トヨタの2030年目標達成は現実か? 中国市場「300万台生産計画」と、トランプ再選後の試練とは
減少続く中国販売、トヨタの新戦略
ロイター通信が11月11日に報じたところによると、日本の大手自動車メーカーが中国市場で苦戦を強いられるなか、トヨタ自動車が積極的な姿勢を示している。
三菱自動車が中国市場から撤退し、日産やホンダも中国での生産能力削減を決定したが、トヨタ自動車は中国人向けの車両開発を強化し、知能化や電動化が進む現地のニーズに合った商品を投入するなどし、2030年に中国での生産規模を250万から300万台に拡大する。
トヨタの現地生産は2022年に約184万台と過去最高を記録し、それから大幅に増やす必要があるが、トヨタの中国販売は2021年の約194万4000台をピークに減少傾向が続いており、2023年は約190万7600台、2024年1月から10月までの累計は約141万3000台となっており、前年同期比で
「9.3%」
も減少している。中国では安価な電気自動車(EV)を商品化する現地メーカーが躍進し、トヨタも難しい立場にあるが、中国人社員が主導して新車開発に努め、中国人のニーズを捉えた商品開発を強化することで、この数字目標に向けて動き出すと見られる。
脱中国依存でも市場重視
日本企業の間では脱中国依存の動きが以前より拡大しているが、
・改正反スパイ法
・台湾有事
などの懸念はあるものの、トヨタのように中国市場を引き続き重視し、今後も進出強化を目指す日本企業が依然としてあることも事実である。
筆者(和田大樹、外交・安全保障研究者)は地政学、経済安全保障リスクの観点から日本企業にコンサルティングを長年行っているが、日本企業の経営者で中国が抱える政治リスクと市場、経済などの間で悩んでいる人はかなり多いと感じている。
では、日本企業にとって中国市場は今後どのようになっていくのだろうか。ここでは、11月の米国大統領選で勝利したトランプ政権からの影響という視点で考えてみたい。
強硬派ぞろい、第2次政権の対中方針
まず、トランプ政権の対中姿勢はどうなるのか。
トランプ氏は選挙戦の鍵を握るといわれたペンシルベニアやウィスコンシンなど七つの激戦州全てで勝利し、過半数の270人を大きく上回る312人の選挙人を獲得し、226人にとどまった民主党候補のハリス副大統領を大差で破った。
また、トランプ氏は7500万票あまりを獲得したが、自らが出馬した2016年、2020年の大統領選挙を上回る獲得票数を記録するだけでなく、議会の上院と下院で共和党が過半数を獲得するトリプルレッドの状況となっており、トランプ氏にとっては政権運営が極めてやりやすい状況となっている。
トランプ氏は政権2期目ということで再選のために支持率を気にする必要がなく、これまでのところ政権人事では自らに忠誠的なイエスマンを次々に起用しているように見られることから、政権1期目以上にトランプ色が強くなり、より大胆な対中政策が実行に移されていくことになろう。
現時点で、第2次トランプ政権の外交・安全保障政策で重要な役割を担う国務長官には、対中強硬派のマルコ・ルビオ上院議員を起用するという。ルビオ氏は新疆ウイグル自治区における人権問題を強く非難し、中国による軍事的脅威に直面する台湾を軍事的に支援する立場を取る。
安全保障担当の大統領補佐官にも対中強硬派のマイク・ウォルツ下院議員が起用される予定だが、ウォルツ氏は軍備拡張が進む中国海軍に対抗するため米海軍の艦船や装備の増強を訴えている。このような政権人事を考慮すると、第2次トランプ政権が中国に対して厳しい姿勢で臨むことは間違いない。
メキシコ生産車、関税200%の脅威
では、それによって日本企業にはどのような影響が考えられるか。
トランプ氏は中国を除く諸外国からの輸入品に対して10%から20%の関税を課すと主張しており、日本企業はまずこの壁に直面することが考えられる。これに対してトランプ政権が日本などの同盟国を対象外にすることは考えにくい。
そして、トランプ氏は中国製品に対する関税を一律60%に引き上げると主張しているが、これも実行に移されていく可能性が高い。しかし、日本企業のなかには
「中国でモノを製造し、それを米国に輸出する」
企業もあるが、その製品も関税60%の対象になり、これはかなりの重荷となろう。
さらに、トランプ氏はメキシコからの輸入車に対して200%以上の関税を示唆しているが、これはメキシコで自動車を生産し、米国へ輸出している中国企業を意識したものだろう。
だが、同じように日本の大手自動車メーカーもメキシコで生産した自動車の多くを米国へ輸出しており、関税200%の影響を受ける可能性も否定できない。これについて、ホンダの副社長は、
「メキシコ生産車の8割を米国に輸出している。そこに関税がかかるのであれば事業に与える影響は非常に大きい」(『日刊自動車新聞』11月6日配信)
とコメントしている。
米中半導体の競争激化
一方、トランプ再来によって「保護主義」を強化する米国に対して、中国は自由貿易の重要性を強調し、諸外国との経済、貿易関係の強化に拍車を掛けてくる可能性もある。
保護主義とは、国内産業を外国の競争から守るために、政府が輸入品に対して制限や関税を課す経済政策のことだ。具体的には、輸入品に高い関税を設定したり、輸入制限を設けたりして、国内の産業を守ったり、国内企業を支援することを目的とする。
バイデン政権下で、米中の間では
「先端半導体」
をめぐる覇権競争が激化し、日本はバイデン政権と足並みをそろえる形で中国に対する半導体輸出規制を開始したことから、中国の日本に対する貿易的不満が強まった。
しかし、中国にとっても日本は重要な貿易相手国のひとつであることから、トランプ再来をテクニカルに解釈し、貿易保護主義に対して協調路線を採るという観点から、日本との経済・貿易関係の強化に乗り出し、中国に進出する日本企業にとって
「明るい材料」
になる可能性もあろう。
11/19 14:10
Merkmal