早田ひなの復帰戦は「120点」 伊藤美誠を撃破の20歳など、WTTファイナルズ福岡で見えた日本女子卓球の現状

卓球 WTTファイナルズ福岡

女子編

【復帰の早田は、状態は「40%」でもプレーは「120点」】

 11月20日から24日にかけて、卓球の国際大会シリーズの年間王者を決める「WTTファイナルズ福岡2024」が、福岡県の北九州市立総合体育館で行なわれた。

 同大会は、男女シングルスの年間ポイントランキングの上位16人、男女ダブルスの年間ポイントランキング上位8組が出場。特に、日本勢で上位進出が期待されたのが女子シングルスで、5選手が世界一をかけた戦いに挑んだ。


3カ月ぶりの復帰となった早田ひな photo by Kyodo News

 昨年の名古屋大会に出場した早田ひな(世界ランキング5位/大会前時点、以下同)、張本美和(同6位)、伊藤美誠(同10位)に加え、今季の国際大会で躍進し、世界ランキングトップ10入りした20歳の大藤沙月(8位)がエントリー。さらに、夏のパリ五輪で自身初のシングルス出場を果たし、その後も国際大会に精力的に出場していた平野美宇(同13位)と、充実の顔ぶれが揃った。

 特に注目されたのは、地元の北九州に凱旋となった早田だ。日本のエースとして出場したパリ五輪ではシングルスで銅メダル、団体戦で銀メダルを獲得したが、五輪大会中に左腕を負傷した。10月のアジア卓球選手権で一度は復帰を果たしたものの、同じ箇所を再び痛めて離脱。早田にとって、およそ3カ月ぶりの復帰となった。

 早田は1回戦で、ベルナデッテ・スッチ(ルーマニア/世界ランキング17位 ※欠場選手による繰り上がり)と102日ぶりの試合に臨んだ。第1ゲームの立ち上がりは4連続でポイントを失うスタート。バック中心のラリーやサービス、機を見てフォアドライブなどを駆使して10ー9で逆転に成功したが、3連続ポイントを奪われて10ー12と先手を取られた。第2ゲームも7ー5とリードした展開から逆転されて後がなくなった。

 左腕の状態を含めた現状のコンディションについて、試合後に「40%くらい」と語った早田だが、劣勢の状況でもエースの底力を垣間見せた。第3ゲームでは、2ー2からスッチのフォア側を打ち抜く鋭いドライブを決めるなど、集結した観衆の大声援に乗せられる形で11ー6とゲームを奪取した。

 続く第4ゲームを失って初戦敗退となったものの、「練習してきたことを出すことが目標だった」と大会前の見立てを明かし、自身の評価については「120点」と採点。「今日の負けは全然悔いはない。みなさんの前でプレーできたことが良かった」と、凱旋試合としてコートに立てたことに安堵感を示した。

 早田がパリ五輪を経験した2024年を経て向かうのは、次への進化。ラリー時のバックハンドで新たな技術を取り入れて復帰戦で試すなど、「バックからフォアハンドにつなげて得点することができた」と、スッチ戦でも成果が出たことを好意的に受け止めている。

 今後の大会への本格復帰については「決まっていない」という早田だが、「パリ五輪の自分は忘れて、生まれ変わってまた新たな自分として、ひとつひとつ戦っていきたい。4年後に"本物"になれるように精一杯自分と向き合っていく」とロサンゼルス五輪を目指して力強く前を向いた。

【中国に対する「怖さ」がなくなった張本】

 昨年に続いての出場となった張本は、大会前時点で世界ランキング6位。10月のアジア選手権では団体戦決勝で中国2選手を下して金メダル獲得の立役者になった。その後の国際大会でも安定した成績を残していた16歳には、上位進出や優勝争いも期待された。

 張本は1回戦でベテランのサウスポー、田志希(韓国/世界ランキング16位)をセットカウント3ー1で退けて好スタート。昨年は世界女王の孫穎莎(中国/同1位)にフルゲームで敗れ、初戦で姿を消していたが、世界卓球やパリ五輪などで経験を重ね、たくましさを増した。

 そんな張本の前に、準々決勝で立ちはだかったのが王芸迪(中国/同3位)。今季は多くの大会で激闘を繰り広げてきた。直近の「WTTチャンピオンズフランクフルト」ではセットカウント2ー4で敗れた相手に、張本は第1ゲーム序盤を支配されて8ー11で奪われると、第2ゲームは9ー6とリードしながら王芸迪の手堅いラリーやエッジボールもあり、デュースの末に12ー14で失い王手をかけられた。

 それでも、今年の大きな大会で中国勢と試合を重ねた張本は、「対戦する回数が多くなった分、以前はメンタル的に『嫌だな』とか『怖い』という気持ちが大きかったですが、最近は気持ちの面で怖さはなくなった」と語ったように、怯む様子は見られなかった。第3ゲームでは6-6からストレートにバックハンドを沈め、10-10からは強気のフォアでポイントを奪いゲームを取り切った。

 第4ゲームは7-11で失い、セットカウント1-3で4強入りを逃したが、「ラリーの強化は毎日やっているので、そこが自分のプレーの安定性につながっている」と、現状について分析。王芸迪相手にもラリー勝負では互角に渡り合えると、この試合でも証明した。

「3球目のドライブやブロックで自分の方がまだミスが多いので、そういうところは相手よりまだ土台がない」

 そう今後の課題を口にした16歳は、世界トップに向けてまい進する。

【伊藤を撃破。躍進する20歳の大藤】

 今季の日本女子で"最大の成長株"として参戦した大藤はベスト8に入り、インパクトを残した。1回戦での伊藤との試合では、キレのある動きで立ちはだかった伊藤を前に堂々たる戦いを披露。第1ゲームこそ奪われたものの、中陣に下げられても打ち負けない強烈なバックハンドやフットワークのよさ、カウンターなどで4学年上の伊藤に立ち向かい、セットカウント3ー1で逆転勝利した。

 今年の全日本選手権で、平野にセットカウント0-4で敗れたのを機に「守から攻へ」とスタイルチェンジを図った大藤。今季の国際大会での活躍で、4月時点で125位だった世界ランクを日本勢では早田、張本に次ぐ8位まで上昇させている。

「今の女子選手ではバックを強く振る選手が少ないので、そこは自分の魅力かなと思います」と語った20歳が、早田、伊藤、平野といった黄金世代や次世代のエース候補の張本と並び、日本女子の争いに割って入った。

 今大会では、パリ五輪以来の復帰となった早田や、大舞台を多く踏みスケールアップした張本、躍進が目立つ大藤などが盛り上げ、分厚い選手層を誇る日本女子の現在地を図る機会にもなった。来年1月には全日本選手権、同5月には世界卓球の個人戦などが控え、2028年のロス五輪に向けた新たな戦いも始まっていくなか、日本女子のハイレベルな戦いが続く。

(男子編>>)

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