松山英樹がプレーオフ初優勝! 佳境に入ったPGAツアーの来季日程が今年と“ほぼ同じ”だったことを喜ぶべき理由
佳境に入った2024年度のPGAツアー。プレーオフシリーズ第1戦、フェデックス・セントジュード選手権では松山英樹(まつやま・ひでき)がポストシーズン初優勝を飾った。一方で発表された来季日程は今年とほぼ同じ。ここ数年は毎年のようにビッグチェンジを繰り返してきただけに拍子抜けした人も多いかもしれないが、目まぐるしい変化が一服したことはむしろ喜ぶべきなのかもしれない。
プレーヤー・ファーストの施策はファンの理解を得られたか?
PGAツアーはすでに今季のレギュラーシーズンが終了し、フェデックスカップランキングの上位選手だけが出場できるプレーオフシリーズに突入している。
その第1戦、フェデックス・セントジュード選手権にはランキングの上位70名が出場。第2戦のBMW選手権には上位50名、最終戦のツアー選手権には上位30名が進み、ツアー選手権で優勝した選手が今季のPGAツアーの年間王者となって、2500万ドルのビッグボーナスを手に入れることになる。
そして今、日本のエース・松山英樹が、その年間王者の座に大きく近づきつつある。
プレーオフ第1戦のフェデックス・セントジュード選手権を見事に制した松山は、優勝賞金360万ドルを獲得し、フェデックスカップランキングは8位から3位へ一気に上昇した。
第2戦でも好プレー、好位置を維持して最終戦を迎え、その勢いのまま勝利して破格のボーナスと自身初の年間王者タイトルを手に入れることは、今、限りなく現実味を増している。
2021年マスターズを制して夢にまで見たメジャーチャンピオンとなり、今年のパリ五輪では銅メダルを獲得。そして今度は通算10勝目となる節目の勝利を挙げて、「ずっと目標にしてきた」というフェデックスチャンピオンへの道を歩んでいる松山。
今、彼のキャリアは、これまで以上に眩しく輝いている。
だが、そんな松山が身を置いているPGAツアーは、多くのスター選手をリブゴルフに奪われて、ここ数年は人気が低迷している。
PGAツアーのジェイ・モナハン会長は、一時期はリブゴルフとのマネー戦争に白旗を挙げたほどで、「PGAツアーは消滅するのでは?」「破綻するのでは?」と周囲から囁かれていたほどだった。
振り返れば、そもそもPGAツアーは昔から常に進化と変化を遂げていることを誇らしげにアピールしてきた。しかし、リブゴルフが創設されてからは、PGAツアーは新興勢力となったリブゴルフに対抗する形で、次々に新たなものを作り出し、目まぐるしい変化を遂げてきた。
各大会の賞金を高額化させ、賞金総額をリブゴルフと同等の2000万ドルまで引き上げたシグネチャーイベントを年間8試合も創設したことは、ご存じの通りである。
新たなボーナス制度も次々に作り出し、既存のボーナスもそれまで以上に高額化させて、お金の魅力でスター選手を引き留めようと必死になった。
かつては1000万ドルだった年間王者のボーナスが、今年2500万ドルまで跳ね上がったことは、まさに、その典型だ。
懐に入るものが格段に増えたという意味では、そうした変化は選手たちに喜ばれている。だが、その変化があまりにも目まぐるしく、あまりにも複雑だったため、なんとも難解で、ファンの理解が得られているとはお世辞にも言い難い。
おまけに、新しく生み出されたモノやコトの大半は、選手のための「プレーヤー・ファーストの施策」ばかりだ。そんなふうにファン不在の中で進化と変化を遂げてきたPGAツアーは、どんどん姿は変わるものの、ぎこちなく揺れ続けてきた。
しかし、つい先日、PGAツアーの来季のスケジュールが発表され、来季は一体何がどう変わるのだろうかと思いながら目を通して見たところ、今季と「ほぼ同じ」であることが、すぐに見て取れた。
今季と異なるのは、ウェルズファーゴ選手権のタイトルスポンサーが変わり、大会名がトゥルーイスト選手権に改められたこと。今季は全米オープンの前週に開催されたメモリアルトーナメントが、従来の前々週へ戻ったこと。その結果、RBCカナディアンオープンが全米オープン前週の開催となり、試合会場がTPCトロントに変更されること。
現段階では、変更点はその3つに留まっており、今季と来季は「ほぼ同じ」と言っても差し支えはない。
大揺れが続いていたPGAツアーだが、ここへ来て、今季と来季が大きく変わることなく「ほぼ同じ」となったことは、ようやくPGAツアーが安定し始めたことを示していると考えられる。
そう、この「ほぼ同じ」は、PGAツアーに平和と平穏が戻りつつあると言っても過言ではなく、「ほぼ同じ」だと知ったとき、私は胸を撫で下ろして、思わず安堵した。
リブゴルフとの交渉が終結に近づいている!?
