「プレーオフのシステムは馬鹿げている」と不満のシェフラーが年間王者に PGAツアーは変更を検討せざるを得なくなった?

プレーオフ最終戦「ツアー選手権」が終了し、注目された年間王者の称号と2500万ドル(約36億円)の行方は世界ランキング1位のスコッティ・シェフラーに決まった。しかし、めでたくハッピーエンドとなったとはいえ、シェフラー自身はプレーオフのシステムに不満を持っているようだ。

「ベストプレーヤーを選び出すレースにはなりえない」

 PGAツアーのプレーオフ最終戦「ツアー選手権」は、初日から首位を守り通したスコッティ・シェフラーが2位と4打差の通算30アンダーで完全優勝を達成。自身初の年間王者に輝き、ボーナスの2500万ドル(約36億円)を手に入れた。

 通算26アンダーのコリン・モリカワが2位、通算24アンダーのサヒース・ティーガラが3位。

 フェデックスカップ・ランキング3位で今大会を迎えた松山英樹は、残念ながら本領発揮とはいかず、通算16アンダーで9位タイに終わった。期待された約36億円を手に入れることはできなかったが、9位タイでもボーナスは160万8333ドル(約2億3500万円)と破格だった。

PGAツアーのジェイ・モナハン会長から優勝杯を受け取るスコッティ・シェフラー 写真:Getty Images

PGAツアーのジェイ・モナハン会長から優勝杯を受け取るスコッティ・シェフラー 写真:Getty Images

 最終戦のツアー選手権は、プレーオフ第2戦の「BMW選手権」終了時点におけるフェデックスカップ・ランキングに応じて、あらかじめスコアに差をつけて初日をティーオフする「スタッガード・スタート方式」。

 ランク1位だったシェフラーは10アンダー、ランク2位だったザンダー・シャウフェレは8アンダー、ランク3位だった松山は7アンダーから初日の1番をスタートした。

 そして、最も有利な位置から出たシェフラーが、4日間72ホールを首位で回り終えて勝利したことは、ある意味、妥当な結果と言えそうである。

 そしてまた、マスターズを含む今季7勝目を挙げたシェフラーが年間王者に輝き、約36億円のビッグボーナスを手にしたことも「そうあって然るべき」と誰もが頷ける結果だった。

 だが、それはあくまでも結果的にそうなったことであり、そうならなかった可能性はもちろんあった。

 シェフラー自身、プレーオフ第1戦の「フェデックス・セントジュード選手権」開幕前には、こんな懸念と不満を口にした。

「プレーオフシリーズは馬鹿げている。シーズンを通じたベストプレーヤーを選び出すレースにはなりえない。例えば(今、ランク1位の)僕が最終戦のツアー選手権で首痛発症で途中棄権したら、僕は一気にランク30位に転落してしまう」

 ラスト1試合における結果が、あたかもシーズンを通じた評価のように扱われ、最終戦の結果(順位)に対して破格のボーナスが支給される現行システムに、シェフラーは大いなる疑問と不満を抱いていた。

 実際、シェフラーは2022年も23年もランク1位で最終戦を迎えながら、一昨年はローリー・マキロイに、昨年はビクトル・ホブランに年間王者の座を持っていかれた。

「馬鹿げている」という発言には、そんな過去2年間の悔しさや不満も含まれていたに違いない。だが、そうした心情面はさておき、今年のツアー選手権では、自分自身が勝利を挙げて年間王者に輝き、約36億円を懐に入れたところは、さすが世界ランキング1位の王者である。

 だが、シェフラーが指摘していたように、何らかの理由で彼が30位に終わる可能性はもちろんあった。

 一方で、過去に大逆転優勝を果たしたマキロイは「プレーオフのシステムは大好きだ。シーズンを通じたベストプレーヤーを選び出すという意味では、ベストなシステムではないかもしれないけど、誰にも逆転のチャンスがあるという意味では、ゴルフファンにとっても、チャンスを求める選手にとっても、ドキドキ感があって素晴らしい」と歓迎する。

 そんなふうに今のところは賛否両論。しかし、ハッピーエンドだったとはいえ、王者シェフラーの指摘が無視されることは、おそらくはなく、今後、PGAツアーは検討を重ねた上で、何かしらのアクションを起こすのではないだろうか。

かつてはツアー選手権優勝と年間王者は別だった

 PGAツアーにプレーオフシリーズが創設されたのは07年からで、初代の年間王者はタイガー・ウッズ。ボーナスは当時では想像を絶する「夢の10ミリオン(1000万ドル)」とあって、大きな話題になった。

