「TWOSTONE&Sons」はなぜM&Aで成長を目指すのか? 加藤真取締役CFOに聞く

フリーランスエンジニアの価値向上を図り、企業とフリーランスエンジニアのマッチングサービスを中心に事業を拡大させてきたTWOSTONE&Sons。これまでも積極的なM&Aによってスケールアップしてきた同社は、4月に海外投資家からの出資を受け入れ、その資金によりM&Aを行うことでさらに成長を加速させる考えだ。同社の加藤真 取締役CFO 経営戦略本部長にM&Aで成長を目指す理由や今後の投資対象などを聞いた。

M&Aを駆使して飛躍的な成長を実現

―創業10周年を迎えた2023年、ホールディングス体制に移行し、社名変更もされました。

当社はフリーランスエンジニアと企業のマッチングサービスを行う「Midworks」を中心に事業を拡大してきました。ホールディングス体制にしたのは、今後の事業拡大を見据え、グループ経営の機動性・柔軟性を高め、迅速な経営判断を可能とすることが目的です。

当社はBranding Engineerの社名で2013年に創業しましたが、エンジニア以外の事業も行っていることや、M&Aでグループインした会社がそのままの社名で事業を行うケースも少なくありませんので、それらを包括する新社名としました。

―事業拡大のためにM&Aを積極的に実施されています。その理由を教えてください。

なにより「最速スピードで成長を目指したいから」です。既存事業も着実に成長していますが、オーガニックでの成長に加えて、M&Aで非連続な成長を重ねることで、グループ全体として飛躍的な成長を遂げ、形にすることが目標です。

私たちのビジネスモデルの流れとしては、WEB広告を中心にフリーランスエンジニアを集めて、そのエンジニアと企業をマッチングし、それによって私たちも収益をいただく。そしてその収益を元手にまた広告投資を行うという、サイクルを回しています。

このサイクルは一周回るごとに、その円が徐々に大きくなっていきます。広告投資額も一周するごとに増え、集まるエンジニアの数も増えていきます。この流れが進むことにより、より多くの企業から良質な案件をもらえるようになります。そして良質な案件があるからエンジニアが登録してくれる、という好循環がぐるぐる回ることになります。

成長のためにM&Aが欠かせないと話す加藤取締役CFO

成長のためにM&Aが欠かせないと話す加藤取締役CFO

一方で、このビジネスは着実な成長は作れても、SaaSビジネスのように売り上げが一気にグンと増えないのが弱点ともいえます。そこで、成長を加速させるための手段としてM&Aが重要な選択肢となるのです。

―そのような拡大戦略で目指す先は?

今の人材市場は、リクルートやマイナビなど、大企業が運営する媒体が占めています。多くの企業がそこに登録し、求職者も複数のサイトに登録します。また介護人材業界ではエス・エム・エスが強いといったように、人材業界は中長期的には寡占化が進んでいきます。

フリーランスエンジニア市場については、まだまだ未成熟であり、どの企業もそこまでたどり着いていない状態です。競合と競争する中でトップティアになるには、他の企業よりも成長速度を上げなければならないし、成長速度をさらに加速させるにはM&Aを効果的に活用すべきだと考えます。

4月の増資はそのためでもあります。海外からの資金調達で約17億円を得て、そのうち約11億円をM&A待機資金としました。資金調達で純資産が増えたことで銀行から借り入れできる幅も増えましたし、よりレバレッジを効かせた経営を行える環境ができていると思っています。

M&Aの条件は?

―M&Aの対象や条件など、基本的なポリシーについて教えてください。

エンジニアの質、取引先企業の質、その企業の保有する営業力、この3つを考慮しながら判断しています。現時点での収益力ももちろん大事ですが、M&A後にどれだけ伸ばせるかを考慮して選んでいます。極端な話ですが、債務超過であっても、しっかりと足元の数字が出ていればスコープに入らないわけではありません。

魅力のある会社は取り合いになることもありますが、私たちは、その会社のアイデンティティを尊重することをポリシーとしています。「エンジニアを大事にしている」といった姿勢に共感してもらうことで、より高い金額でオファーしている企業ではなく私たちを選んでくれた実例もあります。

出資先のアイデンティティを尊重したM&Aを心がけていると話す加藤取締役CFO

出資先のアイデンティティを尊重したM&Aを心がけていると話す加藤取締役CFO

一方で最低限求めることもあり、グループインする会社には「成長し続ける」ことをお願いしています。そのために我々も最大限サポートする体制を築いています。

―WEBエンジニアだけでなく、AI人材を抱える企業などもM&Aの対象になるのでしょうか?

「ChatGPT」のようなAIチャットボットに関わるAIエンジニアも広義のWEBエンジニアになると考えているため対象となります。また、上流工程のコンサルティングも当社の仕事につながる点から、ITコンサルティング会社もM&Aの検討対象に入ります。

―業務内容が似ていてグループイン後も経営統合をせずに存続している子会社が多いように見えますが、それはなぜですか。

先ほどもお伝えしましたが、その会社のアイデンティティを尊重する、というのが私たちのポリシーです。グループ入りしたら、なんでも私たちの色に染めなければならない、というわけではありません。

もちろん、経営統合した例もあります。グループ会社のアイデンティティを尊重したうえで、顧客層や得意とする技術領域において類似性があったTSRとTSRソリューションズの統合やBranding EngineerとDePropの統合がまさにそうです。

一方、UPTORYという会社は、グループイン後、法人格もそのままで事業を継続しています。私たちの会社はフル出社ですが、この会社はフルリモートの会社で、そもそも文化や、アイデンティティが違うので、現時点で統合しないほうが良いと判断しています。

エンジニアの価値を高めるために大きくなる

―最後に、実現したいビジョンを教えていただけますか?

「日本に競争力をもたらしたい」という大きな目標があります。1980年代、世界の時価総額ランキングで日本企業は上位を占めていましたが、今や上位にはトヨタしか残っていません。このような悲しい状況を脱し、全体を底上げするにはどうすればいいか。その一つの回答は人材の流動性を上げることだと思います。

WEBやITは進化が速く、モノを作らなければ進化できなかった時代と違い、アイデアひとつで進化できる可能性があります。これには発想や知識の幅が大事です。社内で脈々と受け継がれていく日本の会社の雇用形態は硬直的で、人材も企業の中で閉じてしまうことになります。そこが様々な知識・経験を持った人材を受け入れるGoogleやMetaなどの海外先進IT企業との大きな違いです。

欧米では複数の企業を経験し知見を得たエンジニア同士が新たなサービスを生み出す、といったように、新たな技術・サービスを生み出す土台を作りやすい環境があります。日本の雇用形態では、この環境は生まれにくい。雇用形態を変えることも難しい。ではどうするか。そのジレンマを解決するのがフリーランスエンジニアという働き方だと考えています。

このことから「フリーランスエンジニアという働き方をもっと広めていくべきだ」と私たちは考えていますが、このイズムを世の中に定着させていくためには、会社として大きくなり、発信力を強くしなければなりません。

エンジニアの価値を高めていくために大きくなる必要がある。そこに共感し、一緒にやってくださる方は、ぜひグループに入っていただければと考えています。

文:ライター間杉俊彦

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