「問題の本質はスロープレーなのに!」 26年から出場枠もシードも昇格も“全部縮小”のPGAツアーを全米OP覇者が猛批判
PGAツアー「縮小化計画」が正式に承認された。2026年から、1試合当たりの出場枠や、いわゆるシード権、下部ツアーからの昇格枠なども、ほとんどが人数を減らすことになる。これには現役選手からも批判が集まっている。
「人数が少ないほど競争がレベルアップする」
来年のPGAツアーには、松山英樹や久常涼に加え、大西魁斗、星野陸也も参戦する。日本勢が賑やかになることは、日本のゴルフファンにとっては朗報である。
だが、その反面、PGAツアー全体を眺めると、2026年からの「縮小化計画」が正式に承認されたことで、今後は試合会場が少々さびしくなりそうである。
シード選手や下部ツアーからの昇格人数などを減らす縮小計画を記した書類がPGAツアーから選手たちに配布されたのは今年10月のことだった。
その後、理事会による承認を待つだけとなっていたのだが、11月18日の理事会で正式に承認され、26年から実施されることが決まった。
近年のPGAツアーでは、「日没サスペンデッド」「翌日に持ち越し」「マンデー・フィニッシュになる可能性」といった言葉が日常的に使われる状況が続いており、今回のスリム化は、そうした状況の改善が最大の目的とされている。
PGAツアーから配信されたリリースには、ジェイ・モナハン会長の言葉として「本日発表した変更は、ファン、選手、大会、パートナー企業にとって最高のPGAツアーを目指すため、競技とスケジュールの改善を6年間、検討してきたものです。これは真に協力的な取り組みで、選手諮問委員会がPGAツアーをより強固なものにするために費やした時間と努力をとても誇りに思います」と記されていた。
「縮小化」「スリム化」の具体的な内容は、まず、翌年の出場資格が得られる「シード選手」が、現行のフェデックスカップ・ランキング上位125名から100名へ減らされること。101位から125位の選手には、条件付きシードが付与される。
下部ツアーのコーン・フェリーツアーからPGAツアーへ昇格できる人数も、現行の30名から20名へと大幅に減らされる。
ちなみに、DPワールドツアーからPGAツアーへの10名枠は、そのまま現状維持となるのだが、PGAツアーのQスクール(予選会)からの昇格枠は、現行の「5位タイまで」が「上位5名」に制限される。
また、スポンサー推薦やマンデー予選の枠も、現行の4枠が試合によっては2枠へ、あるいは0(ゼロ)へと減らされ、PGAツアーのメンバーに限定されているスポンサー推薦枠は廃止となる。
さらに、各試合の出場選手の人数も減らされる。これまでは最大で156名となっているが、26年以降は試合に応じて120~132名、最大でも144名までに抑えられることになった。
シード選手の人数が減らされ、下部組織や外部からの昇格人数も減らされ、試合出場選手の人数も減らされることで、少数精鋭化され、試合進行がスムーズ化されて、日没サスペンデッドになるケースが格段に減ることは十分に期待できる。
シード落ちや試合出場の優先順位を心配する必要がないトッププレーヤー、たとえば世界ランキング3位のローリー・マキロイは「人数は少なければ少ないほど、競争がレベルアップするから望ましい」と喜んでいる。
しかし、すでに正式決定されたこととはいえ、選手たちの間からは不満や批判の声が多々上がっている。
「今のツアーにはスロープレーヤーが50人以上いる」
09年全米オープン覇者で45歳の米国人選手、ルーカス・グローバーいわく、「問題の本質は、日没サスペンデッドではなく、スロープレーだ。それなのにスロープレー問題はそのままにして、選手の人数を減らし、フィールドを縮小させるのは本末転倒だ」と怒りを露わにしている。
「20年前のツアーには、スロープレーヤーはほんの数人しかいなかった。でも今は50人以上いる。それなのにツアーがスロープレーに対して何も行わないのは、(スロープレー常習の)トッププレーヤー数人を怒らせたくないからだ」
グローバーの言葉には「トッププレーヤーを怒らせてリブゴルフに移籍されては困るからだ」という意味合いが込められている。
「トップの6人ぐらいをハッピーにするために、200人以上の選手の生活と仕事に影響を及ぼす決定を下すとは、私たち選手を馬鹿にしている」
英国出身の30歳、22年全米オープンを制したマシュー・フィッツパトリックも「ルーカス・グローバーの指摘は、きわめて正しい。縮小化では、本当の問題解決にはならない。ペース・オブ・プレーは毎年問題になっているのに、何も対策が取られていない」として、人数を減らし、フィールドを縮小することは、問題の本筋から逸脱していると声を荒げている。
スロープレー問題には直接言及せず、今回の縮小化に首を傾げているのは、メジャー3勝の大ベテラン選手、アイルランド出身のパドレイグ・ハリントンだ。
日没が近づいてきた中で、まだ18ホールを終えていないという状況下では、選手たちはみな焦り、最後には小走りにさえなるのだが、「それでも選手たちは、これまでなんとか対応してきたし、今後も対応するはずだ。プレーの進行がスローになった中でのゴルフは、ラッシュアワーの道路で車を運転するようなもので、選手の人数が多すぎるためにそうなることは頷ける。しかし、だからと言って、選手がプレーする機会を奪って解決しようというのはおかしな話だ」と、ハリントンは指摘する。
さらにハリントンは、マンデー予選やスポンサー推薦の枠を減らしたり撤廃したりすることに対しても、絶対反対の意見を口にした。
「マンデー予選は(ゴルフの試合において)最もエキサイティングなものだ」
シンデレラボーイの誕生に人々が沸き、歓喜する場面が今後は見られなくなるであろうことを、ハリントンは嘆いている。
「26年からはツアーが変わり、とんでもなく競争が激しくなる」
そんなふうに批判の声が次々に聞こえてくる一方で、今回の縮小化の正式決定を受け入れている選手たちも、もちろんいる。
前述のマキロイのように手放しで絶賛しているわけではないものの、たとえば、39歳の米国人選手、通算6勝のクリス・カークは「決まったことは、決まったこと」と頷いている。
「PGAツアーによる試合の運営は、本当にグッドジョブなのだから、そのツアーによって決められたことは、僕は素直に受け入れる」
昨年の全英オープン覇者で37歳の米国人選手、ブライアン・ハーマンも「縮小化は自然な流れだ」と肯定している。
「1試合に156名もいると、駐車場は満車だし、練習ラウンドも大変だ。多すぎることは明らかで、人数を減らすことは、そうなるべき自然な流れだ」
反対派、賛成派、さまざまな選手が、いろいろな意見を述べている。
だが、詰まるところ、ツアー未勝利の28歳の米国人選手、ベン・グリッフィンのこの言葉こそが、今、選手がはっきりと明言できることであり、選手には是非とも、そうあってほしいことである。
「26年からはツアーが変わり、とんでもなく競争が激しくなる。私たち選手は、ただただ、いいプレーをするのみだ」
人数が増えても減っても、懸命に戦う選手の姿にゴルフファンは心を惹かれるものである。最終的にファンを魅了するPGAツアーになれば、この縮小策は「最善の策だった」ということになるはずである。
文・舩越園子
ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学客員教授。東京都出身。百貨店、広告代理店に勤務後、1989年にフリーライターとして独立。1993年に渡米。在米ゴルフジャーナリストとして25年間、現地で取材を続け、日本の数多くのメディアから記事やコラムを発信し続けてきた。2019年から拠点を日本へ移し、執筆活動のほか、講演やTV・ラジオにも活躍の場を広げている。
11/26 11:10
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