井上尚弥が中谷潤人とのビッグマッチ構想に一言!「オレと戦うステージに上がってくる前に“クセもの”拓真という壁がある」

 プロボクシングのスーパーバンタム級の4団体統一王者、井上尚弥(31、大橋)が元IBF世界同級王者のTJ・ドヘニー(37、アイルランド)を7回TKOで下した防衛戦の一夜明け会見が4日、横浜市内の大橋ジムで行われ、将来構想として浮上しているBC世界バンタム級王者、中谷潤人(26、M,T)との対戦について口を開いた。中谷が井上戦を実現する条件がバンタム級の統一で、WBA世界バンタム級王者である弟の拓真(28、大橋)が立ち塞がる可能性を示唆した。またもっと先の夢対決である那須川天心(26、帝拳)との対戦については「まだ土俵にも上がってきていない」と語った。拓真は10月13日に元日本王者の堤聖也(28、角海老宝石)、中谷は10月14日に同級1位のペッチ・CPフレッシュマート(30、タイ)と有明アリーナで防衛戦を行う。

 「天心はまだ土俵にあがっていない」

 当日体重を11キロも増やしてきたドヘニーを“歩行困難”でギブアップさせた一夜明け会見で焦点となったのはモンスターの将来構想だ。次戦は12月24日に都内で行われる予定で、対戦相手の最有力候補がWBO&IBF同級1位のサム・グッドマン(豪州)。この9月に対戦する予定が“敵前逃亡”して7月の前哨戦を優先させた19戦無敗の指名挑戦者である。井上は「正統派のボクサー」とだけ印象を語り、もう一人の対戦候補である元WBA&IBF王者でWBA同級1位のムロジョン・アフマダリエフ(ウズベキスタン)の名前を自ら出して、「どのみちどっちともいずれやるんです。心配しないで下さい」と笑った。
 だが、ファンやメディアの注目はもっと先。来年の井上のスーパーバンタム級の“卒業試合”として対戦構想が急浮上している中谷との究極日本人対決だ。
ドヘニー戦で来日していた共同プロモーターであるトップランク社のボブ・アラムCEOが8月31日に「(実現すると)信じている」とした上で「このままうまくいけば、来年に井上と中谷が対戦して日本で歴史的な大きな試合になるだろう」と明かしたことで急浮上したプラン。
 井上は意見を求められ「僕はこのままのスタンス(スーパーバンタム級の防衛路線)でいくんで、彼が、そういうステージに上がってくれば対戦候補のひとりにあがってくるんじゃないですか」とそのビッグプランを否定しなかった。
 だが、アラムCEOは、モンスターvsネクストモンスターの実現に条件をつけた。
「いろいろと全部がうまく進んでいかねば難しい。何がおきるかわからないが実現の可能性はある」
 つまり中谷がバンタム級のベルトを統一することが井上戦実現のパスポートとなる。そうなると立ちはだかるのがWBA王者の弟拓真だ。
「そこの壁はでかいんじゃないですかね。みなさんバンタム級1位は中谷潤とだと言っていますが、拓真は結構クセものですよ。向こうもそういうことを発言している。まずはバンタム(の統一)だと。拓真もそう発言している。おもしろい戦いになりますよ」
 中谷も拓真も4団体統一を目標に掲げている。しかも中谷は、7月20日に同級1位のビンセント・アストロラビオ(フィリピン)を秒殺KOした試合を前に「井上拓真選手とやりたい気持ちが強くあります」とハッキリと断言している。「評価している選手の1人。そういった選手とやれば、より自分が強くなれると思うのでやってみたい」というのが、その理由だ。
 その上で井上尚弥戦について「まだまだですけど、ひとつずつしっかり勝っていって皆さん(の期待)が大きいものになっていけば、おのずと実現すると思う」と胸の内に秘めた思いを吐露した。一方の拓真も中谷との統一戦について「お互いに勝ち進めば。お互いが統一戦を望んでいる。決まれば楽しみな試合になる」と語るなど、対戦ムードは盛り上がっている。
 父の真吾トレーナーも「中谷選手の試合はそこまで詳しく見ていないが、長身のサウスポーでパンチ力もある。評価されて当然のチャンピオンですね。中谷選手も拓真も互いにまだチャンピオンになる前に一度スパーをしたことがあるんです。お互いに成長してあの時とは違いますが、決して拓真の分は悪くなかった。そのイメージが残っています」と言う。

 まずは、拓真が堤を撃破することが最重要事項だが、井上は「スパーリングで自分が仮想堤をやってサポートする」という。
 井上は堤とスパーリングを多く経験していて「手の内は知っている」ため、堤をコピーして攻略法まで伝授するつもりでいるのだ。
 またこの日は、大橋秀行会長が将来構想として、井上対天心のドリームカードも口にした。だが、井上は天心戦についてはリップサービスを封印した。
「そっちの方がまだない話じゃないですか。チャンピオンにもなっていないじゃないですか。会長的にはプロモーターとしての話でしょう。階級も違うし、土俵にも上がってきていない。土俵にあがってきたらまた聞いてください」
 井上の言う土俵とはもちろん世界のベルト。天心も7大世界戦プラスアルファとして2日目の10月14日のカードに組みこまれ、ボクシング転向5戦目にしてWBOアジアパシフィック王座決定戦の出場し、23歳の9戦全勝のジェルウィン・アシロ(フィリピン)と対戦する。天心に関しては、井上―ドヘニー戦のセミファイナルで、元WBC世界フライ級王者、比嘉大吾(志成)との死闘を制してV1に成功したWBO世界バンタム級王者の武居由樹(大橋)が対戦を呼び掛けており、こちらも立ちはだかるのは、井上の後輩の元K-1ボクサーとなる。
 井上が本当に見据えているのが5階級目となるフェザー級への転級だ。今回当日体重を過去最重量となる62.7キロまで増やした。11キロ増のドヘニーのパワーに対抗するという目的もあったが、「どこまでリカバリーできるかを試した」ともいう。フェザー級転級を念頭に置いてのテストだった。
「フェザー級へのカウントダウンってほどではないが、残りのキャリアから逆算すると、(増量を試すのは)このあたりなのかなあと。(ボクシングは)10年できるスポーツじゃない。あと何年かと限られたスポーツ。逆算をしなきゃいけない。(今後)何ができるか。フェザー級に上がるしかない。だから慎重にやりたい」
 来年いっぱいはスーパーバンタム級に留まる考えでいる。来年も3試合行うなら、12月のグッドマン戦を含んで残り4試合だ。しかしこうも言う。
「1年半後、2年後の体は。その時になってみないとわからない。減量がしんどいなら(フェザー級転級を)前倒しするし、2年たってもスーパーバンタム級でできるなら、そのまま続けるしね」
 2026年に予定しているフェザー級転級が来年に早まる可能性があることも示唆した。そうなるとたとえ拓真が壁になれなかったとしても、中谷とのビッグマッチが幻に終わってしまうかもしれない。
 アラムCEOは来年に米ラスベガス興行を計画していることも明かしている。いずれにしろ日本の枠組を超えて世界のボクシング界がパウンドフォーパウンド2位にいるモンスターを中心に回ることになる。

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