【関西電力】ゼロカーボン、ディープテック、地域共創に投資│CVCのリアル

企業がファンドを組成するなどしてスタートアップへ出資するコーポレート・ベンチャーキャピタル(CVC)。続々と新たなCVCが立ち上がるなかで、各社は何を目的にどのような活動を進め、どのような効果を得ているのか。「CVCのリアル」ではそれらを明らかにしていく。

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関西電力<9503>グループのCVCであるK4 Ventures(大阪市)は、「ベンチャーファースト」を掲げ、社名にはベンチャー企業の成長と共に歩むパートナーでありたい(Kanden For Ventures)との想いが込められている。

関西電力の執行役員であり、イノベーション推進本部副本部長、K4 Ventures代表職務執行者である浜田誠一郎氏に、K4 Venturesの目的や課題、今後の展開などについてお聞きした。

新たな事業・サービスを創出

―CVC設立のきっかけを教えて下さい。

2016年に策定した当時の中期経営計画で掲げた「新たな成長の柱の確立」に向けたイノベーションの推進に向け、スタートアップ投資の仕組みについて検討を進め、2018年に設立(1998年に設立した関電ベンチャーマネジメントからK4 Venturesに名称変更)に至りました。

―CVC設立の目的は何でしょうか。

スタートアップ企業と関西電力グループとの架け橋となり、対等なパートナーとしてスタートアップ企業とともに成長し、新たな事業・サービスを創出することが目的です。

弊社グループは、CVC設立前から、総合エネルギー、情報通信、不動産・暮らし分野を中心に、国内外において成長に資する投資を積極的に行ってきました。しかしながら、さらなる成長を目指すには、革新的な技術やビジネスモデルなどを有するスタートアップ企業との連携・協働を強化し、お客さまや社会に新たな価値をお届けする事業・サービスの開発が必要との考えから、CVC(K4 Ventures)を設立したものです。

関西電力グループでは、1990年代からスタートアップ投資に取り組んでいますが、敢えてCVCを設立したのは、従来とは異なる投資の枠組みを整備することで、よりスピーディーな意思決定を可能とし、スタートアップ投資を加速させる意図がありました。

―出資枠はいくらでしょうか。

K4 Ventures 3号投資枠では、2024年度から3年間で最大70億円を投資し、累計のスタートアップ投資枠は最大180億円に拡大します。

―関西電力の新規事業開発部門とはどのような関わりをお持ちでしょうか。

スピーディーな意思決定を可能にするスタートアップ投資主体として、関西電力グループの事業機会創出や将来の機会・脅威の探索などを目的としたスタートアップ投資に必要な連携を行っています。

―出資はどのような形式(二人組合、段階的出資、M&Aなど)でしょうか。

K4 Ventures は二人組合ではなく、我々が単独で運営しています。段階的出資や将来のM&Aも選択肢に持ちながら、ベンチャーキャピタルに対するLP(有限責任組合員)出資、スタートアップ企業に対する主要投資家との協調投資を基本としています。

―どのようなステージの企業に出資されていますか。

基本的には、中長期も含めた戦略リターンが期待できるのであれば、シードからレーターまで幅広く投資したいと考えています。これまでの投資実績は一定程度分散していますが、アーリー、ミドルが中心となっています。

―これまでどのような企業に出資されましたか。

エネルギーを中心としつつ、情報通信、生活・ビジネスソリューションといった弊社グループの中核事業分野において、新たな事業機会の創出に寄与するような技術・ビジネスモデル・製品サービスを保有す企業に出資してきました。再生可能エネルギーや蓄電池など、弊社の既存事業の領域で事業展開する企業に加えて、農業・食料など、新たな領域で活動している会社も含めて40ほどの企業に出資し、連携しています。

―出資、協業によってどのような効果がありましたか。

戦略リターンとして、各事業部門・グループ会社と出資先企業との協業の取り組みなどが進んでおり、投資の成果として前向きに評価しています。協業の一例としては、株式会社ゼロボードとの電力使用量・CO2排出量などのデータを活用した新サービスの共同開発の検討などがあります。また、財務リターンについては、スタートアップ投資の性質上、現時点では未確定の銘柄が大半ではありますが、出資先から複数のIPO(新規株式公開)が出るなど兆しも確認でき始めています。

