「なぜ戦わないのか疑問?井上尚弥は私が年を取るのを待っているのか」来日した“問題児”カシメロが過激挑発…弟の拓真と対戦の「Bプラン」まで披露

 プロボクシングの元3階級制覇王者でWBO世界スーパーバンタム級6位、WBC同7位のジョンリエル・カシメロ(35、フィリピン)が26日、フィリピンから来日し都内のジムで取材に応じた。来月13日に横浜武道館でWBO世界バンタム級8位のサウル・サンチェス(27、米国)と約1年ぶりにスーパーバンタム級10回戦を行うカシメロは対戦を熱望している同級の4団体統一王者、井上尚弥(31、大橋)を挑発。井上がフェザー級に転級し対戦が実現しなければ、バンタム級に下げて弟のWBA世界バンタム級王者の拓真(28、大橋)をターゲットとするBプランまで明かした。どこまでも“井上一族”をつけ狙う構えだ。

「グッドマン戦はつまらない。5ラウンドまでに井上が勝つ」

 

 “問題児”カシメロは、約1年ぶりのリングとなる“モンスター前哨戦”の17日も前に来日した。
「うきうきしている。トレーニングは万全に積んだ。夏から秋へと変わる(日本の気候に)体を慣らすために早く来たんだ」
 成田空港から都内のジムに直行。「長旅で疲れている」と言いながらも、プロモーション用のYouTube収録を行った後に取材に応じた。
 約25分間。笑いを交えながら真摯に話をした中身の大半が、対戦を熱望している“モンスター”井上尚弥についてだった。
「ずっと待たされ続けている。なかなかオファーが来ない。奴に勝つのが目標。バッチリ準備すれば勝てる」
 対戦オファーがないことへの苛立ちをぶつけた。
 井上の次戦は12月で相手はWBO&IBF同級1位のサム・グッドマン(豪州)。実は、6月にグッドマン側からカシメロに対戦オファーがあった。だが、グッドマンが最終的に選んだのはカシメロではなく無敗でWBC世界同級8位のチャイノイ・ウォラウト(タイ)で7月に判定勝利している。
「グッドマンからオファーがあったが実現できなかった」と、その経緯を明かしたカシメロは、12月の井上ーグッドマン戦を一刀両断にした。
「井上はグッドマンに勝つだろう。奴はパワーがないし、世界的にも有名ではない。ちょっとつまらないカードだ。5ラウンド以内には終わるんじゃないか」
 井上の5ラウンドまでのKO勝利を予告した。
 そして、現在、35歳のカシメロは、こうも続けた。
「なんでオレとやらないのか疑問だ。オレが年をとるのを待っているんじゃないか。そうなれば有利だからな」
 カシメロはWBO世界バンタム級王者時代の4年前の4月に一度は米国ラスベガスでの対戦が正式発表されていたものの新型コロナの感染拡大の影響で延期となった。
 この4年の間に井上は、バンタム級、スーパーバンタム級の2階級4団体統一の偉業を成し遂げた。カシメロがWBOの世界バンタム級のベルトを持っていれば、対戦は実現していたが、ポール・バトラー(英国)との指名試合で英国のローカルコミッションが禁止しているサウナでの水抜き減量を行っていることが発覚して、試合は中止となり王座は剥奪された。井上は、正規王者となったバトラーを倒して4つのベルトをまとめた。
 カシメロは「井上がゴール(2階級4団体統一)を果たして、そこまで成長したのは嬉しい」と、称えた上で、4年前との違いをこう評した。
「スーパーバンタム級に上がりパワーは増した。ただスピードは落ちた。オレのパワーは、それより上。オレは(階級を上げても)スピードもキープしている」
 そう豪語した。

 

 

