LVMHの成長支援で世界の「へラルボニー」へ 松田文登代表に聞く
主に知的障害のある作家のアート作品をデータ化し、著作権の管理などを行っているヘラルボニー(盛岡市)は、2024年5月に開催されたスタートアップワールドカップの京都予選で優勝し、その後、ハイクオリティブランドで世界をリードするフランスのLVMH(モエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン)から成長支援を受けることになった。
同社が注目されるのはなぜなのか。今後どのような事業を展開しようとしているのか。へラルボニーの代表取締役Co-CEOである松田文登氏に戦略を聞いた。
同じことをやれる企業はない
―2024年5月に開催されたスタートアップワールドカップの京都予選で優勝され、1カ月ほどが経ちました。何か変化はありましたか。
勢いというか、モメンタム(勢いを評価する指標)が高まったことは非常にうれしいことだと思いっています。
またスタートアップワールドカップでの優勝後にすぐに、LVMHのイノベーションアワードに採択されたこともあり、海外に向けての期待が非常に大きくなったと思います。
もともと今年はいろんなことに挑戦する予定でしたので、障害に対する価値観や概念を変えていくということに強くチャレンジする年にしたいと思っています。
我々が取り組んでいる事業は、世界的にみても他になく、世界のグローバルスタンダードを目指せるかもしれないと思っています。
―なぜ同じような事業に取り組む企業がないのでしょうか。
障害のある方たちのアートをCSR(企業の社会的責任)的に広げていく企業は出てくると思いますが、我々のようにクリエイティブの部分や、届け方までやり切れるところは、ないのではないでしょうか。
例えば企業には、イメージを高めたいや、商品を売りたいなど、いろんなニーズがあります。このニーズに基づいたディスカッションの中で、我々が保有している障害のある作家さんの2000点以上のアートデータの中から、このプロジェクトであれば、この作家さんのこの作品が良いのではないか、Webや動画はこのようにすれば良いのではないかといったことを提案しています。
我々は障害のある方の作品をライセンスとしてお渡して終わりということは一切しないことを強みとしており、そこをすごく大切にしています。ここまでやれる企業はないのではないでしょうか。
―なぜ、そのようなビジネスモデルに至ったのですか。
これまで障害のある方のアートとの出会い方は、CSRとかSDGs(持続可能な開発目標)的なものが多かったと思います。
そういう出会い方ではなく、本当に作品として、作家としての出会いを作り、障害に対する社会の価値観や概念を変えていきたいと考えているためです。
―ところでフランスのコングロマリットのLVMHから支援を得らえるとのことです。どのような計画をお持ちですか。
パリに1年間オフィスを提供していただけるほか、メンター(指導者)に付いていただき、 どのように事業やブランドを成長させていくのか支援していただけることになっています。
LVMHのブランドに対する考え方などについて学べ、それを取り入れて、どのように事業成長できるのかを支援していただけるのは、すごくありがたいことだと思います。
すでに効果が現れており、LVMHに採択されたことで、いろんな企業に話を聞いていただけるようになりました。
先日もフィンランドのファッションブランドであるマリメッコの社長と、お会いすることができました。今後、何かご一緒できないかというディスカッション的なことをやっているところです。
28カ国約1000人の作家から約2000点のアートの応募が
―出口戦略についてはどのような考えをお持ちですか。
私たちはIPO(新規株式公開)を目指しています。スモールIPOを目指すのではなく、インパクトのある規模の時価総額に達する状況でのIPOを行えたらと考えています。
―足元の事業はどのような状況ですか。
今年、ヘラルボニアートプライズという国際アートのコンぺジションを行いました。クリスチャン・バースト氏(障害のある方たちのアートの分野では、非常に著名なギャラリスト)に入っていただいたおかげで、28カ国約1000人の作家から、約2000点のアートが集まりました。
現在審査を行っているところで、並行してこうした世界の作家とのライセンスの契約も加速しています。世界の作家のプラットフォーマーになれればと考えています。
―今秋に米国のシリコンバレーで開催されるスタートアップワールドカップの決勝大会に出場されます。意気込みはいかがですか。
今年パリに法人を構えますが、将来的には米国にも法人を構えられたらうれしいと思っており、そのきっかけになったらと考えています。
スタートアップワールドカップの京都予選で優勝させていただき、LVMHのイノベーションアワードに日本企業として初めて採択されたのは大きなことです。
今後、障害のイメージや価値観という概念そのものが、いろんな形で変わっていくと強く思っています。
日本のへラルボニーから一歩先の世界のへラルボニーになるまで、挑戦していきたいと思っています。
文:M&A Online記者 松本亮一
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