ベストオーナーとのM&Aを後押し

―これから先どのような分野に注目されていますか。

ゼロカーボン、ディープテック、地域共創の三つを中心に投資を行う計画です。この三つを取り上げた背景は、経営理念に掲げるサステナブルにあります。エネルギーをサステナブルに(=ゼロカーボン)、サービスをサステナブルに(=ディープテック:テクノロジーで弊社サービスを維持・発展)、地域社会をサステナブルに(=地域共創)といった考え方に基づいており、CVC活動を通じて三つのサステナブルの実現を目指しています。これまでさまざまな分野に投資してきましたが、今後は、中長期の目線を加味しつつ、関西電力グループの中核事業に近い領域や将来的な機会・脅威といった仮説がある領域を深堀りしていくことにしています。

―どのような方法で対象企業を探し、交渉(ソーシング)されていますか。

ベンチャーキャピタルに対するLP出資、社外イベントへの参画・登壇、関西企業の新規事業担当者の有志コミュニティの運営、Webでの情報発信など、幅広いチャネルや機会を通じてソーシングを行っています。

―回収の必要がある場合、その期間はどのくらいを見込んでいますか。

投資運用期間は10年としています。

―M&Aの活用についてはどのようにお考えですか。

K4 Venturesから投資先企業への出資額は少額、つまり、マイナー出資であることからも、一義的には、将来のM&Aのために出資するということはありません。ただ、スタートアップ企業にとってのイグジットや将来展望の選択肢の一つとして、関西電力グループの仲間になって、さらに成長していく選択肢(M&A)をご提供したいと思っています。

互いの価値観や考え方を理解した上で、投資先企業が大企業とともに成長していきたいという選択をされる場合、関西電力に限らず、ベストオーナーとのM&Aを後押ししたいと考えています。

仮に、ベストオーナーが関西電力であるという場合には、創業者や経営者の方、他の株主にとってメリットがある、さらなる成長につながるような形に寄与できればと考えています。こうしたスタートアップエコシステムを形成していくためにも、CVCを通じた活動は意味があるものと思っています。

ー出資する際には、どのような流れになるのでしょうか。

K4 Venturesのプレ投資委員会において検討・議論を重ねたのち、投資委員会においてスピーディーに投資判断しています。

―CVCの課題についてはどのようにお考えですか。

主要課題は二つです。一つは「ベンチャーファースト」の徹底。CVCにとって戦略リターンの確保は大事なことではありますが、それを重視しすぎるあまり、投資先であるスタートアップ企業の成長は二の次ととられかねない行動があったかもしれない、3号投資枠の検討時にそういった話題をCVCメンバー間で深く議論しました。結果、3号投資枠では、K4 Venturesの社名(=Kanden for Ventures)に込めた、ベンチャー企業の成長と共に歩むパートナーでありたいとの想いに立ち返り、「ベンチャーファースト」を改めて掲げたところです。

二つ目は、中長期的にスタートアップコミュニティ・人とのつながりをどのように確保するかです。CVCの活動を通じて一定の実績を確保しながら長期的に継続していくには、スタートアップ企業やベンチャーキャピタルをはじめ、さまざまな人とのつながりや信頼関係が重要になります。その一方、弊社グループでは、人事異動によって担当者が交代するケースがあることから、人とのつながりを維持していくことが難しいと感じています。

このため、人事異動による担当交代の発生に備えて、業務の連続性が確保できるよう、業務の標準化を進めるとともに、CVC業務のコア、対外的な顔として活躍してもらいたい人財については、長く担当できる措置を講じていきます。長く担当する人財と、さまざまな業務経験があるローテーション人財との組み合わせが組織のレベルアップ、ダイバーシティ(多様性)につながると考えており、現在、試行錯誤しながら体制強化に取り組んでいるところです。

―金利などの外的要因はCVCの活動にどのような影響を及ぼすとお考えですか。

市場の冷え込みによるIPO銘柄(質・量)の悪化は、既投資先に期待するリターンに一定の影響があるものと承知しており、各投資先の動向を注視しているところです。一方、これから投資する案件については、チャンスだと捉えています。実際、従来リーチできていない分野の案件やプレーヤーの方々からお話しをいただいており、例えば、海外案件など従来踏み込めていなかった案件にもチャレンジしていきたいと考えています。

文:M&A Online記者 松本亮一

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