評価ガタ落ちで井上尚弥への挑戦権を失った問題児”カシメロは10.13横浜で“第3の刺客”として再浮上することができるのか?

 プロボクシングの元WBO世界スーパーフェザー級王者の伊藤雅雪氏(33)がプロモーターを務める「TREASURE BOXING PROMOTION 7」が10月13日に横浜武道館で開催される。メインは、元3階級制覇王者で“問題児”として知られるジョンリエル・カシメロ(35、フィリピン)対WBO世界バンタム級8位のサウル・サンチェス(27、米国)のスーパーバンタム10回戦。伊藤氏もカシメロもまだ9月3日に防衛戦を控えるスーパーバンタム級の4団体統一王者の井上尚弥(31、大橋)への挑戦をあきらめていない。当初は井上と2度対戦したノニト・ドネア(41、フィリピン)との対戦を計画していたという。バンタム級で世界挑戦経験もあるサンチェス戦を“圏外”まで落ちた評価をアップさせるラストチャンスととらえている。

 1年ぶりのリングで世界挑戦経験のある強豪サンチェスと対戦

 カシメロの名前が井上陣営から聞かれなくなった。
 4年前の4月には一度は米ラスベガスで対戦することが正式発表されながらも新型コロナウィルスの蔓延により中止。以来2人は交わることなく、カシメロは、昨年10月に元IBF世界スーパーバンタム級王者の小國以載(角海老宝石)との負傷ドローで評価を落とした。そこから約1年間試合をしていないのだから、モンスターの視界から“圏外”へ消えるのも無理はない。
 それでも、まだWBO同級5位にランキングされている問題児が、来月13日に日本のリングで“モンスター狩り”へ“再起動”する。
 マッチメイクした伊藤氏は、「ギリギリ今ならワンチャンあると思っているんです。元3階級制覇王者ですし、倒しにいくファイトスタイルや、問題児と言われた過激な言動などのキャラクターも含めて話題性としてはルイス・ネリと同等のものを持っているボクサーです。ただ現状は評価を落としています。井上選手への挑戦を実現するには、ここで内容と結果で存在感を示さねばならない。井上選手がスーパーバンタム級に留まるのが来年いっぱいなら、カシメロ次第で、ある意味、まだ可能性は残っていると考えています」と問題児の復活に期待を寄せる。
 実は、当初カシメロの対戦相手として井上と2度戦った元5階級制覇のレジェンドのノニト・ドネア(フィリピン)にオファーを出した。だが、ドネアは、元4階級制覇王者のローマン・ゴンサレス(ニカラグア)との対戦を熱望していて、興味を示さなかった。その後、ロマゴンがスーパーフライ級に留まる姿勢を示したため、ドネアサイドから問い合わせがあったが、すでにサンチェスとの契約が合意に達していたため、注目のフィリピン対決は実現しなかったという。
 カシメロの対戦相手は、24戦21勝(12KO)3敗のサンチェス。今年1月に当時のWBO世界バンタム級王者のジェイソン・モロニー(豪州)に挑戦して0-2判定で敗れた1階級下のバンタム級の世界ランカーだ。昨年10月のカシメロー小國戦のアンダーカードにも登場していた右構えのボクサーファイタースタイルのメキシカン。「ザ・ビースト(野獣)」のニックネーム通りに好戦的で、モロニー戦では一発もらうと、必ず2発、3発打ち返す気持ちの強さを見せた。ガードはしっかりしてジャブにスピードがあり、ボディ攻撃も得意。なにしろスタミナもあって最後まであきらめない。米ロスではWBC世界バンタム級王者の中谷潤人(M.T)のスパーリングパートナーも務めた。
 伊藤氏も「モロニー戦はサンチェス陣営が“勝った”と手応えを感じていたような内容だった。終盤勝負になればカシメロが劣勢になる可能性もある。パンチもあるし簡単な相手ではない」と見ている。カシメロはスタミナに不安があり、終盤までもつれこめばそこでポイントを失う可能性がある。1階級下ではあるが井上への挑戦をアピールするにはふさわしい相手だろう。

 

 

 だが、一方でカシメロには懸念材料が残る。SNSではたっぷり体に脂肪がつき、太鼓腹になった醜い映像が出回った。ファンの間では「スーパーバンタム級に落とせるの?」の声が飛び交った。2022年には、サウナの水抜きが禁止されている英国でそのルールを破ったため、のちに井上に倒されたポール・バトラー(英国)との防衛戦前に失格となり、WBO世界バンタム級王座を剥奪されてスーパーバンタム級に転級した事情があるなど、元々体重調整に問題があった。
 伊藤氏は、カシメロに会いにフィリピンの彼が経営するジムを訪れているが、その際、すでに太鼓腹の状態ではなかったという。
「おそらくあの頃は68キロくらいあったのでは。僕がフィリピンに会いにいったときは61キロまで絞れていました。減量は大丈夫だと思いますが、万全を期して9月中旬には来日させて日本で調整させます。才能とポテンシャルは凄いものを持っているんですが練習にムラがある。日本で練習も含めチェックしていく考えです」
 ノンタイトル戦なのだから体重超過の危険性があるスーパーバンタム級のリミット122パウンド(55.34キロ)にこだわる必要もないと思うが、バンタム級が主戦のサンチェスが55.34キロ契約を希望したのと、伊藤氏自身が「井上戦の実現のためにはここで何かしらのマイナス要素を作りたくなかった」という。
「おそらくこれがラストチャンスです。ここで小國戦のような内容なら、もう井上選手との試合はないし、カシメロの評価はさらに落ちてしまうでしょう。本人もわかっていると思います」
 伊藤氏とカシメロが狙うのは“第3の刺客”のポジションだ。
 9月3日に元IBF世界同級王者のTJ・ドヘニー(アイルランド)との防衛戦を控える井上は、ドヘニーを撃破すれば、12月に国内でもう1試合行う予定で大橋秀行会長は、有力候補としてWBO&IBF1位のサム・グッドマン(豪州)の名前をあげている。そこをクリアすると次に控えるのが、元WBAスーパー&IBF王者で、WBAの指名挑戦権を持つムロジョン・アフマダリエフ(ウズベキスタン)。カシメロが狙うは、その次の“第3の刺客”の座だろう。
 井上は来年いっぱいはスーパーバンタム級で戦うことを明言しており、ドヘニー戦後に最大で4試合を消化することが可能。その中でドヘニー戦に合わせて来日している井上陣営の共同プロモーターであるトップランク社のボブ・アラムCEOは、「このままうまくいけば、来年に井上と中谷が対戦して日本で歴史的な大きな試合になるだろう」とも明かした。井上のスーパーバンタム級の“卒業試合”に“ネクストモンスター”中谷が指名される可能性もあるが、まだ1試合分の“空席”はある。
 カシメロが総合レベルの高いサンチェスを相手に復活をアピールできれば、再び対戦候補として急浮上してくる可能性は十分にある。過激なトラッシュトークも“売り”の“問題児”カシメロは、10.13横浜武道館で、ボクサー人生をかけたリングに上がることになる。
(文責・本郷陽一/RONSPO、スポーツタイムズ通信社)

ジャンルで探す