「ふざけんな!奴には本当に失望した」“問題児”カシメロの600グラム体重超過による計量失格に井上尚弥戦を狙っていた仕掛け人の元世界王者が大激怒!

 プロボクシングの「TREASURE BOXING PROMOTION7」(13日・ 横浜武道館)の前日計量が12日、都内で行われ、メインのノンタイトルのスーパーバンタム級10回戦で1年ぶりの復帰戦を戦う元3階級制覇王者のジョンリエル・カシメロ(35、フィリピン)が体重超過の失態を犯した。1回目にリミットの55.3キロから1キロオーバー。2時間の猶予後にも600グラムオーバーの55.9キロで計量をパスできなかった。試合はタイトル戦ではなく、100グラムアンダーで計量をクリアした対戦相手のWBO世界バンタム級8位のサウル・サンチェス(27、米国)サイドの同意を得たため、当日計量で58.0キロ以下であれば試合は実施される。カシメロはスーパーバンタム級4団体統一王者の井上尚弥(31、大橋)との対戦を熱望。バックアップを約束していたプロモーターで元WBO世界ス―パーフェザー級王者の伊藤雅雪氏(33)は「ふざけんな。もう可能性ゼロですよ」と激怒した。なお試合はU-NEXTでライブ配信される。

 

カシメロの失態に激怒したプロモーターの伊藤雅雪氏(中央)。元WBO世界スーパーフェザー級王者だ

 まさか。いや、やっぱりか。
 “問題児”カシメロがまた体重超過の失態を犯した。午前10時30分の計量時間に10分以上遅れたが、この日の朝になって、プロモーターでTREASURE BOXING代表の伊藤氏に「これまで測ってきた体重計がおかしかった。ちょっと予定が狂った」とおかしなことを言い始めた。
 海外から持ち込む体重計に誤差が出ることはよくある。同日に別の会場、前日計量が行われた7大世界戦のWBC世界ライトフライ級王座決定戦では、元WBC&WBAスーパー世界ライトフライ級王者の寺地拳四朗(BMB)の対戦相手の元WBC同級王者のクリストファー・ロサレス(ニカラグア)が、同じように持ち込んだ体重計が狂っていたというトラブルから予備計量でリミットから650グラムもオーバーしていて関係者を慌てさせた事態があった。結局、サウナや部屋の運動で正式な計量では、パンツを脱いでリミットを無事クリアしたが、カシメロの場合は、大きく状況が違う。
 伊藤氏は、減量が心配だったため2週間以上も前の9月26日に来日させて体重を管理していた。兄でトレーナーのジェイソン・カシメロ氏らフィリピン人スタッフと共に一軒家に住まわせて、練習場所のジム、スパーリング相手も確保し、毎日、体重を報告させていたのだ。
 それなのに1回目の計量でまさかの1キロオーバー。カシメロは無言。体重を確認したサンチェス側はオーバーアクションで顔をしかめた。カシメロは再計量までの2時間の猶予の間にまずスタジオ内に暖房が効くスペースがあったためそこで動いた。しかし、汗も出ていなかったため、伊藤氏は、計量会場近くにあったサウナにスタッフをつけて押し込んだ、40、50分間入ったが、結局、再計量でも600グラム超過の55.9キロ。400グラムしか落ちておらず計量失格となった。
 伊藤氏は「ふざけんな!」と激怒した。
「失望しました。あきれました。2週間以上も前に来日させて、運転手もつけ、一軒家も用意して、練習場所も確保していたのに、なんなんですか、これは。こんな失態を犯した選手が、井上チャンピオンとの試合なんて組んでもらえませんよ。もう(可能性は)ゼロですよ」
 伊藤氏はカシメロとは顔も合わせなかった。ただカシメロの周辺スタッフや米国から飛んできたマネージャーに「あれだけ注意したのに、あなたたちの管理はどうなってんだ?」と怒りをぶちまけた。

 

 

