バイデン米大統領、国連最後の演説へ 抑止力低下がもたらした世界の混沌

【ワシントン=渡辺浩生】バイデン米大統領は24日、国連総会で最後の一般討論演説に臨む。ウクライナ支援に結実した同盟・友好国との連携をレガシー(遺産)とアピールするが、実際には敵対勢力が結託して米主導の世界秩序に挑戦。第二次大戦以降最も危うい世界のかじ取りを後継に委ねることになりそうだ。

バイデン氏は演説で、世界規模の課題に対する米国の指導力と国際協調の復活をレガシーとして訴える。政権高官は「バイデン氏は米国が世界の舞台に復帰して他国と協調し、重大な課題の解決に団結する新たな道を示すビジョンを持って就任した」と回想した。

バイデン氏は就任時、民主主義と専制主義の対立と位置づける世界観を示した。現実には中露、イラン、北朝鮮の枢軸化を許し、米国と同盟国は第二次大戦前の1930年代に匹敵、あるいはそれ以上に重大な脅威に直面している-と多くの外交専門家が指摘する。

混乱を極めた2021年8月のアフガニスタンからの米軍撤収が最大の起点となったのは言うまでもない。先立つ同年5月には露産天然ガスを欧州に供給するパイプライン「ノルドストリーム2」の事業会社への制裁を見送った。これらが敵対勢力に弱腰の印象を与え、「米国の抑止力に対する信頼性は崩壊した」(米紙ウォールストリート・ジャーナル社説)。

ロシアによる22年2月のウクライナ侵略も抑止の失敗といえた。バイデン氏は核大国ロシアとの直接衝突を恐れ、米軍派遣の可能性も早々と打ち消した。プーチン露大統領に少ない犠牲で侵略できるとの誤解を与えたのは否めない。

ウクライナが攻撃力の高い兵器を要求しても、プーチン氏の威嚇を恐れて迅速な供与に踏み切れず、反撃の時機を逸する状況を重ねている。

昨年10月のイスラム原理主義組織ハマスとイスラエルの戦闘開始から間もなく1年。イスラエルはレバノンの親イラン民兵組織ヒズボラの拠点に対する大規模空爆を始めた。バイデン政権は中東への影響力を紛争の沈静化に生かせず、その隙に中国や北朝鮮は東アジアで挑発を強めている。

国際政治学者のウォルター・ラッセル・ミード氏はシンクタンクの行事で「今の世界は米国の力の支配による平和の衰退が加速している状況」と指摘した。

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