松山英樹は第2戦棄権でも“3番目に有利”な立場で36億円獲得に挑む 最も有利なシェフラーはプレーオフの在り方を疑問視!?

今週はPGAツアーのプレーオフ最終戦となる「ツアー選手権」が開催され、優勝者には年間王者の称号とともに2500万ドル(約36億円)が授けられる。松山英樹(まつやま・ひでき)はランキング3位で1位のスコッティ・シェフラーに3打のビハインドから競技を開始する。

シェフラーは10アンダー、松山は7アンダーから最終戦をスタート

 PGAツアーのプレーオフ第2戦「BMW選手権」は、38歳の米国人選手、キーガン・ブラッドリーが見事勝利を挙げ、いよいよ最終戦の「ツアー選手権」が幕を開けようとしている。

初の年間王者タイトルに挑む松山英樹 写真:Getty Images

初の年間王者タイトルに挑む松山英樹 写真:Getty Images

 ブラッドリーはプレーオフ第1戦の「フェデックス・セントジュード選手権」終了後にフェデックスカップ・ランキング50位となり、ぎりぎりで第2戦に滑り込んだのだが、そんな瀬戸際から勝者に輝き、ランキングを4位へ急上昇させて今週のツアー選手権に臨む急展開を、ブラッドリー自身はこんなふうに語っていた。

「ゴルフは本当に最後の最後まで何が起こるか分からない」

 日本のファンが気になっているのは、もちろん松山英樹の動向だろう。

 松山はプレーオフ第1戦で勝利を挙げ、フェデックスカップ・ランキングを8位から3位へ一気に上昇させた。しかし、第2戦のBMW選手権では初日を2位で好発進したというのに、腰痛悪化により2日目のスタート前にやむなく棄権。

 だが、松山のフェデックスカップ・ランキングは、棄権したにもかかわらず、3位のまま変わらなかったため、トップ30だけが出場する今週の最終戦、ツアー選手権では、30人の中で3番目に有利な状況から初日をスタートすることができる。

 この最終戦のシステムは、2019年大会から採用されている「スタッガード・スタート方式」と呼ばれるもので、選手のランキングに応じて、あらかじめスタートラインに差をつけるハンディキャップ方式。

 フェデックスカップ・ランキング1位でツアー選手権に臨むスコッティ・シェフラーは、10アンダーから初日の1番をティーオフし、ランク2位のザンダー・シャウフェレは8アンダーから、そしてランク3位の松山は7アンダーから初日をスタートすることになる。

 以下、ランク4位は6アンダー、5位は5アンダー、6位から10位は4アンダーという具合に順次アンダー数は減らされていき、ランク26位から30位の「最下位グループ」はイーブンパーの位置から大会に臨む。

 しかし、たとえスタートラインで大きな差を付けられていようとも、優勝の可能性は30名全員にある。

 そして、たとえ何位の何アンダーから挑んだとしても、このツアー選手権で優勝した選手が年間王者(フェデックスカップ・チャンピオン)となり、2500万ドル(約36億円超)という超破格のボーナスを手にすることになる。

“タイガーのため?”から改良が続けられてきたプレーオフ

 PGAツアーにフェデックスカップなるシステムとプレーオフなる大会シリーズが創設されたのは07年からだった。

 当初はプレーオフシリーズは4試合から成り、年間王者に授けられたボーナスは10ミリオン(1000万ドル)だった。

 現在の2500万ドル(約36億円)と比べてしまうと、1000万ドルは低い設定だったように感じられるかもしれないが、当時は「夢の10ミリオンを競い合うドキドキの戦い」と銘打たれ、実際、選手たちは緊張と興奮をもってプレーオフシリーズを戦っていた。

 だが、初代の年間王者に輝いたのはタイガー・ウッズで、09年の年間王者もウッズだったため、「結局、王者ウッズのためのシステムなのでは?」「PGAツアーはウッズに忖度してばかりで、プレーオフのシステムはアンフェアだ」といった批判が方々から噴出した。

