「あなたは体重超過を反省していないんですか?」計量失格の“問題児”カシメロが圧巻の160秒TKO勝利で井上尚弥に挑戦状を叩きつける…失態の言い訳タラタラ

 プロボクシングのスーパーバンタム級ノンタイトル10回戦が13日、横浜武道館で行われ、元3階級制覇王者で、WBO世界スーパーバンタム級6位、WBC同7位のジョンリエル・カシメロ(35、フィリピン)がWBO世界バンタム級8位のサウル・サンチェス(27、米国)から1ラウンドに3度のダウンを奪い2分40秒圧巻のTKO勝利を収めた。カシメロは600グラムの体重超過で計量失格となったが、当日計量で58.0キロをクリアすることを条件に試合が実施された。カシメロは「体重超過など関係ない。これで井上尚弥戦へのアピールになっただろう」と、スーパーバンタム級の4団体統一王者、井上尚弥(31、大橋)へ挑戦状を叩きつけた。

 1ラウンドに3度のダウンを奪い「カモン!イノウエ」

 やはりこの男はタダものじゃない。
 1ラウンドからカシメロはプレスをかけて勝負に出た。
「スタミナに不安などなかった。それだけ練習をしてきたから」
 そううそぶいたが、計量失格でコンディションは万全ではなく長期戦になると分が悪いと踏んだのだろう。
 怒涛の迫力にサンチャスがひるむと、左のボディブローを打ち込み、続けて右のストレートがカウンターとなった。サンチェスは思わずキャンバスに手をついた。ダメージのないフラッシュダウンだったが、カシメロは手をゆるめない。
 世界挑戦経験もあり、WBC世界バンタム級王者、中谷潤人(M.T)のスパーリングパートナーも務めたサンチェスが、反撃に出てくると、そこに今度は、威力満点のカウンターの左フックがグシャ。サンチャスはひっくりかえった。
 2度のダウンを喫しても、サンチェスはまた立ってきたが、カシメロがロープにつめてパンチをまとめ、右ストレートが顔面を捉えたところで、福地レフェリーが試合をストップした。全盛期を彷彿させる圧巻の160秒TKO劇だった。
 陣営は狂喜乱舞。スタッフか、応援団かわからない連中までリングに乗り込んでぐちゃぐちゃになった。ただその中で“問題児”カシメロはコーナーでうなだれるサンチャスに歩み寄って、ひざまづき声をかける紳士的な一面も見せた。
「オレの戦いはパワーとKOだ!計量のミスなんか関係ない」
 吠える、吠える。
 「次はナオヤ・イノウエだ!カモン!」
 2度、3度、対戦を熱望するモンスターの名前を連呼した。
 控室に戻ってくると、両手を突き上げ、「この右手で『病院送り』、この左手で『墓場行き』」と自慢気にぶちまけた。
「1ラウンドで倒す気はなかった。サンチェスは、そのキャリアでKO負けをしたことのないボクサーだったので、何ラウンドかはわからないが、とにかく倒して勝ちたかった」
 前日計量でリミットの55.3キロをまさかの1キロオーバー。2時間の猶予でサウナに50分閉じこもったが400グラムしか落とせず計量失格となった。サンチェスサイドとの協議の上、この日の午前10時45分の当日計量で、58キロ以下をクリアすることを条件に試合が実施されることになった。
 2キロしか増やせなかったため、前夜は何も食べず水だけを飲んで寝た。
「5時間、飲まず食わずで我慢した」
 なんとか58.0キロジャストで、当日計量をクリアすると、焼いた牛肉と豆のスープを胃袋へ流し込んだという。
 だが、そんな話は美談でもなんでもない。
 試合後の記者会見で聞いた。
――あなたは体重超過を反省していないのか?
 一応は「伊藤プロモーターには申し訳ないことをした」と神妙に語ったが、「別にそんなのは気にしてなかった」と本音を明かした。
 本人の体重超過の言い訳はこうだ。
「午前中(午前10時30分)の計量だったので落とす時間がなかったんだ。宿舎が千葉で遠かった。都内まで車で移動してきたが、しかも交通が渋滞していた。本当は外でランニングして落とすつもりだったが、時間がなくてそれができなかった」
――前日、あるいは早起きして落とせばいいだけの話では?
「寝坊したんだ」
 なんだそれ?である。
 WBO世界バンタム級王者時代にも、2度体重を作れずにポール・バトラー(英国)との指名試合が中止となった“前科”がある。そのカシメロがまたもや犯した体重超過の失態に対して、SNS上では、日本だけでなく、フィリピンのファンからも厳しいバッシングの声が飛び交った。
「SNSで叩かれた。そんなもの気にしていない。モチベーションにした」
 なるほど問題児はメンタルも常人とは違う。

 

 

 そして、こう続けた。
「井上戦へのアピールになったと思う。オレはいつでもどこでも井上と戦う」
 2020年4月に一度は米国ラスベガスでの対戦が正式決定しながらも新型コロナの影響で流れて以来、幻に終わったままのモンスターの戦いを改めて熱望した。
 “仕掛人”のトレジャーボクシングプロモート代表の元WBO世界スーパーフェザー級王者の伊藤雅雪氏も、カシメロの1ラウンドTKO勝利に興奮していた。
 体重を管理するため、試合の2週間以上も前の9月26日に来日させ、千葉に一軒家を借り、運転手をつけ、練習場所も確保していたのに、体重超過を犯したカシメロに「ふざけんな。もう(井上戦の)可能性はゼロだ」と大激怒。
「この試合で、よほどのインパクトを与えない限り、もうカシメロは終わりだ」と“最後通告”を送っていたが、評価は一変した。
「やはりリングではかっこいい。迫力もスピードもある、魅力的だとリアルに思った。昨日は失望したし、体重超過を犯したことで、井上選手陣営が納得してくれるかどうかはわからないが、あの左フックは、唯一井上選手に勝つ可能性のある選手だと思う。不甲斐ない内容だった1年前の試合とは雲泥の違い。しっかりと復活をアピールできたと思う。井上選手のこれからの相手は決まっているが、なんとか挑戦者候補として食い込めるように交渉をしていきたい」
 カシメロはちょうど1年前に元IBF世界スーパーバンタム級王者の小國以載(角海老宝石)と対戦したが、消化不良の4ラウンド負傷ドロー。観戦に訪れていた大橋秀行会長が、「尚弥とやりたいならもうちょっと練習しないとダメ」と“ダメ出し”するほど評価はガタ落ちして対戦候補のリストから消えた。
 井上は12月24日にWBO&IBF同級1位のサム・グッドマン(豪州)との防衛戦が決まっていて、その次にも「指名試合の義務を果たさないのは恥。戦わないならベルトを返上しろ」などと盛んに挑発してくるWBAの指名挑戦者で、元WBA&IBF世界同級王者のムロジョン・アフマダリエフ(ウズベキスタン)が控えている。
 カシメロが挑戦者に割り込むなら“第3の刺客”。なにかと騒ぎを起こす“問題児”の話題性と、日本でのネームバリュー、そして一発KOの魅力で言えば、伊藤氏が、カシメロを強力プッシュする理由もわからないでもない。
 わずか160秒の戦いの中でも、サンチャスのパンチを被弾するシーンもあり、井上が相手なら命取りになっていただろう。しかし、爆発力のある怒涛の攻撃力は向かうところ敵なしの井上に対して、5月6日の東京ドームを満員にしたルイス・ネリ(メキシコ)に負けずとも劣らぬ勝負論はある。
(文責・本郷陽一/RONSPO、スポーツタイムズ通信社)

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