KKR 1650億円
2015 日立機材(現センクシア) 米カーライル・グループ 293億円
2016 東芝の白物家電事業 中国・美的集団 537億円
カルソニックカンセイ(現マレリ)米KKR4980億円
2017 日立国際電気(現KOKUSAI ELECTRIC) 米KKR 2570億円
東芝メモリ(現キオクシア) 米ベインキャピタルなど 2兆円
シャープ 台湾・鴻海精密工業 3888億円
タカタの主要事業 中国系の米KSS(キー・セイフティ・システムズ) 1700億円
富士通のパソコン事業 中国レノボ 280億円
2018 パイオニア 香港ベアリング・プライベート・エクイティ・アジア 1020億円
2020 ニチイ学館※ 米ベインキャピタル 1100億円
武田コンシューマーヘルスケア
(現アリナミン製薬)
米ブラックストーン 2420億円
日本ペイントホールディングス ウットラムグループ(シンガポール) 1.18兆円
2021 Paidy 米ペイパル 3000億円
資生堂のパーソナルケア事業 英CVCキャピタルパートナーズ 1600億円
日立金属(現プロテリアル) 米ベインキャピタルなど 8100億円
2022 東芝キヤリア(現日本キヤリア) 米キヤリア 1000億円
三菱商事・ユービーエス・リアルティ(現KJRマネジメント) 米KKR 1157億円
日立物流(現ロジスティード) 米KKR 6700億円
ハウステンボス 香港PAG 1000億円
オリンパスの科学事業 米ベインキャピタル 4276億円
マッシュホールディングス米ベインキャピタル2000億円
2023 ベネッセホールディングス※ スウェーデンEQT 2079億円
アウトソーシング※ 米ベインキャピタル 2221億円
そごう・西武 米フォートレス・インベストメント・グループ 8500万円
2024 富士ソフト 米KKR 5583億円

文:M&A Online

【M&A Online 無料会員登録のご案内】
6000本超のM&A関連コラム読み放題!! M&Aデータベースが使い放題!!
登録無料、会員登録はここをクリック

ジャンルで探す