 しかし、当初のシステムでは、ツアー選手権優勝者と年間王者が別々の選手になってしまい、09年は年間王者が再びウッズ、「ツアー選手権」優勝者はフィル・ミケルソンとなって、表彰式に2人のチャンピオンが並んで立つ珍現象が起こった。

 17年も年間王者はジャスティン・トーマス、ツアー選手権優勝者はザンダー・シャウフェレだった。

 そして、きわめつけが18年大会だった。4度目の腰の手術などを経て、ツアー選手権で奇跡の復活優勝を果たしたウッズばかりに注目が集まり、年間王者に輝いたジャスティン・ローズは、すっかり霞んでしまったのだ。

 せっかく10ミリオンという破格のボーナスを授けるというのに、そのチャンピオン(年間王者)が陰の存在になってしまうのでは、PGAツアーが誇るプレーオフシリーズとは言えないのではないか。

 そんな声が高まった結果、翌19年からは、フェデックスカップ・ランキングに応じて、あらかじめスコアに差をつけてツアー選手権をスタートする「スタッガード・スタート方式」が採用・導入された。

 初年度となった19年にツアー選手権を制して年間王者になったのはマキロイだった。20年はダスティン・ジョンソン、21年はパトリック・カントレー、22年は再びマキロイ、そして昨年はホブラン。この5年間は現行システムに対する批判や不満はほとんど聞かれなかった。

 だが、今年はシェフラーが異議を唱え、しかし、そのシェフラー自身が年間王者のタイトルを獲得するという興味深い結果になった。

プレーオフの新システムに議論百出

 シェフラーが「プレーオフのシステムは馬鹿げている」と声を上げて以来、「それならば、こうしたらいいのでは?」という提案は、すでに方々から多数上がっている。

ツアー選手権は9位タイ。年間王者の夢は来年以降に持ち越しとなった松山英樹 写真:Getty Images

ツアー選手権は9位タイ。年間王者の夢は来年以降に持ち越しとなった松山英樹 写真:Getty Images

 たとえば、「ツアー選手権の4日間72ホール終了後、上位の4~10名だけのマッチプレーを追加する」「プレーオフ3試合の全ストローク数の合計で年間王者を競う」といったユニークなアイディアが提案されている傍らで、「昔のシステムに戻す」という少々投げやりな提案もある。

 そんな中、米スポーツ・イラストレイテッドの熟練記者、ボブ・ハリッグ氏の提案が、なかなか興味深い。

 ハリッグ氏は、極端にツアー選手権に偏っている「一極集中のマネー」を、少しばかりならして、他のボーナスや他の大会の賞金に回して分散させることで、シェフラーが指摘する「ツアー選手権における大どんでん返しの不公平」を解消できると説いている。
たとえば、ツアー選手権で用意されるボーナス総額100ミリオン(1億ドル)の一部を、レギュラーシーズン終了時に支給されるコムキャスト・ビジネス・トップ10のボーナスに回し、レギュラーシーズンにおける奮闘と功績に対して、現行システムより多く報いるべきだとしている。

 さらに、プレーオフ第1戦、フェデックス・セントジュード選手権の賞金総額を現行の2000万ドルから2500万ドルへ、第2戦のBMW選手権の賞金総額を現行の2000万ドルから3000万ドルへアップさせる。

 そして、最終戦のツアー選手権のボーナス総額は、現行の1億ドルから5000万ドルへと半減させ、優勝者(年間王者)のボーナスも現行の2500万ドルから900万ドルへと大幅ダウンさせ、逆に30位でも100万ドルがもらえるよう、傾斜配分の度合いを緩めることで、大逆転の度合いや可能性も縮小されると、ハリッグ氏は唱えている。

 このシステムなら、シェフラーのようなトップ中のトッププレーヤーが抱くアンフェア感は解消されそうである。しかし、マキロイが言う大逆転の可能性やドキドキ感は今より大幅にダウンするわけで、PGAツアーは当分、悩み続けることになりそうである。

文・舩越園子
ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学客員教授。東京都出身。百貨店、広告代理店に勤務後、1989年にフリーライターとして独立。1993年に渡米。在米ゴルフジャーナリストとして25年間、現地で取材を続け、日本の数多くのメディアから記事やコラムを発信し続けてきた。2019年から拠点を日本へ移し、執筆活動のほか、講演やTV・ラジオにも活躍の場を広げている。

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