【オリエンタルランド ・イノベーションズ】ヒトやモノの可能性を広げる事業で社会的課題の解決を目指す│CVCのリアル

企業がファンドを組成するなどしてスタートアップへ出資するコーポレート・ベンチャーキャピタル(CVC)。続々と新たなCVCが立ち上がるなかで、各社は何を目的にどのような活動を進め、どのような効果を得ているのか。「CVCのリアル」ではそれらを明らかにしていく。

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オリエンタルランド・イノベーションズ(千葉県浦安市)は、その名の通り国内最大のテーマパークを運営するオリエンタルランド<4661>が運営するCVC。テーマパーク事業の衰えは見られないが、その依存度を下げるためのVC事業に取り組んでいる。同社の豊福力也社長に、スタートアップ投資戦略を聞いた。

テーマパーク依存からの脱却を

-CVC設立のきっかけを教えて下さい。

(親会社の)オリエンタルランドの新規事業が、ホテルを除いてなかなか大きくならなかったのが設立のきっかけです。小売や劇場などの事業展開もしましたが、期待ほどには成長しなかった。そこで自社だけではなく、他社と組むことで新規事業の立ち上げを促進することにしました。2019年秋ごろからオリエンタルランド社内で検討を始め、2020年6月にCVCを立ち上げました。

-CVCとして目指すところは?

既存のビジネスとは違う新規事業を作っていくことです。なので、親会社の主力事業であるテーマパークとは直接関係しない事業への出資に取り組んでいます。

とは言え、オリエンタルランドグループとして「夢・感動・喜び・やすらぎ」というミッションを掲げているので、そこに対してポジティブな子供や学び、観光、人材、OMO(Online Merges with Offline=オンラインとオフラインの統合)などの切り口で投資に取り組んでいます。

-親会社とは、どのような役割分担を?

私たちが新しい事業の可能性を探索していく。そして新規事業として取り込める可能性が高まった案件について、親会社に「もう少し大きくやって行きましょう」と上申する役割です。

プレシリーズAもしくはシリーズAが主な投資先

-出資枠と出資対象ステージについて教えて下さい。

出資枠は30億円です。1件当たりの投資額は3億円以内ですが、中央値は5000万円から1億円といったところです。投資先企業のステージはシードからレイターまで幅広いのですが、アーリーステージのプレシリーズAもしくはシリーズAのスタートアップが中心。出資比率は10%に満たないマイノリティー出資が多いですね。

-これまで、どのような企業に出資しましたか? 

新規事業ではOMOによって「あたらしい暮らし」を提供しているのNOT A HOTELや個別指導の学習塾「コノ塾」を運営するコノセル、客室清掃のDX(デジタルトランスフォーメーション)に取り組んでいるEdeyans、スポーツクラブ運営や学校の部活動支援に取り組むリーフラスなどに投資しています。

それほど多くはないのですが既存事業と関連する事業として、脱プラスチックのストローを開発・生産するアミカテラも投資先です。

-出資先のどこに注目していますか?

もちろん企業としての成長性を見ています。具体的には市場や競争優位性、経営者や経営チームなどの総合力で投資判断します。

-出資・協業によって、どのような成果がありましたか。

出資先企業とのジョイントベンチャーの立ち上げや、私たちにグループインしていただくなどの分かりやすい成果を期待していますが、現時点ではまだ実現していません。

ただ、出向などの交流もあり、私たちとスタートアップとのコラボレーションや信頼関係は強くなりました。成果に向けた道筋は見えており、そのための地盤づくりも確実に進んでいますね。

M&Aも選択肢の一つ

-どのような方法で対象企業を探し出しているのですか?

こちらから能動的にアプローチするアウトバウンドで見つけることが多いですね。お問い合わせも多く頂戴していますが、やはり私たちが貢献できるところをきちんと伝えたいという想いがあるので、アウトバウンドがほとんどです。

-具体的には?

スタートアップ企業のリストから投資可能性がある会社を精査して直接連絡したり、つてを頼って紹介していただいたりして接触しています。過去4年で1000件を超えるスタートアップと接触しています。そのうち出資に至ったのは15件ぐらい。

-M&Aの活用についてどう考えていますか。

新たな事業を立ち上げるのが目的なので、出資先企業と私たちの双方が望めばM&Aという手法も当然ながら選択肢に入ります。

-投資回収の期間は、どのくらいを見込んでいますか。

投資で収益を得ることが目的ではないので…。新規事業の開拓では、なるべく早い段階でグループインやM&Aを実現したいとは考えています。しっかりと戦略パートナーになることが、その可能性を高めることになるので、出資先企業との信頼関係づくりを最も重視しています。

-出資交渉はどのように進められていますか?

ケースバイケースですが、先ずは現場が検討して、出資の可能性があれば私を含めマネジメント層が交渉に当たるのが一般的です。現場から上がってくる一次情報の精度は高く、マネジメント層はお互いの相性を確認するといったところです。

戦略パートナーのポートフォーリオを増やす

-CVCで難しいと思われることは?

投資先企業のM&Aやグループインとなるとさまざまな要因があって、わが社だけでコントロールできないのが最も難しいところですね。だからこそ戦略パートナーとなる出資先を増やすことで、ポートフォーリオを多く持つべきだと考えています。

社内的には財務リターンという目に見えるインセンティブもないし、結実するまでに時間も長くかかる中で、人材の育成をどうするかがCVCの大きな課題だと認識しています。

-金利上昇の影響はありそうですか?

財務リターンを目的とするなら影響はあるでしょうが、わが社は新規事業開拓が目的なので影響は全くありません。

-どのようなスタートアップを戦略パートナーとして選びたいですか?

学びや観光、人材、OMOといった分野において、ヒトやモノの可能性を広げる事業で社会的課題の解決を目指す企業ですね。こうした企業に早い段階から戦略パートナーとして出資させていただき、きちんと支援をしていきたいと考えています。

文・写真:糸永正行編集委員

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