【JR西日本イノベーションズ】鉄道事業の課題解決と新規事業の創出へ│CVCのリアル

企業がファンドを組成するなどしてスタートアップへ出資するコーポレート・ベンチャーキャピタル(CVC)。続々と新たなCVCが立ち上がるなかで、各社は何を目的にどのような活動を進め、どのような効果を得ているのか。「CVCのリアル」ではそれらを明らかにしていく。西日本旅客鉄道(JR西日本)<9021>のCVC事業を担うJR西日本イノベーションズ(大阪市北区)の川本亮社長に設立のきっかけや投資の効果などを伺った。

外部の力で課題を解決するのが目的

―CVC設立のきっかけを教えて下さい。

鉄道事業のさまざまな課題を外部の技術やノウハウで解決しようという機運が高まったことから、2016年12月にCVC( JR西日本イノベーションズ)を設立しました。

―CVC設立の目的は何でしょうか。

スタート当初はJR西日本が抱える課題の解決を外部の力を使って行うことが目的でしたが、コロナ禍でJR西日本の売り上げが大きく減少したため、2021年の6月に新たなミッションとして、新しい収益の柱を育てることが加わりました。

―出資枠はいくらでしょうか。

設立当初は30億円で、そのあと20億円増やしています。

―JR西日本の新規事業開発部門とはどのような関わりをお持ちでしょうか。

CVCが成長の種を探し、今後成長しそうなところまで育て、そのあとはJR西日本の新規事業開発部門が収益の柱に育てるという役割分担があります。

―出資はどのような形式(二人組合、段階的出資、M&Aなど)でしょうか。

さまざまな手段があり得ると認識しています。マイナー出資を行っていますが、途中から増資することがありますし、必要であればM&Aを行うこともあり得ます。大型のM&AについてはJR西日本でしっかりと資本政策とともに考えていくことになります。

―どのようなステージの企業に出資されていますか。

特に決めているステージはありませんが、あまり早いとアライアンスを組めるのか、協業がうまくいくのかが分かりません。一方、IPO(新規株式公開)直前のような企業ですと、JR西日本イノベーションズのチケットサイズ(1回の投資額)では小さ過ぎるといったことが起きます。このため、これまでは大体この中間のステージにある企業に投資しています。

ビジョンの共有が重要

―これまでどのような企業に出資されましたか。

鉄道事業の生産性向上や地域課題の解決につながるような、モビリティ、観光関連の企業などに出資しています。例えば、危険な高所作業を人に代わってロボットが行う、多機能鉄道重機を開発する人機一体や、地域のオンデマンド交通(予約すると運行する乗り合いの公共交通機関)を担うREA、インバウンド(訪日観光客)の誘客を担うWAmazingなどです。最近は、スマートロッカーを活用することにより、手ぶら観光や商品の受け取りなど、新たな事業創出に向けた出資などもあります(出資先は、SPACER)。

-出資、協業によってどのような効果がありましたか。

鉄道事業など、JR西日本グループが行っている事業における課題解決や、新規事業の創出において、ソリューション(課題解決)の開発や不足するケイパビリティ(能力)を他社と連携することで、スピーディーに獲得することができます。また、スタートアップ企業の経営者と対話することで、人財育成面でも大きな成果があります。

―これから先どのような分野に注目されていますか。

投資分野は明確には区切っていません。鉄道、物販・飲食、ホテル、不動産など、主要事業の課題解決につながる分野はもちろん、JR西日本グループが保有する有形・無形のアセット(資産)を活用することで、新たな事業創出につながるような企業への出資も行っていきます。

―どのような方法で対象企業を探し出しますか。

事業の課題に対して、解決する方法が世の中にあるのかないのかを探るのを基本方針としています。事業の幅が広いため、いろんな情報が入ってきます。企業を探すのに特に苦労はありません。

―M&Aの活用についてどのようにお考えですか。

投資先に成長していただく過程でM&Aが必要になる場合は、JR西日本が実施していくことになります。

―出資する際には、どの役職の方とどのような話し合いを進められるのですか。

トップ同士で話をさせてもらっています。経営者がどういう考えを持っているのか、同じようなビジョンを共有できるのかを非常に大事にしているためです。

―CVCの課題についてはどのようにお考えですか。

投資先企業が成長し、我々の方は課題の解決や事業化が進んでいくことが大事です。その成功確率をどのように上げていくかが課題です。

―金利などの外的要因はCVCの活動にどのような影響を及ぼすとお考えですか。

一般論としては、金利が上がれば資本調達コストが上がりますので、出資に対するハードルが上がることになります。ただ我々CVCの場合は、協業がうまくいくかどうかが問題のため、金利の影響はあまり大きくはありません。

文:M&A Online記者 松本亮一

コーポレート・ベンチャー・キャピタルを特集
「CVCの関連記事はこちら

ジャンルで探す