全米を驚かせた“PGAツアー対リブゴルフ”発案者はマキロイ! 運営側のリーダーシップ欠如に業を煮やした!?

12月に8回目の「ザ・マッチ」として、「PGAツアーvsリブゴルフの世紀の対決」が発表された。PGAツアーからはローリー・マキロイとスコッティ・シェフラー、リブゴルフからはブライソン・デシャンボーとブルックス・ケプカが出場する。実は発案者はマキロイで、ツアー側のリーダーシップのなさに業を煮やした結果にも見える。

マキロイ・シェフラー組vsデシャンボー・ケプカ組

 2018年に「タイガー・ウッズとフィル・ミケルソンの世紀の対決」と銘打たれて初開催されたテレビマッチの「ザ・マッチ」は、その後、出場選手の顔ぶれや形式を変えながら、次々に開催されてきた。

 そして今年12月に8回目の「ザ・マッチ」として、「PGAツアーvsリブゴルフの世紀の対決」が予定されている。PGAツアーからはローリー・マキロイとスコッティ・シェフラー、リブゴルフからはブライソン・デシャンボーブルックス・ケプカが出場し、熱い戦いを繰り広げるだろうと期待されている。

左からローリー・マキロイ、スコッティ・シェフラー、ブライソン・デシャンボー、ブルックス・ケプカ 写真:Getty Images

左からローリー・マキロイ、スコッティ・シェフラー、ブライソン・デシャンボー、ブルックス・ケプカ 写真:Getty Images

 その発案者は、驚くなかれ、ローリー・マキロイだという。

 リブゴルフが創設され、PGAツアーのスター選手が続々とリブゴルフへ移籍して以来、PGAツアーは去っていった選手たちのメンバーシップを停止したままになっており、PGAツアーに残っている選手と去った選手が同じ舞台の上で戦う機会は、現状ではほぼメジャー4大会のみに限られている。

 しかも、リブゴルフ選手の中でメジャー4大会に今でも出場できる選手はごく一部に限られているため、PGAツアー選手とリブゴルフ選手が一緒にプレーするチャンスは、日に日に減少している。

 PGAツアーの選手理事らが中心となって立ち上げた「交渉分科会」は、リブゴルフを支援するサウジアラビアの政府系ファンド「PIF(パブリック・インベストメント・ファンド)」との統合交渉を「進めている」と言われてはいるものの、実際の交渉は遅々として進んでいない様子だ。

 PGAツアーとPIF、そしてリブゴルフが手を取り合う日は、本当に来るのか、それとも来ないのか。誰もが首を傾げている昨今、そんな現状に「ファンはイライラしている」と苦言を呈したのが、マキロイだった。

 そしてマキロイは、PGAツアーとリブゴルフの2大スターどうしが対戦するテレビマッチを実施することを思い付き、あれこれ交渉した結果、ようやく実現に至ったのが、今年12月に開催される第8回「ザ・マッチ」なのだそうだ。

 PGAツアーは、PGAツアー競技と同週に開催される他ツアーの大会への出場を制限しており、どうしても他ツアーの大会への出場を望む場合は、事前に届け出ることが義務付けられている。

 リブゴルフの大会に出場したPGAツアー選手は、この義務に違反したという意味でメンバーシップを停止されているわけだが、どちらのツアーの大会でもなく、どちらのツアーの大会も開催されない12月の非公式テレビマッチであれば、そこにリブゴルフ選手が出るからという理由だけでPGAツアーが出場選手に罰金や処分を科すとは、さすがに考えにくい。

 マキロイは、そこを見込んで、この「ザ・マッチ」に目を付けたのだろう。

 今回の「ザ・マッチ」が成功を収めたら、今後はPGAツアーでもリブゴルフでもない第3者が創設・実施するプライベートイベントに双方の選手を招き、熱戦を披露してもらうというパターンが増えていくのではないだろうか。

 今年12月の「ザ・マッチ」は、そのための試金石となりそうである。

リブゴルフはもはやPGAツアーの日程を気にしていない!?

