世界で3社目の核酸医薬技術企業になる StapleBioの谷川清代表取締役CEOに展望を聞く

StapleBio(熊本市)は、熊本大学先端科学研究部の勝田陽介准教授らが開発したステープル核酸技術を基に創薬に取り組んでいる。

その先端性や将来性が評価され、2024年8月27日に熊本城ホール(熊本市)で開催された「スタートアップワールドカップ2024九州予選」で優勝を勝ち取った。

そこで同社の谷川清代表取締役CEO(最高経営責任者)に、ステープル核酸技術の特徴や創薬のスケジュール、出口戦略などについて聞いた。

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期待以上の結果で会社設立

―スタートアップワールドカップ2024九州予選で優勝されました。どのような感想をお持ちですか。

まさかこんなに反響が大きいとは思いませんでした。社員や熊本大学の学生さんは、みんな盛り上がって活気づき、投資家の方にもすごく喜んでいただいています。

2024年4月に資金調達を終えたばかりなのですが、次回のラウンドはぜひ、とお声がけいただいた方も、たくさんいらっしゃいます。

―起業に至った経緯をお教え下さい。

私は大鵬薬品工業に研究者として入ったのですが、経営企画などの部門に携わったあと、独立系のベンチャーキャピタルに出向して、日本だけではなくて、欧米のベンチャー投資を担当してきました。日本の技術レベルは欧米にひけをとらないというのが当時の印象で、技術を事業化するビジネスサイドの人材がいれば、より大きなベンチャーが日本でも生まれるのではと課題感を持ちました。

その後戻り、大鵬薬品工業のCVC(企業が自己資金でファンドを組成し、スタートアップなどに出資する取り組み)である大鵬イノベーションズを設立し、代表に就任しました。そのころに、熊本大学の勝田陽介先生(現在はStapleBio取締役)と出会いました。

非常に面白い研究をされていると思い、ベンチャーを作ることを提案したのですが、その時点では、競合となるアメリカの企業との差別化が難しい状態でしたので、大鵬イノベーションズが熊本大学に研究費を出す形で、共同研究を始めました。

予定していた研究期間よりも早く、期待以上の結果が出てきましたので、いよいよ会社を作りましょうということになりました。ただ、どこからか経営者を連れてくるのは大変ですので、私が大鵬イノベーションズの代表を務めながら新会社のCEO(最高経営責任者)を兼務することになりました。

勝田先生は、熊本大学の教員ですので、いきなりベンチャーに入るのは制度上難しいため、当初は新会社から大学側に依頼するという形で参画していただきました。

私は暫定CEOのはずでしたが、本体の人事異動のタイミングで2023年の7月に大鵬薬品工業を退職し、今はStapleBioに専念しています。勝田先生にもCSO(最高科学責任者)に就任していただいています。

たんぱく質の生成量を制御

―その勝田先生らが開発されたステープル核酸技術を用いた創薬に取り組んでおられます。ステープル核酸技術はどのようなものなのですか。

遺伝子はアデニン、グアニン、シトシン、チミン、ウラシルの五つの塩基で構成されています。

グアニン(G)の連続配列が近くにあるとグアニン連続配列同士が結合して立体的なG4構造(グアニン四重鎖構造)というものを作ることが知られています。ヒトのゲノムの中には30万カ所ほどあると言われています。このG4構造を利用しようというのが我々のコンセプトです。

グアニン連続配列とグアニン連続配列の間に距離があると、G4構造ができないのですが、距離を縮めてやるとG4構造を作り出すことができます。長いひもをステープル(ホッチキスの針)で留めて短くするようなものですので、我々はこの技術をステープル核酸と名付けました。

あるたんぱく質を作る遺伝子(mRNA=メッセンジャーリボ核酸)の、たんぱく質合成が進んでくる上流側にG4構造を作ると、立体障害となってたんぱく質の合成が進まなくなり、生成量を抑えることができます。逆にmRNAの分解が進んでくる下流側にG4構造を作ると、同じように立体障害となり、mRNAの分解がストップし、長持ちすることで、たんぱく質の生成量を増やすことができます。

たんぱく質が多過ぎて起こる疾患には、たんぱく質合成が進んでくる遺伝子上流側に、たんぱく質が少な過ぎて起こる疾患には、mRNAの分解が進んでくる遺伝子下流側にG4構造を人工的に作ってあげれば、疾患を治療することができるのです。

競合するアメリカの2社はmRNAを切断するという全く違う方法で、たんぱく質ができ過ぎるのを抑えることができる技術を持っていますが、たんぱく質を増やすことはできません。そこに我々の治術の特徴があります。競合企業の2社は、いずれも大企業で、日本の製薬会社はもちろん世界中の製薬会社と共同研究を行っています。

我々は3社目の核酸医薬技術を持つ企業として、この分野に参入できると考えています。

ステープル核酸技術のイメージ図

ステープル核酸技術のイメージ図(StapleBio提供)

―ステープル核酸技術を用いると、どういった分野の治療薬の開発が可能になるのでしょうか。

いろんな分野で利用することができます。がんやアルツハイマーは、たんぱく質が増え過ぎると発症しますので、これら疾患の原因となるたんぱく質を抑えることで治療ができる可能性があります。

また希少疾患と言われる病気は、たんぱく質が少な過ぎて発症するケースが多いため、たんぱく質の生成を増やすことで、治療することが可能になると考えています。

新型コロナウイルスのようなウイルスのワクチン開発も可能ですし、ウイルスの増殖を抑えることもできますので、ワクチンのような予防薬だけでなく、ウイルス感染症の治療薬に応用することもできます。

4年後には臨床試験に

―具体的にどのような治療薬の開発に取り組んでおられるのですか。

疾患名はまだ開示していませんが、希少疾患と言われる病気の一つについて治療薬の開発を進めています。現在は細胞やマウスを使った実験を行っています。そのあとは前臨床試験といってラットやサルを用いた安全性や薬物動態に関する国際的に統一された試験を確実に行い、その後ヒトでの臨床試験に入ります。4年後には臨床試験に入りたいと考えています。

もう一つ、大手製薬会社との協業も進めています。開発の流れは自社開発と同じで、近く2社目の契約締結に向けて複数の製薬会社と交渉段階にあります。

―出口戦略についてはどのようなお考えをお持ちですか。

M&AとIPO(新規株式公開)の両方の可能性があると思っています。我々は自社で開発するモデルと、製薬企業と協業するモデルの二つがあります。製薬会社などが、どのようなところに興味を持つか、また、どのようなデータが出てくるのかで、出口戦略は大きく変わってきますので、今のところはどちらかに決めてはいません。我々の技術をより多くの疾患に応用してもらうという視点も重要です。いずれにしても臨床試験の結果が少しずつ出始めてくることが見込める2030年ごろが結論を出すタイミングではないかと考えています。

―2024年10月に米シリコンバレーで開かれるスタートアップワールドカップの世界決勝戦に出場されます。意気込みをお聞かせ下さい。

医療の課題は、世界共通です。日本だけの患者さんではなくて、同じようにアメリカやヨーロッパにも患者さんがいます。我々の技術を使って治療薬を開発したいと思う製薬企業や医師の方に、こういったイベントを通じて我々の技術が伝えることができれば、非常に意味があると思います。

また、こうしたイベントをきっかけに一緒に働いてくれる仲間ができればありがたいですね。もちろん、賞金もありますが、それ以上のものがあります。

文:M&A Online記者 松本亮一

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