Chatworkが「kubell」へ、社名変更に秘められた成長戦略とM&A kubell BPaaSファンドパートナー森雅和氏に聞く
日本におけるビジネスチャットの草分けであるChatworkが社名変更し、7月1日からkubell(クベル)として新たなスタートを切った。中小企業を中心に約59万社で使われ、ユーザーはIDベースで700万人超まで成長したビジネスチャットの「Chatwork」。広く知られた社名を変えたのは、「Chatwork」に加えて新領域での事業展開を決意したからである。「kubell」にはその想いや決意が込められているという。新領域への本格進出のもとで想定されるM&AやCVCでの出資を含め、kubell BPaaSファンドパートナー森雅和氏に話を伺った。
BPaaSも軸に「働くを変える企業」へ
―社名変更の理由を教えてください。
ビジネスチャットの「Chatwork」だけでなく「BPaaS(Business Process as a Service)」に注力していくことになったからです。BPaaSは、SaaSやITツールを提供するだけではなく、勤怠や労務管理などの業務プロセスそのものを引き受けるサービスです。業務は専門家がサポートしますので、顧客はソフトウエアを利用しつつ、専門家のアドバイスを受けながら、業務を効率的に進めることができます。
BPaaSに注目したのは、「Chatwork」をサービス展開する中で、ソフトウエアの提供だけでは、必ずしも顧客の生産性の向上につながらないと分かったからです。多数のツールを使いこなせる人はごく限られているのが現状です。
顧客をサポートする「人」を組み合わせてサービス提供するほうが生産性はあがります。そうしたBPaaSも軸にした会社へと変貌しようとすると、「プロダクト名=会社名」が実態に合わなくなったのですね。
そうしたことから2024年7月1日に社名変更しました。同じ理由、同じタイミングで、CVCの「Chatworkスーパーアプリファンド」も「kubell BPaaSファンド」に変更されました。
―「kubell」にはどのような想いが込められているのでしょうか?
数多くの候補から「kubell」が選ばれました。「働く人の心に、薪を『くべる』存在へ。」というメッセージを添え、「人とテクノロジーが持つ力を組み合わせながら、『働く』を支援するプラットフォームへと進化していきたい」という想いと決意が込められています。「Chatwork」とBPaaSと通じて企業の生産性向上に貢献していきたいのです。
中小企業の生産性を向上
―BPaaSのニーズはあるのでしょうか? 引き受けるならばどのような業務でしょうか?
非常に大きなニーズがあると感じています。営業支援、情報システムなど様々な業務が想定されますが、メインは総務、経理などのバックオフィス業務です。
どこも人手不足の中で、中小企業では大企業以上に採用難になっています。そのような状況から「バックオフィス業務については外に出していきたい」という声を聞くことが多いのです。
労働生産人口の減少が著しい中で、人手不足はますます顕在化していくと思われ、ニーズは拡大していくと見ています。規模の小さな会社では人材の定着に悩みを抱えるところは多いですし、大企業のような本社機能を持つことがベストとは言えません。
そこを「まるっと我々が引き受けます」という機能をサービス提供できれば、ユーザーの皆さんがより本業に集中できるという環境を作れます。生産性の向上にもつながります。それをkubellが体現したいのです。
M&Aの対象は? CVCの役割は?
ーBPaaSを推進する中でM&Aの対象になる会社はありますか?
BPaaSを強化する会社を中心に考えていきます。BPaaSを事業とする会社であったり、業務プロセスを受託するBPOを事業展開したりしている会社をM&Aして、こちらが作った"型"を加えて、私たちの目指すBPaaSに仕立てていくことも考えています。
具体的には仕事の"型”が作りやすく、かつニーズの大きな記帳代行、給与計算に関する業務は取り組みやすい領域で、力を入れたいと考えています。
オペレーションでは、複数社を一人の専門家がサポートすることを想定していますので、その業務で人手が足りなくなるほどのニーズがあればM&Aは選択肢に入ります。
ーCVCの「kubell BPaaSファンド」の役割は?
プロダクト連携で「Chatwork」の機能強化が図れるところへの出資も可能性としてありますが、「kubell BPaaSファンド」はBPaaSの強化につなげるのが主な役割になります。
出資対象は広く、M&Aするほどではないものの、ユーザーニーズが高く、BPasSの強化が望めるところです。
このほかCVCは、将来のための事業探索としての役割を持ちます。投資先や投資に至らず業務提携という形式もありますが、パートナーと一緒に知見を広げていければと考えています。
文:ライター間杉俊彦
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