「オレを避けて弱い奴としか戦わない井上尚弥は世界一とは言えない」10・13横浜で1年ぶり復帰の“問題児”カシメロが挑発…モンスター“第3の刺客”か?“口だけ番長”か?

 プロボクシングの「TREASURE BOXING PROMOTION7」(10月13日・横浜武道館)の記者会見が9日、都内の代官山で行われ、メインイベントのスーパーバンタム級10回戦に出場する元3階級制覇王者のジョンリエル・カシメロ(35、フィリピン)がオンラインでフィリピンから参加して4団体統一王者の井上尚弥(31、大橋)を挑発した。9月3日に井上は元IBF世界王者のTJ・ドヘニー(37、アイルランド)に7回TKO勝利したが、ダウンシーンのない“棄権”だったため「眠たい試合」と酷評。「オレを避けて弱い奴としか戦わない井上は世界一と言えない選手だ」と批判した。ただカシメロの世界的な評価はガタ落ちでWBO同級5位にかろうじてランキングが残っている状況。1年ぶりのリングで世界戦経験のあるサウル・サンチェス(27、米国)を相手に勝たねば井上戦のチャンスは巡ってこない。

 「井上対ドヘニー戦は眠たい試合だった」

 “問題児”カシメロのトラッシュトークが久々に炸裂した。
 10月13日に横浜武道館で、約1年ぶりとなるリング復帰の決まったカシメロが赤のスタジャン姿でフィリピンからオンラインで会見に登場。こうまくしたてた。
「日本のファンの皆さん。オレの試合を見てくれ。良い試合にはなると思うが、絶対にKOで決着をつける。それ(KO)を実現したら井上尚弥はびびるだろうね。昔からずっと井上尚弥とやりたかった。今回の試合にオレのすべてをかける。オレを避けて弱い奴としか戦わない井上尚弥は、世界一と言えない選手だね。井上尚弥を倒せるのはこのオレだけだ」
 何度も「INOUE」という名前を出して挑発した。
 映像でチェックした9月3日の井上対ドヘニー戦も酷評した。
「見ていて眠たい試合だったな。井上とドヘニーではパワーが違いすぎた。ドヘニーは対抗できていなかった」
 井上は、当日の体重を11キロも増量してきたドヘニーを終始圧倒して7回にTKO勝利した。ただ井上自身が「中途半端な終わり方」「不完全燃焼」と表現したように最後は腰を押さえて足を引きずったドヘニーの“棄権”。元WBA&IBF世界同級王者のマーロン・タパレス(フィリピン)の戦い方を模して、極端な後ろ重心で、頭の位置を遠ざけるなど超守備的に戦ってきたドヘニーを相手にダウンシーンは演出できなかった。
 カシメロは「オレなら眠たい試合はしない」と豪語した。
 4年前には、一度は4月に井上と米ラスベガスで対戦することが正式発表されながらも新型コロナウィルスの蔓延により中止。以来2人は交わることなく、カシメロは、昨年10月に、元IBF世界スーパーバンタム級王者の小國以載(角海老宝石)と4回負傷ドローに終わり評価を落とした。以来1年間リングに上がっていなかったが、カシメロの“モンスター狩り”への執念の火が消えることはなかった。
 カシメロは、さらにこう挑発した。
「もしオレと戦わないなら、井上尚弥のキャリアは価値はない。先にサウルを倒して、その後に井上だ。井上尚弥、オレの試合を見に来いよ!」
 10月13日の横浜武道館への来場を呼び掛けた。
 ただこれは間の抜けた話で、いくら大橋ジムのある横浜での興行とはいえ、モンスターが来場することは100%ない。なぜなら同日は、7大世界戦を2日間にわたって開催するという日本ボクシング史上始まって以来の歴史的なビッグイベントの初日で、井上尚弥の実弟のWBA世界バンタム級王者の拓真(大橋)が元日本同級王者の堤聖也(角海老宝石)と防衛戦を行うため、井上はそのセコンドにつくのだ。
 カシメロが登場する興行は、午後12時45分開始の昼間興行で、夕方から夜にかけて開催される7大世界戦とは、バッティングしないようになっているが、拓真の全面サポートを宣言している井上が、カシメロの呼びかけに応じて、試合を見に行く可能性はゼロ。挑発よりも先に結果で評価をアップすることが先だろう。

 

 