 最終戦の終了を待たずして、プレーオフの途中の段階で年間王者が決まってしまったこともあり、「どこがドキドキの戦いなのか?」と揶揄された。

 ツアー選手権が終了したとき、大会優勝者と年間王者がそれぞれ誕生してしまい、表彰式に2人のチャンピオンが立つという奇妙な現象も起こった。

 そのたびにPGAツアーはプレーオフのシステムの改良を続け、フェアでなおかつスリリングな戦いになるよう、試行錯誤を続けてきた。

「プレーオフは本当のベストプレーヤーに報いるものではない」

 そして、19年からはプレーオフシリーズが4試合から3試合に変わった。

 プレーオフ第1戦に出場できる人数も、当初はフェデックスカップ・ランキングの上位125名とされていたが、現在は第1戦が70名、第2戦が50名、最終戦は30名というより一層の少数精鋭になった。

2500万ドルに最も近い位置からのスタートとなるスコッティ・シェフラー 写真:Getty Images

2500万ドルに最も近い位置からのスタートとなるスコッティ・シェフラー 写真:Getty Images

 さらに、19年からは前述の通り、あらかじめ差を付けた状態から初日をスタートする「スタッガード・スタート方式」が採り入れられて現在に至っている。

 最終戦終了後に授けられるボーナスの金額も時代とともに変遷している。最初は「夢の10ミリオン(1000万ドル)」だったが、いつしか15ミリオンとなり、昨年は18ミリオン、そして今年は25ミリオン(2500万ドル)。

 ボーナスの急激な上昇は、言うまでもなくリブゴルフへの対抗策の一環と考えられるが、懐に入るものが増えることは、選手にとってはウエルカムである。

 第1戦に出場できるのは70名という人数の設定も、シーズンを通して安定して上位を続けた選手という評価を反映しているフェアな数字だと言えそうで、第2戦が50名、最終戦が30名という数字に対しても、「少なすぎる」「アンフェア」といった声は、ほとんど上がってはいない。

 それどころか、ランク50位のギリギリで第2戦のBMW選手権に滑り込んだブラッドリーが、そこで優勝してランク4位へ急浮上して最終戦に進むという大逆転、大復活が可能となっている現行システムは、誰にとってもフェアなチャンスを含んでいると言っていいのではないだろうか。

 しかし、現在、世界ランキングでもフェデックスカップ・ランキングでも1位のシェフラーは、最も有利な10アンダーからツアー選手権をスタートしようとしているが、そのシェフラー自身が「プレーオフはレギュラーシーズンの本当のベストプレーヤーに報いるものではなく、ツアー選手権で勝った人が報われるものだ」と語り、ある意味、プレーオフの在り方を疑問視している。

 確かにそういう面はある。プレーオフ3試合において、とりわけ最終戦で好調だった選手、勝利した選手が最も報われるこのプレーオフは「他のスポーツで行なわれているような本当のプレーオフとは異なっている」と米メディアも指摘している。

 だが、今週のツアー選手権で、果たして誰が勝ち、2500万ドルを獲得するのかには、興味をそそられる。

 米国のゴルフファンはシェフラーやシャウフェレの勝利に期待を膨らませ、日本のゴルフファンは、エース松山がマスターズ優勝と五輪銅メダルに続き、初の年間王者に輝くのではないか、36億円を手に入れるのではないかと、わくわくドキドキしている。

 そうしたドキドキ感が醸成され、大きな注目が寄せられているのだから、とりあえず現在のフェデックスカップとプレーオフシリーズは成功していると言っていいのではないだろうか。

 間もなく始まるイーストレイクでの4日間が、とても楽しみである。

文・舩越園子
ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学客員教授。東京都出身。百貨店、広告代理店に勤務後、1989年にフリーライターとして独立。1993年に渡米。在米ゴルフジャーナリストとして25年間、現地で取材を続け、日本の数多くのメディアから記事やコラムを発信し続けてきた。2019年から拠点を日本へ移し、執筆活動のほか、講演やTV・ラジオにも活躍の場を広げている。

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