しかし、その一方で、PGAツアーとリブゴルフ、そしてリブゴルフの母体であるPIF(パブリック・インベストメント・ファンド)との関係は、一体どうなっているのだろうかという疑問は残る。
PGAツアーとPIFの統合に向けての交渉役の筆頭は、選手理事でもあるタイガー・ウッズだ。
ウッズは2025年ライダーカップの米国キャプテンにほぼ内定していたが、PIFとの交渉を含めた選手理事の業務が「多忙だ」「交渉に集中したい」という理由で、権威あるライダーカップのキャプテンを辞退した。
すると、周囲からは「キャプテン業を辞退しなければならないほど、PIFとの交渉は難航しているのか?」「それほどPGAツアーの立場は悪化しているのか?」等々、さまざまな憶測や不安が広がった。
フェデックス・セントジュード選手権開幕前、PGAツアーのジェイ・モナハン会長は「PGAツアーとPIFは、複雑だが、高いレベルでの会話と交渉を続けている。とてもいい状態での会話であることが重要ポイントだ」と胸を張っていた。
選手理事の1人であるパトリック・カントレーも「ここ数か月、交渉は沈静化しているが、交渉が終結に近づいているかと問われたら、ある意味、そうだと思う」。
昨年6月にモナハン会長とPIFのヤセル・ルマイヤン会長が電撃的に「統合合意」を発表し、「和解」の文字まで踊った衝撃の日から、すでに1年以上が経過した。
しかし、PGAツアーとリブゴルフが仲良く一緒に試合を開催したり、何かを行ったりといった共同・協調のプロジェクトは、いまだに何一つ実現されていない。
それどころか、PGAツアーはPIFとの交渉を進める一方で、米コンソーシアムの「SSG(ストラテジック・スポーツ・グループ)」と新たなパートナーシップを結び、PIFは交渉の場から押し出されてしまった感さえある。
だが、メジャー4大会の主催団体は、おおむねリブゴルフ選手を受け入れる方向で動き始めている。
2028年ロス五輪からは、ゴルフの代表選考の基準が変更され、世界ランキング以外の何かが新しい指標とされて、「リブゴルフ選手がもっと参加できる五輪に変わる可能性が大だ」と米メディアは報じている。
そんな中、PGAツアーはリブゴルフやPIFと、どうやって手をつなごうかを依然として思案中だが、ともあれ、来季のスケジュールに激変が見られず、今季と「ほぼ同じ」になることは、PGAツアー内部の平和と平穏の表れである。
対するリブゴルフの来季日程はまだ発表されておらず、「これまで以上にワールドワイドになる」というのが、もっぱらの噂だ。
しかし、リブゴルフに変化があろうとなかろうと、来季のPGAツアーは今季と「ほぼ同じ」をきっちり貫いてほしい。
「来年もここで頑張る」「次こそはこの試合で勝つ」と心に誓っている選手たち、あるいは「またここに来て観戦したい」と感じてくれたファンの期待に応えるためにも、このあたりで「変わることなく安定しているPGAツアー」を披露して、不安を感じているファンや関係者を安心させていただきたい。
文・舩越園子
ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学客員教授。東京都出身。百貨店、広告代理店に勤務後、1989年にフリーライターとして独立。1993年に渡米。在米ゴルフジャーナリストとして25年間、現地で取材を続け、日本の数多くのメディアから記事やコラムを発信し続けてきた。2019年から拠点を日本へ移し、執筆活動のほか、講演やTV・ラジオにも活躍の場を広げている。
08/20 11:10
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