「めちゃコミ」買収報道のブラックストーン、どんなファンド?
米投資ファンドのブラックストーンが、インフォコム(東京都港区)を買収すると一斉に報道された。同社は電子マンガ配信サービス「めちゃコミック」を運営するアムタス(同)の親会社。ブラックストーンは今後3年間で日本企業に1兆5000億円を投資する方針で、その一環となりそうだ。日本でのM&A攻勢を強めるブラックストーンとは、どんなファンドなのか?
日本では不動産投資で注目
同社は1985年に設立された大手投資ファンド。2007年に東京オフィスを開設し、これまでに日本で約1兆5000億円の投資を実施している。
特に不動産投資で注目され、2021年に三越伊勢丹ホールディングス<3099>から三越伊勢丹不動産(東京都新宿区)の全株式を取得。同年に近鉄グループホールディングス<9041>から都ホテル京都八条(京都市)や神戸北野ホテル(神戸市)、都リゾート志摩ベイサイドテラス(三重県志摩市)、都ホテル博多(福岡市)など、8ホテル(総客室数2294室)を取得した。
いずれもコロナ禍の宿泊客激減を受けて日本企業が手放したホテルを買収している。都ホテル京都八条は2023年に全面リニューアルを完了。現在は急増するインバウンド客で賑わい、宿泊単価が40万円に達した部屋もあるという。ブラックストーンの「目利き力」が遺憾なく発揮されたと言えるだろう。
ヘルスケア、デジタル化、製造業で積極投資
同社は日本で不動産のほかにも医療サービスや製薬などの「ヘルスケア」やオンライン決済代行をはじめとする「デジタル化」、ロボティクス、脱炭素、先端エレクトロニクスといった「製造業」での投資を積極的に展開する方針だ。
ブラックストーンはヘルスケアでは2019年に鎮痛剤「カロナール」を手がけるあゆみ製薬(東京都中央区)の買収を皮切りに、2021年に武田薬品工業<4502>からビタミン剤「アリナミン」や総合感冒薬「ベンザ」などの一般医薬品を製造する子会社・武田コンシューマーヘルスケア(現アリナミン製薬、東京都千代田区)の全株式を約2300億円で取得。
2024年6月中に実施予定のSMO(治験施設支援機関)事業とCRO(医薬品開発業務受託機関)事業を手がけるアイロムグループ<2372>のMBO(経営陣による買収)にも参画する。同MBOの買付代金は292億6600万円の見通し。
デジタル化では2024年1月に、ソニーグループ<6758>傘下でオンライン決済代行サービスのソニーペイメントサービス(東京都港区)の株式80%を約2億8000万ドル(約440億円)で取得して子会社化している。同社は独自の決済ネットワーク「e-SCOTT」を持ち、通信事業者や決済事業者にインフラ利用料を支払う必要がないため利益率が高い。ブラックストーンは、そこを高く評価したと見られる。
「めちゃコミ」はIP買収の皮切りか
さて、インフォコムだが、同社ついてはソニーグループと米投資ファンドのKKRも買収に向けて動いていたという。結局ブラックストーンが競り勝ち、同社株55.1%を親会社の帝人から約2700億円で取得する。
マーケティング会社のスパコロ(東京都港区)が2022年に実施した「マンガアプリの利用実態調査」によると、「めちゃコミック」は認知度と利用率で「ピッコマ」「コミックシーモア」に次ぐ国内3位の電子マンガ配信サービスだ。
ブラックストーンはIP(知的財産)関連の投資にも積極的で、傘下にメディア企業の米キャンドルメディアや英ムーンバグエンターテインメント、短編動画の米ATTNといったIP企業に投資している。
電子マンガは急成長しているデジタルコンテンツであり、収益も安定しているのが強み。作品の国際競争力も高く、日本市場のみならずグローバル市場も狙える。今回、日本でもIP分野での買収に乗り出したことで、国内での投資選択肢が広がった。
ブラックストーンは2023年末に1兆1000億ドル(約173兆円)の運用資産残高があり、国内で大型PEファンドも少ないことから日本における今後のM&Aで「台風の目」となりそうだ。
文:糸永正行編集委員
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06/14 06:30
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