 カシメロは怪我でもなく1年間のブランクを作った。6月には井上の12月の防衛戦の最有力候補となっているWBO&IBF同級1位のサム・グッドマン(豪州)との対戦話も浮上したが、最終的にグッドマンが選んだのは、カシメロではなく無敗でWBC世界同級8位のチャイノイ・ウォラウト(タイ)。プロモーターの伊藤氏は、「ファイトマネーの問題もあるが、ここで負けたら井上戦が消滅する。一発の危険性のあるカシメロを避けたのでは?」と推測している。
 伊藤氏はカシメロに“第3の刺客”としての可能性を期待している。
「井上チャンピオンの対戦候補としてグッドマン、アフマダリエフがいると聞いているが、来年いっぱいスーパーバンタム級で戦うのであれば、カシメロにワンチャンスはあると思う。今回の試合に勝って評価を上げれば、話題性や日本での知名度で言えば、ルイス・ネリに負けないくらいのものがカシメロにはある」
 井上が12月に国内で行う次期防衛戦の対戦有力候補はグッドマン。WBAの指名挑戦者が元WBA&IBF世界同級王者のムロジョン・アフマダリエフ(ウズベキスタン)で、英専門サイト「ボクシングニュース」の取材に「なぜオレと戦わない。井上はボクサーとしてすべてを持っているオレと戦うことを恐れている」と吠えるなど、こちらも挑発してきている。井上は「いずれにしろどっちとも戦う」と公言しているが、グッドマンの次はまだ未定で、共同プロモーターのトップランク社、ボブ・アラムCEOが提唱している米ラスベガス興行の対戦相手も決まっていない。 
 アフマダリエフはトップランク社のライバルであるマッチルーム社の契約選手だけに、もしカシメロが世界的な評価をアップさせれば、4年前に一度はマッチメイクしたカシメロに触手を伸ばしても不思議ではない。
 ただ今回のカシメロの対戦相手のサンチェスは簡単な相手ではない。

 

 

 24戦21勝(12KO)3敗の戦績を持つ1階級下のバンタム級の世界ランカー。今年1月に当時のWBO世界バンタム級王者のジェイソン・モロニー(豪州)に挑戦して0-2判定で敗れた。昨年10月のカシメロー小國戦のアンダーカードにも登場していた右構えのボクサーファイタースタイル。「ザ・ビースト(野獣)」のニックネーム通りに好戦的でモロニー戦では一発もらうと、必ず2発、3発打ち返す気持ちの強さを見せた。ガードはしっかりしてジャブにスピードがあり、ボディ攻撃も得意。なにしろスタミナがあって最後まであきらめない。米ロスではWBC世界バンタム級王者の中谷潤人(M.T)のスパーリングパートナーも務めた。現役時代からサンチェスとジムメイトでもあった伊藤氏も「モロニー戦はサンチェス陣営が“勝った”と手応えを感じていたような内容だった。終盤勝負になればカシメロが劣勢になる可能性もある。パンチもあるし簡単な相手ではない」と見ている。
 カシメロはスタミナに不安があり、終盤までもつれこめば、どんな判定結果になるかわからない。1階級下ではあるが、井上への挑戦をアピールするには、ふさわしい強敵だろう。
 カシメロは、現在、第二次世界大戦の激戦地となった故郷のレイテ島オルモックに自ら創設したジムでトレーニングを行っている。スパーリングパートナーを4人呼んで、スパーリングも開始。でっぷりとお腹の周りについていた贅肉も落としたという。自己申告の体重は130パウンド(約58.97キロ)。伊藤氏が先月にオルモックを訪れた際には135パウンド(約61.23キロ)だったというから、さらに絞れていることになる。それでも伊藤氏は「体重調整と万全に仕上げるため」にカシメロを3週間前には、来日させて日本で最終調整を行う契約に同意させた。
 WBO世界バンタム級王者時代には減量ミスが目立ち最後はポール・バトラー(英国)との指名試合で、英国で禁じられているサウナによる水抜きを試みたことがバレて、試合は中止、王座を剥奪された。スーパーバンタム級に転級してから減量ミスはないが、1年のブランクを考えて伊藤氏が慎重になるのも無理はない。
 “口だけ番長”で終わるか。それとも本物の井上の対戦候補となるのか。カシメロにとってもボクシング人生をかけた10・13横浜決戦となる。
(文責・本郷陽一/RONSPO、スポーツタイムズ通信社)

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