 ところで、最近のリブゴルフはどうなっているのかと言えば、3シーズン目の今季は、残すところ、あと2試合だ。

 昨今のリブゴルフは、あまり話題にもならないが、それでも彼らは粛々と日程をこなしている。

 個人戦が行なわれるのは、今週13日からのシカゴ大会がラストとなり、9月20日からの最終戦、チームチャンピオンシップは、その名の通り、チーム戦のみとなる。

 リブゴルフ・ランキングで49位以下の選手はシード落ちとなり、予選会的な位置づけのプロモーションイベント行きになる。そのボーダーラインに位置しているのは、元PGAツアー選手のハロルド・バーナーやパット・ペレツといった面々だ。

 なかなか発表されなかった25年シーズンの日程は、先日、2月と3月に行なわれる最初の4試合がようやく発表され、サウジアラビア、オーストラリア、香港、シンガポールで開催されることが決まっている。

 その4試合は、いずれもPGAツアーのビッグ大会と同週開催だが、3日間競技のリブゴルフはPGAツアーの最終日より早く勝敗が決まる。

 そう考えると、リブゴルフがあえてPGAツアーのビッグ大会に意図的にぶつける日程を組んでいるわけではなさそうである。

 むしろ、リブゴルフは「もはやPGAツアーの日程を気にしていない」と見る向きもある。もしもそうであれば、PGAツアーとリブゴルフの協調は、なおさら遠い未来のことのように感じられる。

 一方、最近のPGAツアーはどうなっているかと言えば、今季とほぼ同じ日程で25年シーズンを迎えようとしているところには、安定性や平和ムードが見て取れる。

 しかし問題は、強力なリーダーシップが欠如していること。そして、長期的なビジョンも見られないことだ。

 ジェイ・モナハン会長は、PIFのヤセル・ルマイヤン会長と秘かに交渉を進め、昨年6月に一方的・電撃的に統合合意を発表して以来、選手たちからの信頼は失墜している。

 今では米メディアから「会長の椅子を失うことを恐れている」「モナハン会長は形骸化している」とも酷評されている。

 それでも会長としての権限やパワーは、まだ残されており、その権限を使って「モナハン会長はタイガー・ウッズだけを、いつの間にか、無期限の選手理事に就任させた」などと、さらなる批判も浴びている。

 リブゴルフに対抗するために、PGAツアーの賞金を高額化させ、次々にボーナス制度も新設し、フェデックスカップの年間王者のボーナスも2500万ドルまで引き上げたのは、すべてモナハン会長である。だが、そんな引き上げ方は、上げるだけ上げているものの、長期的に見れば「まったくサステナブルではない」という指摘もある。

 そんな話ばかりが耳に入ってくると、PGAツアーの将来未来に不安を覚えずにはいられなくなる。

鳴り物入りの「PGAツアー・エンタープライズ」も迷走

 それならば、PGAツアーが米コンソーシアムの「SSG(ストラテジック・スポーツ・グループ)」とパートナーシップを締結し、最大30億ドルの投資を得て設立した営利法人「PGAツアー・エンタープライズ」は、最近、どうなっているのだろうか。

タイガー・ウッズが隠然たる権力を握っている? 写真:Getty Images

タイガー・ウッズが隠然たる権力を握っている? 写真:Getty Images

 米スポーツイラストレイテッドによると、同社はチェアマンを決めるだけでも二転三転しているそうだ。

 チェアマンの候補に挙がるのは、同社の理事でもあるウッズやパトリック・カントレーらと何かしらのつながりを持つビジネスマンが多いそうだが、誰かが候補に上がり、チェアマンに就任すると、理事の中の別の誰かが猛反発し、交代させるためにすぐさま動くことを繰り返しているという。

 上層部の面々が自分の利益ばかりを優先し、法人としての活動は止まったままに近い状態と言えそうで、その影響は、すでに別の活動にまで及んでいる。

 たとえば、ウッズやマキロイらが中心となり、松山英樹も加わって華々しく24年からスタートするはずだったインドアゴルフリーグ「TGL」は、PGAツアーやPGAツアー・エンタープライズとともに進められるべきプロジェクトだが、遅々として前進できないPGAツアーやPGAツアー・エンタープライズと歩調を合わせる形で、TGLも足踏み状態になっている。

 実際、TGLのキックオフは25年へ延期されることになった。だが、来年のスタートだって、確約されているわけではない。

 こうして見ると、リブゴルフは独自路線を歩み始め、PGAツアーとPGAツアー・エンタープライズは、一見、落ち着いたようで、まだまだ混沌としている。

 そんな中、マキロイが提唱し、実現しようとしている今年12月の「ザ・マッチ」が、PGAツアーとリブゴルフの距離感をどこまで縮め、両者が同じ舞台に立つ新たなイベントの開催につながるのか。

 マッチの勝敗はさておき、そこが何より興味深い。

文・舩越園子
ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学客員教授。東京都出身。百貨店、広告代理店に勤務後、1989年にフリーライターとして独立。1993年に渡米。在米ゴルフジャーナリストとして25年間、現地で取材を続け、日本の数多くのメディアから記事やコラムを発信し続けてきた。2019年から拠点を日本へ移し、執筆活動のほか、講演やTV・ラジオにも活躍の場を広げている。

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