 井上は、昨年12月にカシメロと同じフィリピン人でWBA&IBF世界同級王者だったマーロン・タパレスも10回に倒しているが「オレとタパレスとではレベルが違う。オレの方が強い。パワーもテクニックもオレが勝っている」とまで言う。
 ここまでして、カシメロがモンスターとの対戦に固執する一番の理由は、もちろん、高額なファイトマネーだろうが、こう説明した。
「井上と戦わねばフィリピンのファンにオレが強いと証明できない」
 そしてカシメロはサンチェスとの試合への井上の来場を呼び掛けた。
「サンチェスをKOで倒すので、その試合を見に来い。井上はオレが日本で試合をするのになぜ来ないんだ?」
 サンチェス戦と同日に弟の拓真が有明アリーナで元日本王者の堤聖也(角海老宝石)と3度目の防衛戦を行うため、その試合をサポートする井上が来場する可能性はゼロだ。
 カシメロは、「オレの試合は昼間。弟は夜だろう?」と言うが、そもそもそこまでして見にいくほど井上は評価を落としたカシメロに興味はない。
 カシメロは、昨年10月に有明アリーナで元IBF世界スーパーバンタム級王者の小國以載(角海老宝石)と対戦したが、4ラウンド負傷ドローに終わり評価が急落した。スタミナ切れが顕著でリングサイドで観戦した大橋秀行会長も「対戦候補になるには、もうちょっと練習しないとダメ」と酷評した。
 だが、この日、その試合は新型コロナに罹患していた疑いがあり、ベストな体調ではなかったことを明かした。
「当時は新型コロナにかかっていたかもしれない。咳があって熱もあって体調はよくなかった。送り迎えをしてくれていた運転手も新型コロナで入院したし、オレの周囲のスタッフ全員が咳をしていた。フィリピンでは隔離されるので検査は受けなかった。結局、病院で薬はもらうことなくホットレモンジュースを飲んで1週間で自分で治した」
 決して力の衰えではなかったことを強調した。
 井上は、来年いっぱいは、スーパーバンタム級に留まるが、グッドマン戦の次は、WBAの指名挑戦者の元WBA&IBF王者のムロジョン・アフマダリエフ(ウズベキスタン)との指名試合を行わねばならず、カシメロが狙うのは、グッドマン、アフマダリエフに続く“第三の刺客”ということになる。
 もしカシメロがサンチェス戦で評価を取り戻すことができなければ、モンスターに無視されたまま、井上はフェザー級に上がることになる。

 

 

 だが、カシメロはその場合の驚きのBプランまで用意していた。
「井上のフェザー級転級については何とも言えないが、もしオレと対戦しないのであれば、弟と対戦したい」
 “井上兄弟ハンター”となることをぶちあげたのだ。拓真はバンタム級。体重が作れずにバトラーとの防衛戦もできなかったカシメロが、いまさら落とせるのかは疑問だが、「できるさ」と即答した。
 ただその前にサンチェスを片付けなければならない。
 サンチェスは24戦21勝(12KO)3敗の戦績で、「ビースト(野獣)」のニックネームを持つ好戦的ファイター。1階級下のWBOバンタム級で8位にランキングされている。今年1月に当時のWBO世界バンタム級王者のジェイソン・モロニー(豪州)に挑戦して0-2判定で敗れた。ガードは強固で、ジャブにスピードがあり、ボディ攻撃も得意。モロニー戦では一発もらうと必ず2発、3発打ち返す気持ちの強さと最後まであきらめないスタミナで王者を苦しめ「サンチェスが勝っていた」の声もあった。米ロスでは10月14日に防衛戦を行うWBC世界バンタム級王者の中谷潤人(M.T)のスパーリングパートナーも務めた。
 カシメロとプロモート契約をしている元WBO世界ス―パーフェザー級王者でトレジャーボクシングプロモーション代表の伊藤雅雪氏は「井上戦へのアピールと同時にカシメロのボクシング人生のターニングポイントとなる試合」と位置づけているが、当の本人は「こんな試合は、オレのターニングポイントなんかじゃない。イージーな相手。KOで勝つ」と自信満々。
 心配されている減量も本人の自己申告では「127パウンド(約57.6キロ)」で、今回の契約体重であるスーパーバンタム級のリミットの55.34キロまで、残り2キロちょっとで問題はないという。
 すでに母国のレイテ島にある自前のジムで200ラウンドを超えるスパーリングを消化しており「日本ではスパーはしない。軽い練習で調整するだけだ」と息巻いた。果たしてカシメロは、10・13横浜でアピールに成功して、井上の“第三の刺客”となれるのか?

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