 今にして思えば、奇妙だったのは、日本で一度もスパーリングを行わなかったこと。来日した際にも「向こうでスパーは終わらせた。こっちではしない」と語っていた。試合の2週間以上も前にスパーを打ち上げるのはあまり聞いたことがない。伊藤氏は「それで大丈夫なのか?」と質問したそうだが、カシメロは「それがオレのスタイルだ」と涼しい顔をしていたという。
 来日後に伊藤氏が実際に体重計を確認したが、その際には126.6ポンド(57.4キロ)だった。122ポンド(55.3キロ)のスーパーバンタム級のリミットより2.1キロオーバー。前日の水抜きで余裕で落ちる範囲だ。伊藤氏は「これなら安心だと思っていた。毎日、体重を報告させ、計量の前日も、もう大丈夫だという話をしてきた。結局、それが嘘だったのか、それ以上になんか飲み食いをしていたんでしょうね」とあきれる。
 食事などは、あまりできないはずが、来日後にも「飯代をよこせ!」などの契約にない要求もしてきた。
 カシメロには、WBO世界バンタム級王者時代にも体重超過の前科があった。  2021年12月にドバイで行われるはずだった同級1位ポール・バトラー(英国)との防衛戦の前日計量をウイルス性胃腸炎のため欠席し、試合は中止になった。医療診断書を提出してベルトの剥奪には至らなかったが、これも実態は減量ミス。翌年4月に英国で再度バトラー戦がセットされたが、今度はローカルコミッションが禁止しているサウナを使った減量が発覚して試合は中止となり、結局、タイトルを剥奪された。暫定王者となったバトラーが正規王者に昇格し、井上との4団体統一戦を戦った。カシメロは2020年4月に米国ラスベガスで井上と対戦することが正式決定していたが、新型コロナの影響で延期となった。以降、両者の対戦は実現していないのだが、自主管理さえできていれば井上と対戦できていたのだ。
 今回、ノンタイトル戦でありながら、スーパーバンタム級の契約で試合を行うことになった理由は、バンタム級を主戦場としている対戦相手のサンチェスが大きな体重差となることを嫌がって要求したためだが、伊藤氏は「きちんと体重を落とせることを井上サイドにアピールしたかった」との狙いもあった。だが、その目論見は無残にも空振りとなった。
 あるプロモーターは「こんなミスを犯した選手を大きなお金が動く井上尚弥選手の世界戦では怖くて使えないでしょう」との見解を口にしていた
 カシメロは昨年10月に行われた元IBF世界スーパーバンタム級王者の小國以載(角海老宝石)との試合が4回負傷ドローに終わり、試合内容も不甲斐なかったため、評価を下げて井上の対戦候補リストから外れた。井上は12月24日にWBO&IBFの同級1位のサム・グッドマン(豪州)と対戦予定でその次にはWBAの指名挑戦者で元WBA&WBC王者のムロジョン・アフマダリエフ(ウズベキスタン)が控える。小國戦以来、1年ぶりとなる今回の試合は、カシメロにとって存在感を示し、“第3の刺客”として井上戦を再度アピールするための重要な試合だった。

 

 

カシメロも井上への挑戦を実現するために挑発を続けていた。
「オレを避けて弱い奴としか戦わない井上は世界一と言えない選手だ」
「なんでオレとやらないのか疑問だ。オレが年をとるのを待っているんじゃないか。そうなれば有利だからな」
「井上はスーパーバンタム級に上がりパワーは増した。ただスピードは落ちた。オレのパワーは、それより上。オレはスピードもキープしている」
 そして「オレの試合を見に来い!弟の試合は夜だろう?」とWBA世界バンタム級王者の弟・拓真の防衛戦が同日にあるため、とうてい実現は無理の井上の来場を呼び掛けた。そもそも自らの失態でその試合が行われるかどうかも怪しくなった。  
 伊藤氏が、サンチェスサイドと協議した結果、試合当日の午前10時45分に計量を行い、58キロをクリアすることを条件に試合は実施されることになった。管理をするJBCは、59.6キロでもOKだとしたが、「あいつはプロじゃない」と憤慨したサンチャスサイドがそれを受けつけなかったという。
 伊藤氏が言う。
「さすがにこれをクリアできなければボクサーとして終わりですよ。まだギリギリ、ワンチャン、井上チャンピオンに挑戦する可能性を残すとすれば、世界的な評価のあるサンチェスを相手にインパクトのある試合内容で勝つことでしょう。ただ減量失敗を見ればわかるように後半勝負になってしまうと勝ち目はない。4、5ラウンドまでに本来持っている爆発力を発揮できるかどうか」
 コンディション不良で勝てるほどサンチェスは楽な相手ではない。24戦21勝(12KO)3敗の戦績を持つ好戦的な1階級下のバンタム級の世界ランカー。今年1月に当時のWBO世界バンタム級王者のジェイソン・モロニー(豪州)に挑戦して0-2判定で敗れたが、「ザ・ビースト(野獣)」のニックネーム通り一発もらうと、必ず2発、3発打ち返す気持ちの強さを見せて「あの判定はおかしい」との声もあったほど。ボディ攻撃が得意で、なにしろスタミナがある。米ロスではWBC世界バンタム級王者の中谷潤人(M.T)のスパーリングパートナーも務めた。
 これで終わるか。それとも奇跡的なアピールに成功するのか。カシメロが当日計量をクリアできればボクサー人生をかけた一戦となる。
(文責・本郷陽一/RONSPO、スポーツタイムズ通信社)

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